記録のない国

官邸・内閣法制局の官僚4人の証人尋問へ 佳境に入る国葬文書隠蔽裁判 大法廷に傍聴者入りきらず

2026年03月19日 20時38分  辻麻梨子

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3月19日、「国葬文書隠蔽裁判」の第6回口頭弁論が開かれた。約100人が着席可能な大法廷は満杯となり、傍聴希望者が入りきらなかった。

裁判で焦点になっているのは、2022年7月12日から14日にかけて、官邸側と内閣法制局で行われた協議。7月8日に殺害された安倍晋三元首相の国葬を、閣議決定だけで実施できるかが話し合われた。

裁判の被告である国は、この3日間の協議を記録した文書について「捨てた」もしくは「作成していない」と説明しており、原告のTansaが「世論を二分した国葬実施について協議した文書がないはずがない」と追及している。

この日の第6回口頭弁論では、3日間の協議に参加した官僚4人の証人尋問を行う方向で日程を調整した。候補日として、8月21日、24日、9月10日が決まった。

提訴から1年半、裁判が佳境に差しかかっている。

裁判長から指摘を繰り返される国

東京地裁の103号法廷には、開始1時間前から続々と傍聴希望者が集まった。年代も幅広い。

ある女性は、裁判の傍聴は初めてだと話した。先日、Tansaの渡辺周編集長が出演したTBSラジオの番組を聴き、Tansaに関心を持った。番組のテーマは、自民党との癒着を示す統一教会の内部文書「TM特別報告書」だったが、渡辺の声に怒りがにじんでいて、共感したという。

市民の関心が着実に集まる一方、国の態度はどうか。

国葬文書隠蔽裁判は、これまで5回の口頭弁論が行われた。自ら積極的に問いを投げかける篠田賢治裁判長から、国は、明解な回答をするよう繰り返し指摘を受けている。

「(国の説明では)イメージがわかないところがある。法制局の参事官や部長、長官の反応を気にすることもあると思うので、そこを踏まえた釈明をしてほしい」(第2回口頭弁論)

「閣議決定を根拠として国葬儀を行う、という本質的な部分について法制局の参事官がまったくコメントをしないということがあるのか」「5W1Hを意識して書いていただくように」(第3回口頭弁論)

「決裁ラインがどうなっているのか」「(文書は)どの範囲でどうやって探索したのか」(第4回口頭弁論)

この日の口頭弁論でも、国側が自ら提出した書面の内容について裁判長が確認すると「正確性を期したいので、書面で回答したい」。篠田裁判長と傍聴席からは失笑がもれた。

「口裏合わせ」のような官僚の報告書

原告のTansaは、4人の官僚と原告代表・渡辺の計5人の証人尋問を申請。最終的に決定したわけではないが、篠田裁判長は5人を尋問する場合の日程を原告、被告と共にすり合わせた。その結果、8月21日、24日、9月10日が候補日となった。

4人の官僚はいずれも、2022年7月12日から14日にかけて行われた、官邸側と内閣法制局との協議に参加した人物だ。

西澤能之

内閣官房内閣総務官室内閣参事官(当時)、現・総務省行政管理局企画調整課長

 

御厩敷(おんまやしき)寛

内閣官房内閣総務官室企画官(当時)、現・水産庁漁政部漁業保険管理官

 

中嶋護

内閣府大臣官房総務課長(当時)、現・内閣府大臣官房審議官(沖縄政策及び沖縄科学技術大学院大学担当)

 

乗越徹哉

内閣法制局参事官(当時)、現・厚生労働省政策企画調整官

このうち、西澤氏、御厩敷氏、中嶋氏は昨年、当時の状況を語った報告書を提出した。内容については「法制局との3日間、官邸側の参加者4人が判明 情報公開請求には『不存在』の矛盾 国葬文書隠蔽裁判」(2025年10月6付)を参照してほしい。

3人の証言の特徴は、口裏を合わせたかのように、内容が似通っていることだ。

「安倍元首相の国葬実施を検討することになり、内閣法制局の乗越参事官と面会した。やりとりに関する文書は処分した。日頃から必要のなくなった文書はシュレッダーで廃棄し、メールも一定期間ごとに削除している。または覚えていない。Tansaの情報公開請求を受けて、自身の公用パソコンや執務スペースを確認したが、文書はなかった」

乗越・元内閣法制局参事官が「キーパーソン」

官僚4人のうち、残る1人は内閣法制局の参事官だった乗越徹哉氏だ。キーパーソンだが、国葬文書隠蔽裁判ではこれまで登場してこなかったため、原告側が証人尋問を申請した。

乗越参事官は、官邸側の訪問を受けて国葬実施について協議した。内閣法制局は「法の番人」とも言われ、政府が憲法と法律を逸脱していないかをチェックする役割がある。国葬を国会にも諮らず閣議決定で実施してもいいのか、そもそも国葬を実施することが内心の自由を保障した憲法に抵触しないか。官邸側としては、内閣法制局の見解を求めに行ったのだ。

Tansaは情報公開請求で、内閣法制局の応接録を入手している。そこには参事官だった乗越氏が、参事官補だった森下氏と共に官邸側との協議に参加。協議内容について、当時の近藤正春長官と、岩尾信行次長、木村陽一第一部長に相談した事実が記されている。

官邸側である内閣官房と内閣府は、裁判で法制局とやりとりした記録は「ないか、捨てた」とシラを切っているが、内閣法制局はどうなのか。長官に報告している以上、当然記録はあるはずなので、証人尋問で乗越氏に確かめようというわけだ。

証人尋問の日程は決まり次第、記事やメルマガ、SNSでお知らせする。

それとは別に、次回の口頭弁論の期日はすでに決まっており、5月12日(火)午後3時から。同じく東京地裁103号法廷で行われる。

高市早苗首相は今日、米国を訪問しドナルド・トランプ大統領との日米首脳会談に臨む。トランプ大統領は、ホルムズ海峡に艦船を派遣するよう、日本を含む各国に要請してきた。日本政府は、法の範囲内で自衛隊を派遣できるかどうか検討中だ。

今回のケースでも、政府は法制局に諮問し、その記録を作成しているはずだ。

しかし、国葬と同様に協議の記録が隠蔽されれば、市民は検証のしようがない。

「記録のない国」を当たり前にしないため、Tansaはこの裁判を闘っている。ぜひ裁判の傍聴にきてほしい。

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