人質司法 なぜ労組は狙われたのか

滋賀県警「何回でも捕まえるし」 憲法違反の労組脱退を強いる警察・検察/関生支部執行委員・山本智さん<関西生コン事件・証言#3>

2025年03月05日 19時25分  渡辺周、中川七海

警察と検察は、「関生(かんなま)支部」をどのようにして壊滅させようとしたのか。Tansaは身柄を勾留されて取り調べを受けた組合員たちの証言を集めた。

今回は、山本智さん。ミキサー車の運転手として働く傍ら、労働者からの相談に乗るなど、関生支部の執行委員として活動する。

関生支部への大規模な弾圧がスタートした2018年、山本さんは滋賀県警組織犯罪対策課のターゲットにされる。山本さんは労働者や通行人の安全を守るため、工事現場に危険や法令(コンプライアンス)違反がないかを確認。違反が見つかれば指摘した。これが工事の妨害に当たるとして、威力業務妨害の容疑で逮捕された。

「あ、来よった」

逮捕は、2018年11月末ですね。ほんとに、いきなりでした。ちょうど朝6時に起きて、台所の電気を点けてお弁当を作る用意をしてたら来たんです。僕のアパートは2階なんですけど、足音が「ダダダダダ・・・」って。

「あ、来よった」って思って。2017年末から、「もう、ちょっとやばいんとちゃうか」という雰囲気を、関生内ではみんな感じてたんですよね。僕はなかったですけど、私服の刑事に監視されているメンバーが結構いましたから。実際、同じ日に湯川(裕司)委員長も逮捕されています。ここから、関生支部への大がかりな弾圧が始まったんです。

一人暮らし、ワンルームの部屋に捜査員9人が一斉に入ってきました。滋賀県警ですね。捜査員に「リーダーは誰? 」って聞いたら、「組織犯罪対策課のハヤシ」って答えました。ガサ入れ(家宅捜索)が始まったんですけど、持っていくものが無いんですよ。結局、スマホとカード類。スマホはパスワードを答えさせられて、クレジットカードとかETCカードとか、容疑と関係ないようなものが押収されましたね。

目的は、捜査ではなく脱退強要

取り調べは、容疑の取り調べではなく、関生支部からの脱退強要でした。結局100日間勾留されるんですけど、脱退強要が一番きつかったね。「また逮捕されるよ、このままでは。だから自分の道は考えて、もうぼちぼちと辞める時とちゃいます? 」って。勾留中に言われたことは、ノートに記録していました。

警察の取り調べは彦根署でした。担当は滋賀県警本部・捜査2課の西澤という男性です。「上の者(関生支部幹部)は金をいっぱい貯めとると。だからお前らは小間使いやぞ」、「他のもんを引っ張って辞める方向には考えへんのか」って。「ここ(滋賀)でコンプライアンス活動やったら、何回でも捕まえるし」とも言われました。

検察は、横麻由子という検事ですね。「なぜ辞めないんですか。どう考えてはるんですか」とか「この機会に組合を抜けますか。家族はどう思ってるんですか」とか。「今後もコンプライアンス活動をやって、また逮捕されるんですか」って。「組合の中には、組合活動にストレスを感じている仲間もいますよ。山本さん、どう思いますか」とかね。

どこかで人を巻き込んで辞めさせる方向というのがありましたね。

死亡事故を防ぐために

僕は2000年からミキサー運転手なんですよ。友人の紹介もあって、関生組合員になったのは2012年、44歳でした。

もともとは、月に18日走っても30万円いかないぐらいの給料でした。でも関生組合員になって、労働条件が改善されて、40万円以上もらえるようになったんです。同じ日数で手取りが10万円ぐらいアップして、びっくりしました。どれぐらい働いたら、どれぐらいもらえる、という金額がちゃんと分かったんです。

それまでは、(職場で)上から言われて「はいはい、わかりました」と。ゴマすりながら仕事をしていたような人間が、もうコロッと180度変わりました。偉そうになるんじゃなくて、周りの人、労働者のことを考えて、ということを学びましたね。

労組活動の一つが、コンプライアンス活動です。工事現場って街中にありますよね。死亡事故もあるし、周りに一般市民の方がいる。僕が一番心配してたのが、一般市民の方に迷惑がかかること。それが一番ダメなことなので。あと、工事現場の中の労働者の安全を考えてもらうために。僕は一生懸命やってました。法令遵守してくださいねって。大きな工事現場ではダンプとかが出入りして、死亡事故がちょこちょこあるんですよ。歩行者を轢いたとかね。労働災害というのは建設現場が一番多いでしょ。そういうのを聞いていると、もっとコンプライアンス活動をやらなあかんなと。やっぱり死亡事故が一番怖いですからね。

