編集長コラム

大組織の病(174)

2025年08月23日16時26分 渡辺周

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子どもや女性への性暴力の画像を拡散するアプリに、どう対処するのか。アプリを提供しているAppleのCEOティム・クック氏に、Tansaは質問状を送った。

6日後、辻麻梨子にメールを返信してきたのは、Apple Japan広報部のビリー・コール氏。「懐柔してきたな」と直感した。オフレコを持ちかけてきたからだ。

しかも、文末には「ビリー」とファーストネームだけを記している。軽い。

朝日新聞で大手ゼネコンの不正を追及していた時、広報担当者から携帯に電話がかかってきた。「朝日さんとウチの仲やないですか」。朝日新聞とビジネス上の取引がある企業だったので、懐柔してきたわけだ。もちろん、突っぱねて記事を書いたが、あの時の不自然な馴れ馴れしさを、ビリー・コール氏のメールにも感じた。

直感は当たった。辻がオフレコを断ると、電話で話をする約束をすっぽかした。その代わりに送られてきた回答は、いい加減なものだった。昨日リリースした「Apple、児童ポルノ取引アプリ対策に本腰入れず 取材には「オフレコ」提案 日本の警察は10年前に措置要請」で報じた通りだ。

もし我が子や恋人ら大切な人が性暴力に遭って、画像が拡散されたらどうするか。CEOのティム・クック氏をはじめ、Appleの社員たちがそのことを想像すれば、事の重大さが身にしみるはずだ。居ても立っても居られない。対策に社を挙げて取り組むはずだ。

だが、そうはならない。なぜか。

私はそこに大組織の病をみる。

社員が多く、一人一人の責任感が希薄になっている。組織の不正やトラブルがあると、対処すべき社員であっても「なぜ自分が」と不満を抱くことさえある。

「何とかしなくては」と思う社員がいたとしても、組織の中で調整しなければならないことが多すぎて、途方に暮れる。上司、そのまた上司と許可を取らなければ動けない。

本来ならそれでも、何とかするべきだ。しかし、組織の看板と安定した暮らしに安住し、事態を突破するだけの闘志が湧いてこない。「仕方ない」を繰り返していくうちに、感性が磨耗していく。

スティーブ・ジョブズは、同僚2人と共に自宅のガレージでAppleを創業した。もし当時、Appleが性暴力の被害拡大に加担しているようなことがあれば、必死で対策を取っただろう。組織拡大の代償は、あまりに大きい。

大組織の病は、Appleだけではない。ほとんどの大企業や官庁に当てはまるのではないか。取材先や同業者と接していてそう感じる。

何のためにその職に就いたのか。安定や名声だけではなく、誰かの役に立ちたいという思いがあったからではないのか。

硬直した自組織での不自由を嘆くのではなく、組織内で闘い抜いてほしい。大組織の影響力を、苦境にある人たちのために行使してほしい。

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