編集長コラム

自民党政治の根本を問うには(118)

2024年06月29日15時35分 渡辺周

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政治資金収支報告書を管轄する総務省の担当者は、堂々と、歯切れ良く説明した。

「政治資金規正法第二十条の二にありますように、政治資金収支報告書の保存期限は3年ですので、それより以前のものは廃棄しております」

私は、自民党の企業・団体献金の受け皿である「国民政治協会」の政治資金収支報告書を入手しようとしていた。総務省のウェブサイトには直近3年度分が掲載されているが、それよりも以前のものがほしかった。わざわざ総務省に電話して尋ねたのは、過去にさかのぼって情報公開請求した場合、何年度分から所有しているかを知るためだった。

しかし、答えはまさかの「廃棄しております」。

自民党への企業・団体献金を調べようと思ったきっかけは、農薬の取材だ。

食品や飲料を通じて摂取した場合、健康を損なう可能性のある農薬が、近年の研究で指摘されている。特に子どもの脳の発達への悪影響が危惧されている。世界ではそうした農薬を規制する国が相次ぐ。

ところが、日本の規制は甘い。農水省は農薬会社の出先機関ではないかと思えるような政策もある。私は、政権運営を担う自民党と、農薬会社の癒着を疑った。

例えば農薬大手の住友化学は2022年度、全業種の企業の中で、トヨタと並ぶ最多の5000万円を献金している。2021年度もトヨタと共に5000万円でトップ、2000年度は6番目の3100万円だ。しかも、日本の大企業で構成される「日本経団連」の会長は、住友化学の十倉雅和・代表取締役会長だ。

総務省が現在公表しているデータでは、2020年度、2021年度、2022年度分しか分からない。もっと過去のものも知りたいと思った。自民党は、1955年に日本民主党と自由党による「保守合同」で結党して以来、ごく一時期を除いて政権の座にある。長年にわたって農薬会社から献金を受けていることで、政策に影響が出ているかもしれない。自民党政権の期間が長い以上、今の政策は過去の政策の延長線上にある。

手間隙かけることに意気投合の理由

総務省の担当者が、「直近3年度分より前の政治資金収支報告書は廃棄している」と堂々と説明したのを聞いて、私は心底腹が立った。これは政治権力による「証拠隠滅」でもある。政治資金規正法違反の公訴時効は5年。不正が疑われ、5年前の容疑を警察や検察が捜査しようとしても、肝心の証拠が捨てられてしまっていることになる。

このまま、「そうですか、文書を捨てたのなら仕方ないですね」とあきらめるわけにはいかない。あまりに姑息だ。

農薬会社だけではなく、全ての企業と自民党との関係を洗い出そうという気持ちが湧き起こってきた。折しも自民党は、政治資金をめぐる不正であれだけ信用を失墜させたにもかかわらず、政治資金規正法の改正で企業・団体献金には全く手をつけなかった。

「政治資金収支報告書のような大事なものが、過去のものだからといってないはずがない、どこかにある」。そう思って探していると、やはりあった。総務省とは別のところだ。

ただ、過去何十年分ものデータを収集して整理するには相当な手間隙がかかる。Tansaは小さなチームで、いくつもの大きなテーマを並行して取材している。これ以上の負担をメンバーにかけたくないという気持ちもあった。

だがTansaのメンバーは一同、学生インターンも含めて「やろう!」と意気投合した。

探査報道をしていて、いつもぶち当たる壁は、大企業にとって都合のいい政治だ。犠牲者や市井の人たちに自民党政治の焦点は合っていない。その歯痒さが、忙しい中にあっても大変な仕事をやろうとする原動力なのだと思う。性犯罪の温床となったアプリの取材で協力してくれたホワイトハッカーも、今回はデータ処理で力になってくれている。

地味で緻密な作業をヒタヒタと進め、自民党への企業・団体献金を分析するためのデータベースが完成した。今は記事のリリースに向けて大詰めの作業だ。

マスコミ各社の報道では、いつの間にか自民党の総裁選がクローズアップされている。

だが問うべきは、このまま自民党に政治を委ねてもいいのかということだ。総裁選で自民党の看板を変えるかどうかはどうでもいい。抜け穴だらけの政治資金規正法を出してきた時点で、自民党という政党そのものが腐っているとしか言いようがない。

記事は近くリリースする。企業のための政治か、市井の人たちのための政治か。どちらが大切かを考える機会にしてほしい。

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