でもその活動で、逮捕されたんです。

一番しんどかったこと

一番しんどかったのは、当時の彼女が離れてしまったことですね。14年間付き合ってたんですけど、逮捕を機にね・・・。

捕まってからは、家の鍵は彼女に預けてたんです。保釈された時、自分のスマホは押収されてるんで、警察官から電話を借りて彼女に電話したんです。「今出てきたわ、ちょっと家の鍵を持ってきてくれへん? 」って。でも様子が変やったんですよね。「なんで持って行かなあかんの」って。結局、組合員の仲間に迎えに来てもらって、自宅近くのコンビニで彼女から鍵だけ受け取りました。もう会わないことにもなりました。

理由はね、怖くて聞けなかったんです。警察から電話したことが嫌やったんかなとか、自分が逮捕されている間に何かあったんかなとか考えました。警察や検察から連絡が来たのかはわかりません。でも彼女にこれ以上負担をかけたくないし。今も疑問に思ってますけど、聞いてません。

名古屋へ

労組活動を身近な人や世間に理解してもらえないのはつらいですね。どうしたら分かってもらえるか、難しいことだと思うんですけど、一つずつやっています。

僕は今、名古屋でいろんな分会を立ち上げて、組合員を増やしていく取り組みをやってるんです。名古屋って、トラック運転手さんの賃金がものすごく低いんですよ。関西の20年ぐらい前の金額です。それに、未払い残業も多くて。ビル建設やリニア関連の工事はいっぱいあるんですけど、ミキサー運転手は休憩がなかったり。それで、関生に相談がきたんです。

僕も初めは知らなかったんですけど、そういうのは全部変えていかなあかんと思って。労組の志とか、組織の仕方とか教えて応援してるんです。名古屋でも組合員の人数が増えていってます。

労働者の権利を学校教育で

僕は関生に入ってから、勉強をしたり集会に参加したりするようになりました。いろんな労組が集まる会議とか市民団体のデモとか。最近では、ガザの反戦デモもありますね。

でも今は、そういった活動や、特に労組のことは学校で教わらないじゃないですか。昔は国鉄のストライキとかがあって、近所でもしょっちゅう電車が止まってました。駅に向かうサラリーマンが「列車止まったし会社休むか」みたいな。でも今は逆で、ストライキが起きたら迷惑だと思う人が多いみたいですね。

やっぱり、教育から始まると思います。小学校から産別労組というものを教えて、労働者の権利を学ぶべきやと思います。

僕は労働組合に携わってきて、この事件で逮捕されて勾留されましたけど、一切恥じることはしていません。この間、いろんなニュースで冤罪事件が出てきてます。やっぱり(社会が)そういう方向に向いている。その中で僕らも闘って、なんとかみんな無罪を勝ち取りたいです。

この事件は冤罪だったというのを、世間の皆さんに知っていただきたいなと思います。

【取材者後記】「自分が偉い」と勘違いする検事、正反対の労組活動/リポーター 中川七海

山本さんは勾留中に、取り調べの内容を記録していた。日時や場所、天気、取調官の名前。取り調べの内容だけでなく、雑談の中身や取調官の態度も書き記した。

取調官の発言は、明らかに「容疑者への取り調べ」ではなかった。仲間を連れて組合を脱退するよう迫るために逮捕・勾留を利用していたのだ。

山本さんは容疑を認めないし、組合から脱退することを拒んだ。その結果、100日間も身柄を拘束され、長年共にしたパートナーをも失った。権力を濫用した人権侵害に他ならない。

なぜ、一取調官がこのような暴挙に出るのか。国家権力という後ろ盾を得て、まるで自身が偉くなったと勘違いしているのではないか。「自身が偉いのではなく、労働者と市民のために考え動く」と語る山本さんとは正反対だ。

不当な逮捕や取り調べ、勾留に対し、関生支部側は国家賠償を求める訴訟を起こしている。2025年3月7日には、東京地裁で国賠訴訟の証人尋問がある。

法廷には証人として、関生支部の組合員たちを取り調べた検事や刑事4人が立つ。その中には、横麻由子検事もいる。山本さんを担当した検察官だ。

横検事は山本さんに「組合をなぜ辞めないのか、どう考えているのか」と迫った。山本さんが組合を辞めない理由は、Tansaへのインタビューで語った通り。今度は横検事が「組合脱退をなぜ迫ったのか、どう考えているのか」を法廷で証言する番だ。

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