公害「PFOA」

2歳〜12歳の8割がPFASに高濃度曝露/米国指針で「処置必要」/岡山・吉備中央町の水道水汚染で血液検査

2025年01月28日 21時30分  中川七海

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吉備中央町の山本雅則町長(左)、塚田恵子保健課長=2025年1月28日、撮影/中川七海

国指針28倍のPFOAが水道水から検出された岡山県吉備中央町。2025年1月28日、町は町民を対象とした、PFOAを含むPFAS血液検査の結果を公表した。

検査を受けた町民709人のうち、87%に上る619人が、米国政府が採用する指針で「処置が必要」とされる値を超えていた。

2歳〜12歳の子どもの高濃度曝露も著しい。65人中、82%に上る53人が、同指針値を超えた。

4歳の息子の高濃度曝露が判明している母親は、Tansaの取材にこう語った。

「PFOAによる健康影響の一つが、息子に現れている。PFOAが原因かはわからないけれど、手遅れになる前に、定期的に健康検査ができる体制を確立してほしい」

一方、山本雅則町長は「思った以上に高い数値だった」と言うものの、PFOA曝露による疾患が出た場合も、町による費用負担の予定はないと述べた。

町民の要望で実現した血液検査

吉備中央町では2023年10月、水道水のPFOA汚染が発覚した。人口1万人強の町で、約500世帯1000人に供給される円城浄水場から、1,400 ナノグラム/LのPFOAが検出された。

国の指針値50ナノグラム/Lに対し、28倍もの値だ。町民たちは少なくとも3年間、この水を日常的に飲用していた。

町は、2020年の時点で、国指針16倍の800ナノグラム/Lを検出していたが、「1ナノグラム/L未満」と虚偽報告。翌2021年は1,200ナノグラム/L、2022年は1,400ナノグラム/Lを検出したが、対策を取らずに供給を続けていた。2023年10月に、県の職員が高濃度に気づいた。

汚染発覚後すぐ、町民たちは町に対して血液検査の実施を求めた。だが町は当初、「検査をしても解釈が難しい」などと及び腰。町民らでつくる「円城浄水場PFAS問題有志の会」は自ら京都大学の研究チームに検査を依頼した。検査を受けた27人の平均値は171.2ナノグラム/mLで、環境省が公表する全国平均2.2ナノグラム/mLの78倍だった。

有志の会は、全ての町民対象の血液検査の必要性を訴えてきた。2023年11月には、町民1038人分の署名を集めて山本町長に提出。汚染発覚から1年あまりの2024年11月末、ようやく町費による検査が実現し、約2カ月後のきょう結果公表に至った。

腎臓がん、精巣がん、潰瘍性大腸炎、甲状腺疾患などのリスク

PFOAを含む7種類のPFASのそれぞれの値が公表された。

検査結果では、1ナノグラム/mLに満たないPFASもある中で、水道水に混入していたPFOAの濃度が圧倒的に高かった。(単位はナノグラム/mL)

PFOA PFOS PFHxS PFNA PFDA PFUnA NMeFOSAA
平均値 135.6 8.3 0.9 3.4 1.1 2.2 0

 

PFOAは、PFASの中でも最も発がん性が確実だと報告されている物質だ。WHOは「発がん性は確実」と断定している。

検査を受けた2歳〜102歳の吉備中央町民709人のPFOA値は、環境省が公表するPFOA曝露の全国平均値2.2ナノグラム/mLをはるかに上回っていた。

平均値:135.6ナノグラム/mL 全国平均62倍

 

中央値:109.8ナノグラム/mL 全国平均50倍

709人の血中濃度(7PFAS)の分布は、次のとおりだ。

2ナノグラム/mL未満 0.1%
2ナノグラム/mL~10ナノグラム/mL未満 2.4%
10ナノグラム/mL~20ナノグラム/mL未満 10.0%
20ナノグラム/mL~100ナノグラム/mL未満 31.0%
100ナノグラム/mL~200ナノグラム/mL未満 25.7%
200ナノグラム/mL~300ナノグラム/mL未満 18.1%
300ナノグラム/mL~400ナノグラム/mL未満 8.3%
400ナノグラム/mL~500ナノグラム/mL未満 3.2%
500ナノグラム/mL以上 1.1%

 

米国政府は、「米国科学・工学・医学アカデミー」が公表する指針を採用している。指針では、7つの PFASの合計値が20ナノグラム/mLを超えた人については、「腎臓がんや精巣がん、潰瘍性大腸炎、甲状腺疾患などのリスクを考慮した処置が必要」と示している。

