編集長コラム

羊の皮をかぶった狼(168)

2025年07月05日18時31分 渡辺周

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「民族素質の劣悪化防止」という言葉を聞くと、ナチスを彷彿とさせる。だが、これは戦後の日本で政治家が口にした言葉だ。

1948年6月、国会で優生保護法が可決された。全会一致だ。この法律により、障害者への「強制不妊手術」が認められた。立法に執念を燃やしたのは参議院議員の谷口弥三郎。産婦人科医であり、日本医師会の会長も務めた。

立法から10年余り経った1960年、谷口は産婦人科の専門誌で、優生保護法の意義について語っている。

「『民族素質の劣悪化防止』の解決に乗り出す使命を果たさなければならない」

戦争に負けた日本民族が復興するためには、障害者は邪魔だから日本社会から排除する。そういう発想だった。

強制不妊手術の対象者は、遺伝性とされた精神障害や疾患を持つ人。都道府県ごとに設置した審査会が、手術するかどうかを決めていった。審査会のメンバーは地元医師会の幹部、裁判官、検察官、自治体幹部らだ。

審査員の中には、「ナチスのやったことのように大変なことになる」と指摘する人もいた。だが多くは、何の問題意識も良心の呵責もないまま手術を決めていった。

それどころか、善意で蛮行を覆い隠していた。例えば、宮城県精神薄弱児福祉協会は「優生手術の徹底」を掲げた。県民への趣意書でこう書いている。

「わたくしたちも、馬鹿が、馬鹿がと、ケイベツしたり、あざけったりすることをしないで、みんなの愛情のなかで、この精薄児のなくなる工夫をしなければなりません」

参政党にとっての特攻隊とは

参政党が躍進している。

7月3日と4日の朝日新聞による世論調査によると、政党支持率は以下だった。

①自民 19%

②立憲民主 7%

③国民民主 6%

④参政 5%

⑤公明、維新、れいわ、共産 3%

参政党がスタートを切ったのは、2020年4月。それがあっという間に、公明、維新、れいわ、共産を抜き去った。

特徴的なのは、発足当初は「医と食」の安全に重点をおいて、反ワクチンや有機農業の推進を盛んに訴えていたことだ。生活者の視点を取り入れた政党として、スッと有権者に入り込んだ感がある。

代表の神谷宗幣氏も人当たりが良さそうだ。話しているところをみる限り、少なくとも石破茂首相よりは愛想がいい。

だが参政党が掲げているのは、「日本人ファースト」。目指す方向性は、党の「新日本憲法」構想案を読めば分かる。例えば、前文には次のように書いている。

日本は、稲穂が実る豊かな国土に、八百万の神と祖先を祀り、自然の摂理を尊重して命あるものの尊厳を認め、徳を積み、文武を養い、心を一つにして伝統文化を継承し、産業を発展させ、調和のとれた社会を築いてきた。

 

天皇は、いにしえより国をしらすこと悠久であり、国民を慈しみ、その安寧と幸せを祈り、国民もまた天皇を敬慕し、国全体が家族のように助け合って暮らす。公権力のあるべき道を示し、国民を本とする政治の姿を不文の憲法秩序とする。これが今も続く日本の國體である。

 

国民の生活は、社会の公益が確保されることによって成り立つものであり、心身の教育、食糧の自給、国内産業の育成、国土と環境の保全など、本憲法によって権利の基盤としての公益を守り、強化する。

 

また我が国は、幾多の苦難を乗り越え、世界に先駆けて人種の平等を訴えた国家として、先人の意思を受け継ぎ、本憲法によって綜合的な国のまもりに力を尽くし、国の自立につとめる。あわせて、各国の歴史や文化を尊重して共存共栄を実現し、恒久の平和に貢献する。

 

日本国民は、千代に八千代に繁栄を達成し、世界に真の調和をもたらすことを宣言し、この憲法を制定する。

参政党は、党の参院選特設サイトではこんなメッセージを出している。

「これ以上、日本が壊される前に次に戦うのは、私たち一般の国民の番だと参政党は考えます」

戦うとはどういうことなのか。サイトでは「日本を守るために力を尽くした英雄」たちのイラストを掲載。聖徳太子や徳川家康、西郷隆盛らが載っている。どういう基準かよく分からないが、最も意味不明なのは英雄のイラストの中に、特攻隊員も含まれていることだ。特攻隊員を英雄として捉え、あのように後世の人も戦うべきだと言いたいのか。

そうだとしたら、こんな政党の台頭を許すわけにはいかない。現代を生きる私たちに必要なのは、特攻隊員のような死に方はもう誰にもさせない、彼らの死を無駄にしてはならないということだ。

参政党の支持者に悪気はなく、歴史を知らないというだけなのかもしれない。ならば、特攻隊員、上原良司の遺書を読んでほしい。慶應大学から学徒出陣した。沖縄嘉手納沖の米機動部隊に突入し戦死。22歳だった。新版『きけ わだつみのこえ』(岩波書店)から一部抜粋する。

思えば長き学生時代を通じて得た、信念とも申すべき理論万能の道理から考えた場合、これはあるいは、自由主義者といわれるかも知れませんが、自由の勝利は明白な事だと思います。人間の本性たる自由を滅ぼす事は絶対に出来なく、例えそれが抑えられているごとく見えても、底においては常に闘いつつ最後には必ず勝つー中略―ファシズムのイタリヤは如何、ナチズムのドイツまた、既に敗れ、今や権力主義国家は、土台の壊れた建築物のごとく、次から次へと滅亡しつつあります。

 

空の特攻隊のパイロットは一器械に過ぎぬと一友人が言った事は確かです。操縦桿を採る器械、人格もなく感情もなく、もちろん理性もなく、ただ敵の航空母艦に向って吸いつく磁石の中の鉄の一分子に過ぎぬのです。理性をもって考えたなら実に考えられぬ事で、強いて考うれば、彼らが言うごとく自殺者とでも言いましょうか。

 

飛行機に乗れば器械に過ぎぬのですけれど、いったん下りればやはり人間ですから、そこには感情もあり、熱情も動きます。愛する恋人に死なれた時、自分も一緒に精神的には死んでおりました。天国に待ちある人、天国において彼女と会えると思うと、死は天国に行く途中でしかありませんから何でもありません。明日は出撃です。過激にわたり、もちろん発表すべき事ではありませんでしたが、偽らぬ心境は以上述べたごとくです。明日は自由主義者が一人この世から去って行きます。彼の後ろ姿は淋しいですが、心中満足で一杯です。

 

言いたい事を言いたいだけ言いました。無礼を御許し下さい。ではこの辺で。

 

出撃の前夜記す

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