編集長コラム

「核保有発言」の官邸幹部は誰? マスコミ各社は公表を(191)

2025年12月20日14時43分 渡辺周

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官邸幹部が「日本は核兵器を保有すべきだ」と発言した。高市早苗首相に対し、安全保障政策について意見する立場だという。マスコミ各社が報じている。

報道を受けて、自民党の中谷元・前防衛大臣は「けしからん話。公になった以上、首相はしかるべき対応をしなければならない」と発言した。

野党も反発した。立憲民主党の野田佳彦代表は「早急に辞めていただくことが妥当」、公明党の斉藤鉄夫代表は「安全保障環境を劇的に悪化させる。罷免に値する」と言っている。

官邸幹部の発言は「個人的な見解」では済まされない。政府はすでに、核兵器の保有だけではなく、核兵器の使用でさえも「憲法9条に反しない」という見解を出しているからだ。安保政策を高市首相に意見する官邸幹部が、核兵器保有を口にすれば現実味を増す。

核兵器保有への道を開いたのは、岸信介首相だ。

1957年5月7日、岸首相は国会で答弁した。

「憲法の解釈、純粋の憲法解釈論としては、私は抽象的ではありますけれども、自衛権を裏づけるに必要な最小限度の実力であれば、私はたとえ核兵器と名がつくものであっても持ち得るということを憲法解釈としては持っております」

2002年6月10日、今度は安倍晋三氏が、祖父の岸氏の名前を出して国会で答弁する。安倍氏は官房副長官だった。

「私は、我が国が自衛のための必要最小限度を超えない実力を保持することは憲法第九条第二項によって禁止されていない、したがって、そのような限度の範囲内にとどまるものである限り、核兵器であると通常兵器であるとを問わず、これを保有することは憲法の禁ずるところではない」

「岸内閣の見解、岸答弁も紹介しております」

安倍氏はその後首相となり、核兵器の保有だけではなく、使用にまで踏み込んだ政府見解が確定した。2016年3月18日の参議院予算委員会で、横畠裕介内閣法制局長官が次のように答弁したのだ。

「憲法上全てのあらゆる種類の核兵器の使用がおよそ禁止されているというふうには考えておりません」

こうみると、岸、安倍という「ファミリー政治家」が敷いた核兵器使用へのレールを、安倍氏に師事した高市首相が走っていることが分かる。高市官邸の幹部の発言は、オフレコで口が滑ったという類のものではない。必然だ。

核兵器に対して、世論がどこまで反発するかを確かめるための発言だった可能性もある。反発が弱い、もしくは歓迎されたら、高市政権は一気に事を進めるつもりなのかもしれない。

これほどの重大事にも関わらず、マスコミ各社は官邸幹部の名前を伏せている。

「安保政策で高市首相に意見する官邸幹部」ということであれば、尾上定正・総理補佐官がいる。航空自衛隊出身。退官後は2023年に防衛大臣政策参与を務め、今年10月から「国家安全保障に関する重要政策及び核軍縮・不拡散問題担当」の総理補佐官に就任した。

高市氏は自身の2022年4月12日付コラムで次のように、尾上氏のことを紹介している。

「古くからの飲み友達であり、同じ奈良県出身者でもある航空自衛隊OBの尾上定正氏に、ご本人の知見を伝授していただくとともに、陸海空の各専門家も紹介していただきながら、国防政策の方向性を考え続けています」

当該の官邸幹部が尾上氏だったのか。マスコミ各社は報道しないことを前提とする「オフレコ」を破ったから、せめて名前は出さないというのが建前なのだろう。実際は権力との馴れ合いであり、マスコミ各社間の談合だ。

本来ならば、官邸幹部の名前を公表し、核兵器に関して高市首相とどのような話をしているのか詰めるべきだ。国是である「非核三原則」を、政権を担う者が否定したのだから、この幹部を罷免するべきだと高市首相に迫らなければならない。匿名のままでは物事が進まない。

なぜこれほどシンプルなことができないのか。

私は、マスコミ各社が「取材した情報は自分たちのものだ」と錯覚していることが大きな理由だと思う。権力者の近くで仕事をする中で、歪んだ特権意識が醸成されるのだろう。

しかし、情報は市民のものだ。報道機関は市民から権力監視の負託を受け、取材している。そのことを忘れてはならない。

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