
厚生労働省庁舎の前で抗議する「いのちのとりで裁判全国アクション」共同代表・稲葉剛さん=2025年8月1日、東京都千代田区で佐々木紘子撮影
Tansaのインターンになって、1年2カ月が経った。
加入した当時は、メディアに興味があったものの、ジャーナリストを目指すかどうかは明確ではなかった。
だが今月末から1年間、イギリスに留学してジャーナリズムを学ぶことを決めた。インターンを経て、ジャーナリストになりたいと思うようになったからだ。
正直に言うと私は、社会の理不尽に声を上げたくても、勇気が出ない時がある。「誰かがやってくれている」「陰から応援するだけでも」と思ったこともあった。でも、この先ずっと勇気を出せないでいるのは悔しい。
だからこそジャーナリズムの手段を身につけて、立ち向かいたい。そう思ったのだ。
出国を控えた今年の夏休み、自分の情けなさと向き合う経験をした。留学の前に、きちんと綴っておきたい。
人目を気にして、動かなかった足
参院選、真っ只中の7月12日土曜日。朝9時頃に家を出た私は、電車に揺られていた。目的地に近づくにつれ、緊張で鼓動が大きくなっていった。
10時すぎ、吉祥寺駅に到着した。「参政党神谷代表の発言に抗議する緊急アクション」に参加しにやってきたのだ。
参政党代表の神谷宗幣氏は、人種差別やジェンダー差別を煽る発言を繰り返す。問題視した人々が「スタンディング・アクション」の実施を決め、SNS上で呼びかけた。
スタンディング・アクションとは、ある物事に対して、プラカードなどを掲げて立ちながら抗議の意を示す活動だ。今回のアクションは、東京や福岡、静岡、石川で行われた。私は前日の夜にInstagramの投稿をみて、足を運ぶことを決めた。
駅前のバスロータリーには、40人ほどが集まっていた。多くは女性で、20代から60代ぐらいだろうか。大学生ぐらいの男性や外国人男性もいた。プラカードには「女の価値を産む産まないで決めるな」「人間にファーストもセカンドもない」。
通行人の反応はさまざまだ。足を止めてプラカードを見ている人もいれば、足早に通り過ぎる人もいる。参加者はどんどん増え、100人ほどになっていた。
だが、私は動けなかった。
アクションを横目で見ていた50代ぐらいの男女は、「選挙の話でしょ」と言いながら私の前を通り過ぎていった。「どうせ」という言葉が聞こえてきそうな口ぶりだ。
私も何か思われたり言われたりするんじゃないかーー。他人の目が気になって仕方なかった。駅構内の柱に寄りかかって、ずっと見ていた。
1時間後、「終わります」と参加者の一人が言った。私は参加者に声すらもかけず、すぐに立ち去った。
「自分だけでなく、社会の皆のためになるから」
数週間後、この日の自分を思い出した。
Tansaのインターンとして、「いのちのとりで裁判」の取材に同行したときのことだ。
いのちのとりで裁判は、政府による2013年以降の生活保護費の大幅引き下げに対する、全国的な訴訟だ。今年6月、最高裁判所が「引き下げは違法」だと認めた。しかし、政府は生活保護受給者に対して、引き下げ分の補償を一向に行わない。謝罪すらしていない。
8月1日、原告団が霞が関にある厚生労働省前で、1時間の抗議活動を行った。「だまってへんでこれからも」「まずは謝罪を」と書かれたプラカードを掲げ、庁舎に向かって声を上げる。その前を、庁舎から出てきた昼休み中の官庁職員が行き来する。ほとんどが下を向いて通り過ぎていた。
原告たちは顔も名前も出して闘い続けている。「生活保護はずるい」という的外れな誹謗中傷を受けるリスクにも晒される。
すでに被害に遭っている人もいた。原告の一人はメディア取材を受けた際、アクセサリーを身につけていた。写真付きの記事がヤフーニュースに掲載されると、「生活保護受給者なのに派手なのはおかしい」などというコメントがいくつも付いたという。
それでも声を上げ続ける理由を尋ねると、即答された。
「自分だけでなく、社会の皆のためになるからです」
他者に思いを馳せるその人は、自分のことばかり考えていた私とは対照的だった。
取材者として共に闘う
情けない自分でいたくない。
何かを守ったり、変えたりするためには、勇気をもって自分から動かないといけない。何より、声を上げている人に対して見て見ぬふりをすれば、現状維持に加担することになる。
私なりの行動を起こしたい。そう思っていると、別の原告に声をかけられた。
「しっかり伝えてくださいね、お願いしますね」
目を見て言われ、ビビッときた。「今の私ができる、声を上げる術はこれだ!」
今の私はまだ勇気が足りない部分もある。だけどTansaの一員だ。問題意識をもつ事象について深く調べ、当事者に質問を投げかけ、取材者として社会に発信する機会がある。状況を変えられるかもしれない。
参政党へのスタンディング・アクションをする人や、厚労省に抗議する人たちと、仕事を通じて同じ方向を向くことができるはずだ。

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