保身の代償 ~長崎高2いじめ自死と大人たち~【共同通信編】

「学校への罰則規定を」 長崎高2いじめ遺族、法改正求め6万4000筆超の署名を国へ提出

2025年11月26日 22時10分  中川七海

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「いじめ防止対策推進法」の改正を求める6万4792筆の署名を国に提出した遺族=東京都千代田区で2025年11月26日、千金良航太郎撮影

2025年11月26日、私立・海星学園内でのいじめによって自死した生徒の遺族が、「いじめ防止対策推進法」の改正を求める6万4792筆の署名を、衆議院・文部科学委員会と、参議院・文教科学委員会の委員長に提出した。

いじめ防止対策推進法は、子どもをいじめから守るための学校や都道府県の責務を定めている。しかし現行法では、それらを怠っても罰則はない。海星学園と所管の長崎県は、生徒のいじめ自死に関して法律違反を重ねてきた。

長崎県をはじめ全国各地で、その後もいじめ自死が続いている。子どもを守る法律を強化したいという思いで、遺族が2年間かけて署名を集めてきた。

法律違反を重ねる学校と県

署名を提出したのは、2017年4月に同級生たちからのいじめを苦に自死した、勇斗さんの両親だ。勇斗さんは当時、長崎県の私立・海星学園高校2年だった。

海星学園は当時、勇斗さんの自死の隠蔽を図った。「突然死や、転校したことにもできる」と、遺族に嘘の死因の公表を提案。長崎県の担当者は「突然死はギリ許せる」と容認した。死因の隠蔽は、いじめ防止対策推進法に違反する行為だ。

その後、隠蔽をめぐる海星学園と県のやりとりは報道によって明るみに出た。自死の原因等を調べるため、海星学園は第三者委員会を設置。第三者委は調査の結果、「自死の主たる原因はいじめである」と結論づけた。

ところが、海星学園は第三者委の報告書の受け取りを拒否し、現在に至っている。

立憲・熊谷議員「罰則規定についても、具体的に進めていく」

参議院文教科学委員会の熊谷裕人委員長(右奥)に署名を手渡す遺族=東京都千代田区で2025年11月26日、千金良航太郎撮影

死因の隠蔽を図ろうとしたこと以外にも、海星学園と長崎県はいじめ防止対策推進法に違反する行為を重ねた。学校は、いじめの早期発見や相談体制を整備しておらず、いじめに関する調査結果を隠蔽し、遺族に虚偽の報告をした。知事は私立学校を指導・監督する立場にありながら、海星学園の対応を傍観した。

しかし、同法には罰則規定がない。このため、署名では学校設置者及び行政機関に対する罰則規定を盛り込んだ法律に改正することへの賛同を求めた。

2023年12月にオンライン上での署名活動を始め、約2年で、6万4792筆のもの署名が全国から寄せられた。

2025年11月26日、遺族は東京・永田町で署名を提出した。

署名を受け取った参議院文教科学委員会の熊谷裕人委員長(立憲)は、法改正に前向きな姿勢を見せた。法律は本来3〜5年で見直すものだが、本法律は施行から10年以上が経過している点を挙げ、こう述べた。

「私と同じ会派にいる、当時立法した際の中心メンバーからも、『そろそろ内容を改正したほうがいいんだよね』という声が出ている」

「議員に呼びかけをして、改正に向けた動きをつくっていく。どの点を改正すればいいのか、罰則規定についてもどうすればいいのか、具体的に進めていく」

自民・斎藤議員「まずは受け止めさせていただきたい」

衆議院文部科学委員会の斎藤洋明委員長(右奥)に署名を手渡す遺族=東京都千代田区で2025年11月26日、千金良航太郎撮影

同じく署名を受け取った、衆議院文部科学委員会の斎藤洋明委員長(自民)は、こう述べた。

「一委員長、一会派で何かできるわけではないが、まずは受け止めさせていただきたい」

勇斗さんの母・さおりさんは、署名提出後にこう述べた。

「署名提出の際、これを提出しても息子は戻ってこないのにな、という思いが頭をよぎりました。だけど、未来の子どもたちのために、声を上げられない人たちのために、という思いで提出しました」

遺族から文科省への4つの要望

文部科学省

いじめ防止対策推進法に基づき教育行政を担うのは、文科省だ。ところが文科省は、遺族からの署名提出の申し出を断った。この日に向けて、文科省の担当者と署名提出の調整をする中で、次のように言われていた。

「いじめ防止対策推進法は議員立法でできた法律なので、改正したいと思うのであれば、議員に出すのが筋ではないか」

遺族は驚いた。議員立法であろうとなかろうと、法律を基に行政を行うのは文科省だ。学校や都道府県が法律を破り子どもが犠牲になっている今、教育行政のトップとして遺族の声に耳を傾けるのは当然のはずだ。しかし文科省は、頑なに署名の受け取りを拒否した。

このため遺族は署名ではなく、「子どものいじめに対する国の対応に関する要望書」を提出した。衆・参の文科委員長に署名を提出した後、文科省初等中等教育局・児童生徒課生徒指導室の総崎由希室長に持参した。要望書で求めたのは次の4点だ。

①「いじめ防止対策推進法」及び「いじめの重大事態の調査に関するガイドライン」に基づいた研修の、全ての学校、学校設置者、教職員への義務化と、子ども・保護者への周知の徹底

 

②公立学校・私立学校を横断した、いじめ事案の情報の一元管理

 

③学校や各自治体が、「いじめ防止対策推進法」や「重大事態の調査に関するガイドライン」に違反した場合の措置の明文化

 

④いじめ重大調査記録を永久に保存し、再発防止のために役立てること

しかし、要望書に対して総崎室長は「いじめの重大事態が減るどころか増えていっている状況は、文科省としても留意するべき。それによる自死が起きないように、我々もしっかり取り組んでいきたい」と述べたものの真剣味がない。

例えばいじめに関する法制度の研修について、総崎室長は文科省として基本方針やガイドライン、研修事例集を作って説明会を実施していることなどを挙げ、「すでに周知・徹底はしています」と回答。さらに、そもそもいじめ防止対策推進法は「われわれ政府の側から提出したわけではなく、議員の皆様が必要だということで議論し作った」と述べ、「立法者である国会で議論していただくのが第一」と従来の見解を繰り返した。

面会の最後、遺族は「衆参委員長は受け取りましたが、文科省は受け取らないのですね」と最終確認した。

総崎室長は「持ってきていただいたので、受け取ります」。

「法改正するまで署名を集め続けたい」

記者会見で「いじめ防止対策推進法」の改正を訴える遺族=東京都千代田区で2025年11月26日、千金良航太郎撮影

遺族は、衆参の文科委員長への署名と、文科省への要望書を提出した後、記者会見を開いた。

父・大助さんは議員への署名提出についてこう述べた。

「衆・参両議員から前向きな言葉をいただいたので一歩前進。署名を提出した意味があったのかな」

一方で、文科省の対応には苦言を呈した。

「文科省は『国がこういう制度をやっている、ああいうことをやっている』としきりに言っていましたが、制度を作って終わりみたいな感じ。現場に運用を徹底させる意思が希薄です」

遺族は署名を現在も集め続けている。母・さおりさんはこう述べた。

「署名は、法改正するまで集め続けたいと思っています。一過性のものではなく、必ず子どもたちのためになる法律に変えてほしいと、ずっと言い続けていきたいと思っています。私たちの子どもだけでなく、いじめで苦しんだ全ての子どもたちのためにもなるし、未来の子どもたちのためにもなると思います」

署名サイトはこちら

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