人質司法 なぜ労組は狙われたのか

【作られた京都事件 -後編】暴力団捜査の「組対」を投入/警察がフェイクニュースの源に

2025年02月25日 19時10分  渡辺周、中川七海

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京都市上京区にある京都地検

生コン産業の労働組合「関生(かんなま)支部」の京都での活動に対し、検察は懲役10年を求刑した。大阪、滋賀、京都、和歌山の近畿一円での弾圧の中でも、京都での求刑が最も重い。憲法が保障する労組活動を罪に問うこと自体ナンセンスだが、10年という求刑は常軌を逸している。

しかし、常軌を逸しているのは求刑の重さだけではない。

警察が、暴力団捜査を担当する「組織犯罪対策課」(組対=ソタイ)を投入したのだ。関生支部への弾圧は1980年代から断続的に繰り返されてきたが、警察の担当部署は「思想犯」を捜査する「警備課」(公安警察)だった。ところが2018年から始まった今回の弾圧では、京都府警と滋賀県警が組対を投入した。

組対が捜査を担うということは、警察が関生支部に暴力団のような「反社会的勢力」のレッテルを貼ったということだ。

警察が貼ったレッテルに、マスメディアは疑問を持たない。SNS上では「関生支部=反社会的勢力」というフェイクニュースが広がった。懲役10年を求刑した捜査権力の増長は、警察発の情報に踊らされている世論が支えている。

警察の言い分をそのまま流すマスメディア

2019年に現委員長の湯川裕司氏らが京都府警に逮捕された時、マスメディアは警察の主張をそのまま流した。

「社長を脅し、支部員の男性を正社員として雇うよう迫った疑い」(2019年6月20日付、朝日新聞)

「京都生コンクリート協同組合」(南区)の男性理事(69)に対して因縁をつけ、解決金を要求。その後も嫌がらせを繰り返し、14年8月頃、南区のホテルで、同協同組合から1億5000万円を脅し取った疑い」(2019年9月5日、読売新聞)

「生コン運送会社(京都市南区)が解散する際、組合員7人の退職金を支払う必要があるなどと因縁を付け、26年8月に1億5千万円を脅し取ったとしている」(2019年9月5日、産経新聞)

「正社員として雇う」ことや「退職金を払う」ことを要求するのは当然だ。暴力団のように「みかじめ料」を要求しているわけではない。普通は、これが本当に恐喝なのかという疑問を抱く。

しかし、各社ともスルーしてしまっている。関生支部側の言い分も一切、載っていない。警察にしか取材していないのだろう。取材していれば「因縁をつけられ脅された」と警察が説明しているのは、久貝博司氏のことで、彼は府警と京都地検に犯罪者として仕立て上げられるのと引き換えに、虚偽の供述をしたことが分かるはずだ。「作られた京都事件 -前編」で報じた通りだ。

なぜこのような取材姿勢になってしまうのか。

マスメディアの記者が普段から警察・検察に飼い慣らされていることに加え、暴力団の捜査を担当する組対が出てきたことが大きいと考えられる。警察が関生支部に貼った「反社会的勢力」というレッテルに、記者が引きずられてしまっているのだ。

捜査権力を取材する報道機関の防波堤がない中、SNS上では関生支部は暴力団と同じであるというようなフェイクニュースが氾濫した。

暴力団関係者を見逃す警察

しかし、ここで2つの疑問が出てくる。

一つは、関生支部に「脅された」と警察に被害を訴えた経営者の側に、暴力団関係者や元暴力団員が含まれていたことだ。

例えば、京都の事件では関生支部のストライキをやめさせるため、経営者側は暴力団関係者を交渉に当たらせた。そのことは裁判でも出てくる。

1991年に暴力団対策法ができて以来、警察は徹底的に暴力団を社会から排除してきた。ごく軽微な犯罪でも強制捜査を繰り返し、暴力団の壊滅を目的としている。

それにもかかわらず、なぜ暴力団捜査を担う京都府警の組対は、経営側が関生支部との交渉に暴力団関係者を送り込んだことを見逃すのか。

Tansaは楠芳伸・警察庁長官に「なぜ不問にするのか」と質問状を送ったが、警察庁広報室から「個別の事件に関わることなので、お答えは差し控えます」と返ってきただけだった。

もう一つの疑問は、今回の関生支部への弾圧以前は、「思想犯」を捜査する警備部(公安警察)が担ってきたことだ。

警察は極端なまでの縦割り組織だ。各都道府県警、部署の縄張り意識が強い。数々の未解決事件では、横の連携が不足していた。

特に刑事部と警備部は、これが同じ警察かと思うほどだ。

例えば、国松孝次・警察庁長官が狙撃された時、警視庁公安部はオウム真理教の信者だった人物を犯人とにらんで捜査した。一方、刑事部に属する捜査一課は、狙撃事件の後に別の事件で服役していた人物を犯人とみて捜査を進めた。

結果、公安部が逮捕した人物は嫌疑不十分で不起訴。捜査一課が追った人物は、国松長官狙撃を裏付ける証拠が出てきたが、検挙できないまま時効となった。

しかも時効の際、警視庁の青木五郎・公安部長は記者会見を開いて「オウム真理教のグループが、松本智津夫教祖の意思の下、組織的に敢行したテロだった」と断定した。検察が不起訴処分としたにもかかわらず、警察が「やっぱりあの人物が犯人だ」と主張するのは、法治国家の警察の、しかも一部長が言うことではない。それほどに、部署ごとで強烈なプライドを持っているのが警察だ。

ところが、関生支部での弾圧では初めて刑事部傘下の組対が投入された。大阪府警と和歌山県警が管轄の関生支部の事件では、今回も警備部が捜査しているので、府県警と部署を越えて警察が連携していることになる。

2025年2月26日に京都地裁で判決

普段はバラバラの警察が、なぜ関生支部の捜査では連携しているのか。

警察庁が指示を出しているとしか考えられない。

「こんなことは現場の府県警同士では絶対に調整がつかない」と、ある事例を教えてくれたのは、関生支部側の永嶋靖久弁護士だ。永嶋弁護士は、各事件の逮捕日と罪名を記した一覧表の3箇所に「ほら、見てみ」とピンクの蛍光ペンで線を引いた。

①2019年7月17日、京都府警が恐喝で湯川氏と当時の武建一委員長を逮捕

②2019年7月17日、滋賀県警が威力業務妨害で関生支部の組合員4人を逮捕

③2019年8月20日、滋賀県警が威力業務妨害で湯川氏を逮捕

永嶋弁護士によると、②の事件で湯川氏は逮捕されていないが、すでに共犯として名前が挙がっていた。だが滋賀県警が逮捕してしまうと、①の京都府警による逮捕とバッティングしてしまう。そのため、滋賀県警による湯川氏の威力業務妨害での逮捕は③に延期した。目的は湯川氏の勾留期間をなるべく長くするためだ。

組対を投入して「反社会的勢力」のレッテルを貼る。湯川氏の身柄をなるべく長期間勾留し、「トップ不在」の状態にすることで関生支部の弱体化を図る。警察組織を挙げての意思ということだ。

京都地裁での判決公判は、明日2025年2月26日午前10時に開廷する。

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