編集長コラム

多勢に無勢の中で(187)

2025年11月22日15時37分 渡辺周

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(左から)Asian Dispatchのサイード・ナザカトさんとTansaの渡辺周編集長、中川七海記者=マレーシア・クアラルンプールで2025年11月20日、千金良航太郎撮影

マレーシアのクアラルンプールで、Global Investigative Journalism Conference(世界探査ジャーナリズム会議・GIJC)に11月20日から24日の日程で参加している。

GIJCは2年ごとに開かれる。世界中から、探査報道を手がける約1500人のジャーナリストたちが結集。取材技術を学びあったり、共通テーマでのコラボ相手を探したりする。

Tansaは2017年の南アフリカ・ヨハネスブルグでGIJCに初参加。以来、2019年のドイツ・ハンブルグ、コロナ禍を挟んで2023年のスウェーデン・ヨーテボリでのGIJCに参加してきた。今回のクアラルンプールで4回目の参加だ。次第に顔馴染みが増え、ジャーナリストとしての友情が芽生えてくる人もいる。

特にアジアのニューズルームの4人とは10年前後の付き合いで、絆のようなものができてきた。いずれも探査報道で実績のあるジャーナリストで、ニューズルームの立ち上げや、編集長を経験している。

(左から)ニュースタパのキム・ヨンジンさん、報導者のシェリー・リーさん、Tansaの渡辺周編集長=マレーシア・クアラルンプールで2025年11月20日、千金良航太郎撮影

ニュースタパ(韓国) キム・ヨンジンさん

報導者(台湾) シェリー・リーさん

TEMPO(インドネシア) ワヒュー・ディアトミカさん

Asian Dispatch(インド) サイード・ナザカトさん

4人とは、GIJCとは別にドイツで5日間、合宿したこともある。アジアで重要なテーマについて話し合い、互いにどういう協力ができるかを話しあった。実際、それぞれのニューズルームとは取材と発信で協力しあってきた。

クアラルンプールでの初日。再会にあたり握手やハグをした時の感触で、互いの奮闘と無事が分かる。その後は、ビールやワインを片手に近況を語り合った。

戦争を止める気がない新聞

2日目、11月21日の朝。日本の状況もカバーしておくため、朝日新聞を読んだ。暗澹とする記事があった。

「突き進む防衛強化/成長戦略と一体 武器輸出の拡大視野/非核三原則 見直せば他国反発も」

安全保障関連3文書の改訂議論が自民党内で始まったことを伝える記事で、政府・与党では防衛費をGDP比3~3.5%にまで引き上げることを念頭に置いているという。2027年度中に2%にするという現行の方針ですら、財源を確保していない。それでも防衛費を上げることで、国内の防衛産業が強化されるから、ある閣僚は「安全保障と経済成長の好循環だ」と匿名で言っている。武器輸出の拡大にも力を入れるという。

これは、どう考えても「軍産複合体」だ。戦費を稼ぐために金儲けをするのではなく、金儲けをするために戦争をする。大体、国内の防衛産業が潤ったところで、民(たみ)の暮らしが良くなるとは思えない。三菱重工は2022年から2023年にかけて、前年比4.6倍の1兆6803億円を政府から受注した。だがそれで日本経済全体が浮上し、暮らし向きが良くなっただろうか。

恐ろしいのは、朝日新聞の報道姿勢だ。「突き進む防衛強化」と見出しをつけているが、「突き進む軍事大国、戦争への道」だろう。朝日は政府・与党の視点になっている。Tansaの千金良航太郎は「朝日はもう、戦争を止める気がないのだろうと、読んでいて怖くなりました」。同感だ。戦前、新聞が売れるからと国が破滅するまで戦争を煽り続けた愚行を繰り返している。

この記事を読んだ後、台湾「報導者」のシェリーさんが発表者のセッションを聴講した。

シェリーさんは、台湾は世界で最も危険な場所だと切り出し、高まる中国との緊張について、沖縄を含めて探査報道した事例を紹介した。日本の高市早苗首相についても触れながら、台湾と中国が衝突すれば、アジア全体に影響すると警鐘を鳴らした。

戦争になればどれだけの被害をもたらすか。シェリーさんには、そのことに対する鋭敏な感覚があり迫力を伴っていた。朝日新聞の記事とは対照的だった。

日本の戦前にも、戦争の愚かさを主張したジャーナリストたちはいた。例えば、東洋経済新報の記者だった石橋湛山は、軍国主義を批判した。戦後は政治家に転じ、首相も務めた。晩年、「日本防衛論」と題した評論の中でこう語っている。

「わが国の独立と安全を守るために、軍備の拡張という国力を消耗するような考えでいったら、国防を全うすることができないばかりでなく、国を滅ぼす」

しかし、見識と勇気を持ったジャーナリストもいたとはいえ、結局は戦争を止められなかった。

多勢に無勢の中で、同じことを繰り返さないためにどうしたらいいか。ジャーナリストは戦争を止められるのか。

私は、国境を越えたジャーナリストの連帯に希望を見出している。アジアの4人とこうして絆を深めているのは、そのためでもある。

GIJCでは世界中からジャーナリストが集まり、互いに再会を喜んだ=マレーシア・クアラルンプールで2025年11月20日、千金良航太郎撮影

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