
福浦勇斗さんが亡くなった公園で、命日に手をあわせる遺族=長崎市で2025年4月20日、千金良航太郎撮影
2017年4月21日午後8時。午前中に大学を飛び出してきた福浦直斗は、京都から新幹線やタクシーを乗り継ぎ、ようやく長崎市内の葬儀場に到着した。
部屋に入るや否や、母・さおりが「ナオ、ごめんねえ」と泣き叫ぶ。
母を支えながら、直斗は棺に近づいた。横たわる弟を見て思った。
「眠っているみたい」
「どうして?」
「学校にいくたびにトラウマの如く頭痛がする」
直斗が長崎に向かっている間に、父・大助と母・さおり、さおりの母と姉の4人が警察から事情を聞いた。大助が、直斗にその内容を伝えた。
勇斗(はやと)が見つかった場所は、自宅から歩いて15分ほどの公園だった。
住宅街を奥に進み、袋小路になった場所にある「本河内底部(ほんごうちていぶ)水源地公園」だ。小さな滑り台、ブランコに鉄棒、ボール投げや追いかけっこができる広場がある。近所の子どもたちの遊び場だ。
公園の奥に進むと、高台につながる階段に差し掛かる。91段。上りきった広場に遊具はなく、雑草が生い茂り、木が数本あるのみ。勇斗は、その中の一番大きな桜の木の下で命を絶った。
死亡推定時刻は、2017年4月20日の夜11時だという。
直斗は直感した。
「最近、勇斗が夜に出歩いていたのって・・・」
ここ1カ月ほど、勇斗は日が沈む時間に1人で出歩くことがあった。スマートフォンを家に置いたまま、家族に行き先を告げずに出かけ、帰ってくる。
大学進学前、直斗が実家で暮らしていた時には注意した。「スマホを持っていないと連絡が取れないから、ちゃんと持って行ってよ」。勇斗が亡くなる2日前にも同じことがあり、母が「せめて連絡がつくようにはしておいてね」と念押ししていた。
「命を絶つ場所を探していたのか、断念して帰ってきたのか・・・」。直斗には、そうとしか思えなかった。
勇斗はショルダーバッグを身につけたまま亡くなっていた。バッグの中には、A4のコピー用紙が入っていた。勇斗が綴った遺書だった。(明らかな誤字のみ修正。下線は原文ママ。)
第1発見者へ
もし見つけたら、けいさつ(警察)を呼ぶとき、もしできるならサイレンなしとかにして、マスコミにかぎつかれないようにして、周囲の人や家族に迷惑かけてたくないし、静かにしたいし、なかったことにできるだけしたいから。
なんどもいうけど、この状況になったのは、周囲のだれでもなく自分の責任(自己嫌悪)だから。でもまったく周りがそういうことがなかったかっていうと難しい。でもほとんどそういうことは自己嫌悪につながった。
家柄的にも不登校にもなれず、相談するような人もおらず、第一コミュニケーション能力もなかった。 学校にいくたびにトラウマの如く頭痛がする。いままでの自分が中3の時から崩れ始めた。
今が一番苦しい。昔のように友達と話す機会も減り、disられるのを恐れ、鼻息や呼吸が荒く、緊張し、つばがたまる。手も足も体も頭も、自分ではないのにすごく震える。家に着くと、ため息やひとり言が増え、頭痛もする。
どこか誰ひとりぼくを見てない場所に行きたい
ディズニーでペンギンの主役キャラをつくる夢
直斗は弟の死に、「なぜ?」を繰り返した。
亡くなる4日前、弟とある約束を交わしたばかりだったからだ。
直斗は京都の街を散策した際、雑貨屋でペンギンのぬいぐるみを見つけた。可愛いキャラクターが好きな勇斗だが、特にペンギンのぬいぐるみには目がなかった。
きっかけは、初めての海外旅行だ。勇斗が小学4年、直斗が小学6年の時、家族4人でシンガポールへ行った。その際に買ったワイルドリパブリック社のペンギンのぬいぐるみを気に入り、勇斗が「ペン」と名付けた。出かけるときも持ち歩くほどだった。
その様子を見た父・大助は、シンガポールへ出張するたびにワイルドリパブリック社のペンギンのぬいぐるみをお土産に持ち帰った。全部で3体になったペンギンたちは、わずかに顔が異なる。母のさおりにはあまり違いが分からなかったが、勇斗は「ペン」「ペンタロウ」「ペンタ」とそれぞれ名付けて、可愛がっていた。直斗の大学入学式で京都に来た際も、勇斗はペンタを持参していた。
勇斗の夢は、ディズニーで働くこと。アトラクションを設計したり、新しいキャラクターを考えたりするのが夢だった。ディズニーには、ペンギンのキャラクターがほぼいない。いても、サブキャラ止まりだ。勇斗は、主役級のペンギンのキャラクターをつくりたいという思いを持ち、構想を練っていた。
直斗は京都の雑貨屋でペンギンのぬいぐるみを見つけたとき、「これは勇斗が喜ぶな」とプレゼント用に購入した。
4月16日、直斗から勇斗に電話をかけた。ペンギンのぬいぐるみの話をすると、勇斗は「ほんと? 嬉しい!」。
「“ネタバレ”になるから、まだ見せないよ。次のゴールデンウィークに帰るから、楽しみにしていてね」
電話を切った後、よほど嬉しかったのか、勇斗から動画が送られてきた。
自宅にあるお気に入りのぬいぐるみに、自身の声をアテレコしたものだった。
これが、弟との最後のやり取りとなった。

勇斗さんのお気に入りのぬいぐるみ=遺族提供
「こんな形で渡すことになるなんて」
葬儀場では、母がずっと泣いていた。
親戚が到着するたびに「ごめん、ごめん」と謝った。「勇斗と二人暮らししていたのに」と自分を責め続ける。直斗は「ママのせいじゃない」と何度も伝えることしかできなかった。
今晩は葬儀場に泊まる。着のみ着のままやってきた直斗は、親戚に母を任せ、父とともに実家に着替えを取りに行くことにした。
車内で二人、さおりのことを心配した。
「このままでは、勇斗と一緒に逝っちゃうかもしれない」
「パパとナオで支えような」
自宅では着替えとともに、勇斗が特に好きだったぬいぐるみをカバンに詰めた。
ペン・ペンタロウ・ペンタの3匹、ディズニーの「ダッフィー」、ポケモンの「ナエトル」、ゆるキャラの「ふなっしー」、サンリオの「シナモロール」の抱き枕、バリ島で買ったオランウータンのぬいぐるみ・・・。
ぬいぐるみを葬儀場に並べると、少し柔らかい空気になったように直斗は感じた。
弟の棺にもいくつか入れた。弟がぬいぐるみを好きになったきっかけの「シナモロール」の抱き枕と、ディズニーキャラクターで一番好きだったクマの「ダッフィー」。
そして、ゴールデンウィークに渡すはずだった、買ったばかりのペンギンのぬいぐるみだ。
「こんな形で渡すことになるなんて」
(つづく)
*敬称略
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