
関西生コン支部へ家宅捜索に入ろうとする滋賀県警組織犯罪対策課の捜査官たち。リーク情報でマスコミも多く集まっていた=2018年8月撮影
延べ89人が逮捕された労組「関西生コン支部」(関生支部)への弾圧をめぐっては、関生支部が国を相手取って損害賠償請求訴訟を起こしている。明日10月31日、東京地裁で判決が出る。
警察・検察は「逃亡と証拠隠滅」のおそれもないのに、関生支部の組合員の身柄を拘束。湯川裕司委員長の勾留期間は644日に及んだ。
釈放と引き換えに自白を引き出すのが目的で、「人質司法」と呼ばれる慣行だ。国際社会の非難の的になっている。
しかし、裁判所もまた、そうした逮捕・勾留を許可してきた。ストッパーとしての機能を果たさず、人質司法の一翼を担った。東京地裁は判決を通じ、ノーを突きつけることができるか。
2020年3月の提訴以来、5年半を超える裁判では、様々な証人が法廷に立った。
ハイライトは、取り調べに当たった検事や刑事たちへの尋問だ。捜査の正当性を主張しようしたものの、支離滅裂に。傍聴席の失笑を買った。
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家族を持ち出して脱退迫った検事
検事と刑事たちが、証人として出廷したのは、2025年3月7日のことだ。以下に名前と捜査当時の役職を記す。
横麻由子 大津地検検事
多田尚史 大津地検副検事
恩地孝幸 和歌山地検検事
松江達宏 和歌山県警海南署警備課長
大津地検の横麻由子検事は、関生支部執行委員の山本智さんを取り調べた。工事現場での危険や法令違反を指摘する「コンプライアンス活動」に威力業務妨害の容疑をかけた。
横検事に対し、山本さんは黙秘を貫いた。しかし、横検事は山本さんに関生支部を辞める意思はないのか、執拗に迫る。
「家族にも心配かけて、あなた自身も嫌な思いしてまで続けますって思うということは、よっぽど何かないと今後しんどいと思います」
横検事はなぜ家族を持ち出したのか。証人尋問では、この時の心境を振り返った。
「山本さんが大切に思っていらっしゃるであろうご家族の方のお話をして、実際に山本さんがその家族に対して今回の活動というのを、胸を張って説明できることなのかということを、本人に思い出してもらいたかった」
こんなことを言われて、山本さんはどう思ったのか。横検事には黙秘したが、Tansaにはその無念さを詳細に証言している。
逮捕され100日間勾留されたことで、14年間付き合っていた恋人が去った。自分が胸を張れない活動をしてきたからではない。恥じることは何もない。コンプライアンス活動を、「軽微な不備を指摘して工事を妨害する犯罪」に仕立てた横検事の方が間違っている。
証人尋問では、横検事へのコンプライアンス活動への無理解が露呈した。
原告・関生支部の太田健義弁護士が横検事に尋ねた。
太田弁護士「ハインリッヒの法則を当時知っていましたか」
横検事「いや、ちょっと分からないです」
太田弁護士「法廷で散々やり取りをしたのに覚えてないですか」
横検事「ちょっと今、急に思い出せないんですが」
太田弁護士「一つの重大事故にはその周りに多くの軽微なやつがある。要するに軽微なやつを放っておくと最終的に重大死亡事故が起こったりするというのが、ハインリッヒの法則」
横検事「はい。思い出しました」
「削ったる」発言の言い訳とは
大津地検の多田尚史副検事も、関生支部の組合員によるコンプライアンス活動を追及した。取り調べの中で、関生支部を「削ったる。警察、検察には他にも何人もいる」と言った。
証人尋問ではこの点を、関生支部の弁護士たちに詰められた。多田副検事の言い訳はこうだ。
「関生支部が組合として正当な活動をしている部分と、犯罪行為をしている部分がある。犯罪行為をするようなやり方は削ってもらわないと困るよと、そういう趣旨です」
太田弁護士がたしなめる。
「削りますよと、削ってもらわないと困るは違いますね。削りますよは、あなたが削るんですよ。削ってくださいねは言われた方が削るんですよ。違いますか。日本語ではそうですよ」
多田副検事が認める。
「ああ、なるほど、はい」
「削ったる」を言葉通りに捉えれば、関生支部という組織を潰すという意味であり、犯罪捜査とは関係のない威迫だ。その意図を多田副検事がごまかそうとしたところ、証言が迷走した。
