編集長コラム

NPBが独禁法違反なら(159)

2025年05月03日16時34分 渡辺周

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公正取引委員会が、NPB(日本野球機構)を調査しているという。

新聞やテレビの報道によると、以下のような経緯だ。

フジテレビが、日本シリーズの中継と同じ時間帯に、大谷翔平選手が出場したワールドシリーズのダイジェスト番組を放映した。NPBは「フジテレビとの信頼関係が毀損された」との理由で、日本シリーズの取材パスをフジテレビから没収した。公取は「フジの取材機会を著しく制限する」と問題視した。

公取は行政機関で、自由で公正な競争が行われているかを監視するのが役割だ。NPBはフジテレビから取材パスを没収することで、MLB(メジャーリーグ機構)よりNPBとの取引を優先するようフジテレビに圧力をかけた。NPBは「自由で公正な競争を妨害した」ということになる。

NPBは随分とセコイことをしたなと思う。自分たちの利益を最優先に考え、報道機関を排除するようなことをしていたら信頼を失う。日本のプロ野球人気はかえって落ちる。

ただ競争相手として、大谷選手を擁するMLBは強大だ。必死の抵抗なのだろう。

「取材機会を著しく制限し、公正な競争を妨害する」という点では、記者クラブの方がよほど深刻だ。

記者クラブに加盟するマスコミ各社は、新興メディアやフリーランスを排除しているが、マスコミ各社の方が力関係は圧倒的に上だ。MLBよりは弱いNPBとは違い、力の強い側がセコイ手段を使っている。アンフェアさは格段に増す。

記者クラブは、省庁や地方自治体、全国の警察や検察・裁判所など日本中にある。新聞社やテレビ局の記者は、庁舎内に専用のブースを与えられる。庁舎内の担当部署を出入りして取材ができる上、記者会見や政策のレクチャー、資料提供など様々な便宜を受けられる。

一方で、記者クラブに加盟していなければ、非常に不便だ。記者会見に入れなかったり、参加できでも質問の権利を与えられなかったり。警察や検察はまず取材を受けない。裁判所は判決文すら提供しない。

ならば記者クラブに加盟できるかというと、できない。既存の加盟社がベッタリとへばり付いて「既得権」を死守している。

こちらも趣味で取材をしているわけではない。仕事である以上、「自由で公正な競争」が確保されるべきだ。

参入障壁

もちろんTansaは、記者クラブのような特権がないからといって、行政当局や裁判の取材をあきらめているわけではない。あの手この手の工夫と、大きなエネルギーを費やし、記者クラブメディアの質と量を上回る取材をしている。

日本の記者クラブ自体、利点より弊害が多いとも思う。新聞やテレビの記者は、特権の見返りとして、当局からコントロールされることを甘受しているからだ。

Tansaのメンバーと新聞記者や弁護士で会食した時のことだ。

ある新聞記者は、自分が省庁の担当をしていた時に、記者クラブを「出入り禁止」になったと語っていた。なぜ出禁になったのかを尋ねると、まだ報じてはダメだという役所からの言いつけを守らずに、先に「スクープ」したからだという。本人にとっては、役所に反抗した「武勇伝」なのだろう。

私たちはゲンナリした。その新聞記者は役所に主導権を握られていることに疑問を持っていないからだ。出禁にするかしないかの基準が、役所の意向であること自体、役所との間に上下関係ができている。

しかし、記者クラブの問題と、競争条件を整えることは別だ。

競争条件を公平にすることが、急務だ。

Tansaを創刊して9年目になるが、自前で深掘り取材をして一次情報を発信する報道機関が、なかなか新たに出現しない。新興メディアで多いのは、すでに話題になっている情報を「論評」するメディアだ。これだけ取材条件が不公平だと、仕方がない面もあると思う。マスコミ各社と行政当局による癒着が、参入障壁を設けているのだ。

ジャーナリストになりたいがマスコミには入社したくない学生、マスコミにいるが現状を嘆いて独立したいと考えているジャーナリストたちーー。プロとしてジャーナリズムの未来を支え得る人たちが、続々と報道の世界から離れている。スピードは増すばかりだ。

参入障壁を「工夫と根性で突破しろ」で済む話ではない。

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