クラック音楽への造詣は深くないが、『ボレロ』だけはよく聴く。Tansaの成長イメージを重ねて反芻している。
時代の足音に耳を澄ませ、音楽を奏で始める。最初はよく聞こえないような小さな音だが、一人、また一人と奏者が加わっていく。楽器はフルートや小太鼓、ハープと様々。だが奏でるメロディーは同じ。それを、奏者を加えながら徐々に太い音にしていく。最後は空間を揺るがすような合奏となるーー。
3月からTansaに千金良航太郎が加わった。毎日新聞からの転職だ。
千金良は学生インターン時代、探査報道を学んでいる。2019年にドイツのハンブルクで開かれた「Global Investigative Journalism Conference」(世界探査ジャーナリズム会議)にも共に参加した。世界中から集まった千数百人のジャーナリストたちの熱気と技術に触れて、刺激を受けたはずだ。インターン時代に抱いた希望をすり減らすことなく、こうしてTansaに帰ってきたのが本当にうれしい。映像制作という新しい楽器を持ってのカムバックだ。
学生インターンは一般的に、就職活動で自分を売り込む一環であることが多い。社員たちの仕事のじゃまにならない程度に活動し、受け入れる方もインターンはお客様扱い。自分の仕事で精一杯で、本気で何かを教えようとはしない。
Tansaは違う。同じ志を持つ同僚として付き合う。だからこそ、専従メンバーはどうすればインターンが成長するかを考えながら、日々何かを伝えようとする。インターンがTansaの当事者となっていく。Tansaが発信する探査報道について「よくこんなに手間暇をかけたね」とメディア業界の人から言われることがあるが、それはチームでエネルギーを注いでいるからだ。
千金良は、大学を卒業しTansaを去る際の送別会で泣いていた。あれは学生時代の思い出への郷愁ではなく、当事者から抜けることの寂しさだったと思う。
Tansaのインターン出身者は、それぞれ新聞社やテレビ局、通信社で働いている。任地も様々。東京や私が出張した先で、夜に会って一杯やることがある。
現場でもまれ、しっかりしたなと思う半面、生気がないと感じることが多い。社員を何かと締め付ける会社、闘う意思を失っている上に不機嫌な上司、世論からの「オールドメディア」批判。そうした環境に身を置く中ですり減ってしまっている。
それでも、再会し酒を酌み交わしていると元気になる瞬間がある。先日会った元インターンとは、「孫ジャーナリスト」構想で盛り上がった。自身の祖父母を取材して、戦後史を記録しようという企画だ。彼が敬愛する祖父の昔話が面白いという話題をきっかけに、「孫にならいろいろと話をしてくれる。しかも聞き手はプロのジャーナリスト。個人史から戦後80年を紡ぐのはどうか」という話に発展していった。彼は生き生きとしていた。
インターン経験者が、それぞれお気に入りの楽器を携えて、Tansaに合流する。太い音を轟かせて社会を変える。そのためには、ボレロのように焦らず着実に、自分たちのメロディーを繰り返し奏で続けることだと思っている。

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