刑事「判決をちゃんと読んでないです」
和歌山県警海南署警備課の松江達宏課長は、元暴力団員が登場する事件の捜査を担当した。概略はこうだ。
和歌山の生コン経営者が関生支部に元暴力団員を差し向けた。関生支部はそのことに抗議し、経営者に謝罪を求めたところ、逆に関生支部が威力業務妨害と強要未遂に問われ、5人が逮捕・勾留された。
この事件は大阪高裁で無罪が確定している。元暴力団員を差し向けたことについては、「関生支部が脅威を感じたのは無理がない」と判断した。
松江課長への証人尋問では、関生支部から小川隆太郎弁護士が問い質した。
小川弁護士「元暴力団員の男2人が黒のBMWでやってきて、怒鳴ったり撮影しているということについて、そういった行為が関西生コン支部の団結権を脅かすものだということは明らかですよね」
松江課長「そこはちょっと分からないです」
小川弁護士「分からないんですか」
松江課長「はい」
小川弁護士「あなた、事件の判決って読まれましたか」
松江課長「・・・・・」
小川弁護士「大阪高裁の判決って読まれましたか」
松江課長「ちゃんと読んでないです」
無罪確定しても「起訴間違っていない」
和歌山地検の恩地孝幸検事は、和歌山の事件を主任検事として捜査した。
関生支部は「産業別労働組合」だ。産別労組は、その産業全体のために活動する。和歌山事件で対峙した生コン会社には、関生支部の組合員はいなかったが、社員に組合員がいるかどうかは関係ない。憲法28条の労働組合としての権利が保障される。
ところが、和歌山事件の裁判の経緯をみると、恩地検事は産別労組も憲法28条で保障されると認識していたか疑わしい。関生支部の太田弁護士がその点を突く。
「あなたは産業別労働組合は団結権が保障されないという考えを、当初は持っていたということなんですか」
恩地検事は「えーっと、うーん」と言葉に詰まる。太田弁護士が「そうなんですか」と追い討ちをかける。
「そうですね、はい、通常そういう正当行為の問題になるのは、労使関係にある事案というのが過去の裁判例の集積でほとんどだったかと思いますので、その団結権の話については私も当時、本を調べましたがほとんど書いてなかったように記憶しています」
しかし、大阪高裁での判決は次のように断じた。
「産業別労働組合である関生支部は、業界企業の経営者・使用者あるいはその団体と、労働関係上の当事者に当たるというべきだから、憲法28 条の団結権等の保障を受け、これを守るための正当な行為は、違法性が阻却される」
太田弁護士は「大阪高裁判決をきちんと読み込んでないのか」を尋ねた。
恩地検事「判決が出てしばらく経った頃に一度読みました」
太田弁護士「だから一度だけね」
恩地検事「回数ははっきり覚えておりませんが、内容をそらで言えるかというと、言えません」
太田弁護士「そんなことは聞いていません。じゃあ、今は産業別労働組合に理解が深まりましたか」
恩地検事「以前よりはそうなのかもしれませんが、自分で評価するものではないかと思います」
この恩地検事の応答に、関生支部の海渡雄一弁護士がしびれを切らす。
「自分の法的な理解に間違いがあった、そういう認識はありますか」
恩地検事「評価の違いではないでしょうか」
海渡弁護士「判決が出てそれが確定しているんですよ。あなたの上級庁である高等検察庁は、これについて上告もしなかったんです」
恩地検事「はい」
海渡弁護士「評価の違いじゃないじゃないですか。あなたの起訴が間違っていたということ。未だにそれを認めないんですか、あなたは」
恩地検事「私は、起訴は間違っていなかったと思っております」
判決は10月31日午後3時、東京地裁103号法廷
法律の知識も十分にないまま、発言が迷走する検事や刑事たち。この程度の捜査員たちにより、関生支部の組合員たちは人質司法の犠牲になった。家族を「人質」にされた組合員もいる。例えば原告は訴状で、こんなケースを挙げた。
滋賀県警が組合員宅を家宅捜索した時のこと。その組合員は中学生の息子と2人暮らしで、捜査員は息子の部屋を指して言った。
「施設に入れるんか、どないすんのや」
明日の判決は10月31日午後3時から、東京地裁の大法廷・103号法廷で。午後2時半までに集まった人たちに、傍聴抽選券が配られる。
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