吉備中央町では、検査を受けた87.4%に当たる619人が20ナノグラム/mLを超過していた。

2歳〜12歳の子ども65人の血中濃度(7PFAS)の分布は、以下のとおりだ。

2ナノグラム/mL未満 0%
2ナノグラム/mL~10ナノグラム/mL未満 1.5%
10ナノグラム/mL~20ナノグラム/mL未満 16.9%
20ナノグラム/mL~100ナノグラム/mL未満 29.2%
100ナノグラム/mL~200ナノグラム/mL未満 35.4%
200ナノグラム/mL~300ナノグラム/mL未満 15.4%
300ナノグラム/mL~400ナノグラム/mL未満 0%
400ナノグラム/mL~500ナノグラム/mL未満 1.5%
500ナノグラム/mL以上 0%

 

20ナノグラム/mL超は82%(53人)に上る。

PFOAをはじめとするPFASは、幼い子どもにも影響することが分かっている。肥満症になりやすくなったり、発達神経にも影響を与えたりする。胎児の時期に母親がPFASを摂取した場合、低体重で出生することもある。

EU環境庁が公表するPFASの健康影響。確実性の高い症状を抜粋

全国的にも突出した数値

PFAS汚染の影響で、住民の高濃度曝露が明らかになっている地域と比べても、吉備中央町民の血中濃度は突出している。

吉備中央町(709人) 平均135.6ナノグラム/mL

 

大阪府摂津市のダイキン工業淀川製作所(PFOA工場)周辺 平均101.2ナノグラム/mL

 

沖縄県宜野湾市 平均33.5ナノグラム/mL

 

岐阜県各務原市 平均32.2ナノグラム/mL

 

東京都多摩地区 平均24.2ナノグラム/mL

健康影響が出ても費用は町民の自己負担で

検査結果公表の記者会見には、山本町長と塚田恵子保健課長が臨んだ。

山本町長は、今回の結果を「思った以上に高い数値」と語った。

「健康という面では、今なお、地域の方々に多くの不安を与えております。改めて、申し訳なく思っております」「町民に寄り添った対応を続けていきたい」とも述べた。2月16日に住民説明会を実施する。

だが、PFOA曝露や健康影響に対する具体策がない。国に対して「指針を打ち出してほしい」「一自治体だけではどうしようもないことは、国が対応してほしい」と期待するだけだ。

町としてやることは、主に2つだ。

一つは、500ナノグラム/mL以上の町民への個別訪問だ。中には、718.8ナノグラム/mLのPFOAを検出した町民がいる。だが、早急な健康検査の受診を促すわけではないという。

大阪では、PFOA製造企業のダイキン工業による汚染に対し、「大阪PFAS汚染と健康を考える会」が約1200人対象のPFAS血液検査を実施。ダイキンの従業員が、596.6ナノグラム/mLのPFOAを曝露していたことを発見した。会の医師たちは、高い濃度を検出した人には個別訪問に加え、医師としてのフォローアップを続けている。

もう一つは、該当地区の住民を対象とした、特定健診や後期高齢者健診の無料実施だ。だが、これらの健診にはPFOAに曝露することによって生じる疾患の検査が全て含まれているわけではない。PFOA曝露の影響を、どう調べればいいのか。

町は、「健康面で何か症状があれば、医療機関受診をお勧めします」と通知するという。経過観察のために5年後にも血液検査を実施すると述べたが、健康への影響は町民自身で調べなければいけないということだ。

医療費を町が負担するのか山本町長に尋ねたが、今のところは自己負担とし、それ以上のことは決めていないという。

町が負担しないのであれば、汚染を引き起こした満栄工業や、同社へPFOA含有活性炭を引き渡した排出源企業に費用負担を求めるのか。その点を問うと山本町長が答えた。

「活性炭を置かれたというのは歴然たる事実ですので、満栄工業さんにはきちっと請求はさせていただこうと思います」

「血液検査の費用についても今後、追加で請求はさせていただこうと思います」

「すでに(請求)したものがございますので、その返答がまだきちっと返ってきていないので。その返答を待たないといけません」

母の思い

PFOAに高濃度曝露した4歳の息子の母親は、こう述べる。

「『心配なら自分たちで受診しなさい』と言われても・・・。子どもは身体が小さいし、定期的に検査していかないと手遅れになる可能性だってある」

「PFOAが入った水道水を供給していた責任は町にもありますよね。通常の健康診断ではチェックされないPFOA特有の症状についても、定期的に検査できるようにしてほしいです」

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