人質司法 なぜ労組は狙われたのか

大阪高裁・坪井祐子裁判長、憲法28条と「国連・関生報告書」を無視 工事現場の危険を指摘した組合員が有罪

2025年06月09日 21時22分  渡辺周、中川七海

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大阪高等裁判所

有罪率99.9%と言われる日本の刑事裁判で、関生支部への弾圧事件では、すでに4件12人の無罪が確定している。

2023年3月6日には、大阪高裁で和田真裁判長が憲法28条を引用し、関生支部の労働組合としての活動を正当なものと認定した。

「産業別労働組合である関生支部は、憲法28 条の団結権等の保障を受け、これを守るための正当な行為は、違法性が阻却される」

ところが2025年6月9日、同じ大阪高裁で、憲法28条を無視する判決が出た。関生支部の組合員と元組合員を、建設会社に対する恐喝未遂や威力業務妨害で有罪と断じたのだ。それぞれ、懲役2年6カ月(執行猶予3年)と懲役1年6カ月(執行猶予3年)。

裁判長は坪井祐子氏。関生支部の組合員が雇用されていなければ、その会社への労組活動は認められないという見解を示した。企業内労組の活動のみが憲法28条の対象になるという、誤った認識だ。

関生支部には2023年、国連の「ビジネスと人権」作業部会が訪問。ヒアリング調査の結果、関生支部への刑事弾圧を憂慮し、次のような報告書を出した。

労働組合は、公正で合法的な職場環境を促進する上で不可⽋である。労働組合が合法的な⽅法でその活動を遂⾏できることの重要性を、改めて強調する」

坪井裁判長の判決は、憲法からも国際常識からも乖離している。

コンプラ活動と「ハインリッヒの法則」

有罪にされたのは、滋賀県内の工事現場で建設会社に対して実施した「コンプライアンス活動」だ。

コンプライアンス活動とは、工事現場で規則や手順がきちんと守られているかを、労働組合員が現場に出向いてチェックする作業のことだ。たとえば、歩行者が通る道に資材などが飛び出していないか、車検切れの車両がないか、タイヤの溝が擦り減っていないかなどを確認し、不備があれば指摘する。

一見地味な作業だが、関生支部が大切にしている労組活動の一つだ。

関生支部副委員長の武洋一さんは、1995年の阪神淡路大震災時、倒壊した高速道路やビルなどの調査に携わった経験がある。鉄筋コンクリートで作られているはずの柱の中が空洞で、一斗缶、長靴、瓦礫、安全靴などのゴミが入っていた。原価を抑えるため、コンクリートの代わりにゴミを入れていたのだ。手抜き工事により、多くの犠牲者が出た。武さんは語る。

「労働組合がコンプライアンスを死守しなかったら、世の中がおかしくなるんよ」

関生支部執行委員の山本智さんも、コンプライアンス活動の重要性を日々意識している。

「僕が一番心配しているのが、一般市民の方に迷惑がかかること。それが一番ダメなことなので。大きな工事現場ではダンプとかが出入りして、死亡事故がちょこちょこあるんですよ。歩行者を轢いたとかね。労働災害というのは建設現場が一番多いでしょ。そういうのを聞いていると、もっとコンプライアンス活動をやらなあかんなと」

たとえ些細なミスでも、積み重なれば大事故につながる可能性があることは、労働災害分野では常識だ。労働災害を防ぐため、米国のハーバート・ウィリアム・ハインリッヒは「ハインリッヒの法則」を提唱している。

この法則によると、1件の重大事故に対して29件の軽微な事故と300件の異常がある。

工事現場での不備を指摘することは、市民はもちろん、労働者の安全確保のために欠かせない。労働組合として取るべき当たり前の活動だ。

ところが2025年6月9日、大阪高裁の坪井祐子裁判長はコンプライアンス活動について、業務を妨害したり、企業を恐喝したりする手段とみなした。工事現場から道路に砂利や囲いがはみ出していることは「軽微な不備」で、「些細なもの」だと述べた。

大阪高裁で異なる判決

坪井裁判長の言い分で、決定的に間違っているのは以下の点だ。

「関生支部組合員らの使用者を対象としていないから、争議行動に当たらない」

コンプライアンス活動をはじめ、争議活動を行う対象企業に関生組合員が所属していない場合は、労働組合活動にならないという主張だ。

だが、これは憲法で保障している労組活動を全く理解できていない。日本で主流の企業内労働組合だけが労組ではなく、関生支部のように産業ごとに結成する労組も憲法で認められているのだ。この点は、労働法学者の間でも認識が一致しているところだ。2019年12月には、労働法学者78人が関生支部への刑事弾圧に対する抗議声明を出している。

坪井裁判長が間違っていることは、同じ大阪高裁がつい2年前に出した判決を見ても明らかだ。

2023年3月、関生支部の和歌山での労組活動が罪に問われた裁判で、大阪高裁の和田真裁判長は憲法28条を引き合いに、組合員の活動の正当性を認めた。

「産業別労働組合である関生支部は、業界企業の経営者・使用者あるいはその団体と、労働関係上の当事者に当たるというべきだから、憲法28 条の団結権等の保障を受け、これを守るための正当な行為は、違法性が阻却される」

3人全員に無罪が言い渡された。検察は控訴を断念し、無罪が確定している。

国連「ビジネスと人権」部会が関生弾圧を調査

坪井裁判長は、国際常識も無視している。

2023年7月から8月にかけて、国連の「ビジネスと人権」作業部会の調査団が来日。捜査機関による関生弾圧を調査し、報告書にこう綴った。

「(関生)組合員は、企業による法令遵守を促進するための日常的な組合活動に参加したことで、威⼒業務妨害罪や恐喝未遂罪の容疑で法的措置を講じられた」

「労働組合は、公正で合法的な職場環境を促進する上で不可⽋である。国連指導原則で⽰されているように、企業が⼈権を尊重することを促す役割を担っている。作業部会として、労働組合が合法的な⽅法でその活動を遂⾏できることの重要性を、改めて強調する」

「こんな人が人を裁くのか」

坪井裁判長は、どのような法律家なのだろうか。

京都大学卒。刑事裁判を主に担当してきた。大津地裁や京都地裁、大阪地裁などで任官している。大阪地裁では部総括判事を務めた。

大津地裁で裁判長を務めていた際は、後に冤罪と判明する事件の再審請求を拒んだことがあった。

2003年に滋賀県内で起きた、「湖東記念病院事件」だ。看護助手が、患者の人工呼吸器のチューブを引き抜き殺害させた罪で、懲役12年が確定。出所後に再審が始まり、2020年に無罪が確定した。

しかし当初、再審が認められなかった。2010年9月に大津地裁に再審を申し立てたが、請求は棄却されたのだ。その再審請求審で裁判長を務めたのが、坪井氏だ。

大阪高裁の判決後、被告の関生組合員がTansaの取材に応じた。

「裁判長の目を見ていましたが、一度も目が合いませんでした。これが裁判官か、こんな人が人を裁くのかと思いました」

被告の弁護団は即日、最高裁への上告状を提出した。

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