ソウルにいる。ユン・ソンニョル政権が行った労働組合への弾圧を取材するためだ。
弾圧の対象になったのは、全国の建設現場で働く「建設労組」。弾圧が始まる前の2022年には7万7000人が加入していた。
ユン大統領は建設労組を暴力団と捉え、「建暴」と呼び公然と中傷した。政治家や省庁のトップも「経済に寄生している毒」、「労組の面を被った略奪集団」、「偽労働者」とヘイトスピーチを浴びせた。メディアのほとんどは、弾圧側の言説を批判するどころか、乗っかった。
労働者の待遇をめぐる労使交渉やデモが、業務妨害や強要などの罪にされた。26件72人が懲役刑にされた。
だが建設労組の組合員たちは、労組活動を全うしただけだ。ゼネコンなど大企業の意向を汲んだユン政権が、労組弾圧を政治利用したに過ぎない。
2023年5月1日、建設労組のヤン・フェドンさんは、弾圧に抗議し自らの身体に火を放った。翌日、亡くなった。遺書にはこう記されていた。
「何の罪もなく、正当に労組の活動をしてきた。それなのに、業務妨害や恐喝だという。私の自尊心が許しません」
関生支部への弾圧と酷似でも
憲法で認められた労働組合に対し、反社会的勢力のレッテルを貼る。罪をでっちあげ、次々に摘発する。政治は、汗水垂らして働く市井の人たちのためではなく、一部の大企業のために機能する。
韓国の建設労組への刑事弾圧の構図は、日本の生コン産業の労組「関生支部」への弾圧とよく似ている。
しかし、違う点もある。権力者のタイプだ。
関生支部委員長の湯川裕司さんが言っていた。
「日本の権力者は、陰険だ。韓国のユン・ソンニョルのように、大統領自ら労働組合のことを『建暴だ』と言ったりはしない。目立たずに弾圧してくる」
同感だ。関生支部への大規模な刑事弾圧は2018年から始まっている。大阪府警、京都府警、滋賀県警、和歌山県警が一斉に動き、87人を逮捕した。
ところが、一体誰が、どのような意図でこれだけの弾圧を行なったのかが不明だ。「我こそが今回の弾圧を命じた」と言う者は出てこない。
これは、日本の権力機構の特徴だ。権力者は目立たないように裏に控え、事態を思うように動かそうとする。外からは誰が首謀者か分からないので、責任から逃れられる。
国葬文書の隠蔽もその典型だ。国葬の実施を決めた協議記録を「取っていない」とか「捨てた」とデタラメを言うどころか、その協議の参加者すら伏せた。世論を二分した重要事項が、ブラックボックスに放り込まれた。ブラックボックスの向こう側にいる権力者の顔は、見えない。
韓国の権力者は言わば、「野獣」だろう。自らの力を誇示するように牙を向く。ユン氏が大統領の時に戒厳令を出したのは、分かりやすい例だ。
権力の行使の仕方があからさまなので、対抗する側はその権力者をターゲットにできる。真っ直ぐにぶつかっていける。
だが日本の権力者は、「ヌエ」だ。捉えどころがない。誰が権力者なのか。個としての権力者不在のまま、システムとしての権力が事を運んでいるのか。そういうところから、突き止めていかなければならない。
一番怖いのは、ヌエの存在に気づかないまま、私たちが「茹でガエル」になってしまうことだ。

日本の労組「関生支部」と韓国の「建設労組」への弾圧に抗するシンポジウム=ソウル・国会議員会館で
編集長コラム一覧へ
メルマガ登録