編集長コラム

大川原化工機の冤罪は検証しても(172)

2025年08月09日20時39分 渡辺周

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「この報道で、子どもらと会えるのも実現するかも。子どもらと会えたら、報告しますね!」

労働組合「関西生コン」の副委員長、武谷新吾さんからのメールだ。関生への弾圧に関する証言集で、19回目に登場した。7月9日、記事と動画をリリースした直後にメールをもらった。

武谷さんは、和歌山での労組活動の中で、威力業務妨害・強要未遂容疑で逮捕・勾留されたものの、大阪高裁で無罪判決が確定した。しかし、武谷さんの逮捕・勾留が原因で息子は中学でいじめに遭った。妻とは離婚、今でも子どもと会えていない。

武谷さんの自宅前にある日、レイシストや元暴力団員たちがやってきて、デマを喧伝された。撒かれたビラでは関生のことが「利権暴力集団」と中傷されていた。生コン会社の経営者が差し向けた。

ただのデマだと近隣住民がやり過ごしてくれればいいが、そうはいかない。警察に逮捕され、悪人としてのお墨付きが与えられてしまったからだ。冒頭の武谷さんのメールには、切実な思いが込められている。

証言記事と動画を子どもたちがみてくれれば、父は犯罪者ではなく、労組活動に真摯に取り組んだのだと理解してくれる。そうすれば子どもたちと再会できるかもしれないーー。

8月7日、警察庁・警視庁と最高検察庁は、大川原化工機の冤罪事件に関する検証結果を公表した。警視庁の責任者である迫田裕治警視総監が「逮捕された3人の方々と捜査対象になった方々に、多大なご心労、ご負担をおかけした」と頭を下げた。

警視庁が捜査に着手したのは2017年、2018年10月には大川原化工機を家宅捜索した。関生への捜査と時期が重なっている。

容疑は軍事転用ができる機器を輸出したことだが、経産省が軍事転用できないと指摘していた。それでも捜査をゴリ押し。社の幹部たちの身柄を勾留し、自白を得ようとした。事件の「でっちあげ」と「人質司法」という点でも、関生事件と共通している。

だが関生の冤罪について、警察と検察は検証を行う気配すらない。

なぜ大川原化工機の冤罪への対応と違うのか。理由を考えるのにあたり、大川原化工機の冤罪検証で注目するべき点が二つある。

一つは、冤罪を止められなかった理由を、警視庁公安部外事1課の係長と管理官の「暴走」に求めていることだ。警察幹部たちは、暴走を止められなかったことに責任があるという体裁になっている。責任を感じているフリをして、「トカゲのしっぽ切り」をしているようにしか思えない。

この逃げ方は、関生の冤罪ではできない。関生弾圧では、大阪府警、京都府警、滋賀県警、和歌山県警が一斉に動いたからだ。警察庁の指示なしにできることではない。当然、責任は警察庁長官にまで及ぶ。

もう一つ注目すべきなのは、大川原化工機の捜査に関わった警察官たちの処分の軽さだ。「暴走した」と判断した2人でさえ減給。幹部は「訓戒」や「口頭厳重注意」だ。大川原化工機の顧問の相嶋静夫さんは、勾留されている間に胃がんが発見されたのに保釈が認められず、その後、命を落とした。この処分の軽さはないだろう。

結局、警察は本当に反省しているわけではないのだ。「マスコミが騒いでいるから何かしないと」という程度のことなのだろう。マスコミが静かな関生の冤罪を検証するわけがない。

冤罪は、ターゲットとなった人の人生を壊す。関生組合員の証言集は、捜査を担った警察官や検事はもちろん、楠芳伸警察庁長官と畝本直美検事総長は必ずみるべきだ。関生の武谷さんはこうも言っている。

「ドラえもんじゃないんでね、タイムマシンで過去に戻ることはできないんです」

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