編集長コラム

「トランプの米国」より危ない「高市の日本」(194)

2026年01月10日15時21分 渡辺周

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米国のミネアポリスで1月7日、移民税関捜査局(ICE)がレネー・グッドさんを射殺した。

グッドさんは米国市民で、3人の子の母だった。6歳の息子を小学校に送った後、帰宅途中にICEの摘発現場に遭遇。ICEの捜査官が近づいた際に車を発進させたところ、頭を撃たれたという。

トランプ大統領は「不法移民の大規模強制送還」を進めており、ICEが摘発を担っている。車の窓ガラスを割るなど暴力的な手法を使うので、批判が高まっていた中での事件だ。

グッドさんの死を受けて、トランプ大統領はSNSに「過激派左派がICEの捜査官を、常々標的にしている」と投稿した。

市民は怒った。ミネアポリスでは「ICEは出て行け」と抗議デモが続いている。ニューヨークやロサンゼルスなどでも抗議デモが起きている。

もし日本で今、同様の事件が起きた場合、米国のような規模で抗議デモが起きるだろうか。高市首相も「違法外国人ゼロ」を掲げている。排外的な姿勢がトランプ大統領と似ており、米国のような事件が起きてもおかしくない。

私は、日本では市民が一斉に立ち上がるような抗議デモは起きないと思う。理由は二つある。

一つは、日本の市民は公権力に対する警戒感が薄いということだ。

入管で外国人が虐待されて命を落とそうと、労働組合の組合員が逮捕されようと「やられるのは少数派。多数派に身を置いていれば大丈夫」と高を括っている。

もう一つが、トランプ大統領と高市首相の支持率の違いだ。

トランプ大統領の支持率は4割程度だが、高市首相は昨年10月の政権発足以来、約7割をキープしている。米国ではトランプ大統領に抗する人も多いが、日本では高市首相に異議を唱える人は少ない。

暴走を止める市民の力が不足しているという点で、「トランプの米国」より「高市の日本」の方が危ない。さらに日本の場合、多数派からこぼれ落ちまいと一色に染まる怖さがある。

読売報道の「タイムスリップ」

高市首相は、メディアの風も受けている。

日本のマスコミは、政権の支持率が下がれば、水に落ちた犬を叩くように倒閣報道を展開する。だが支持率が高いと、おっかなびっくりだ。同調圧力に呑み込まれているか、多くの読者・視聴者を獲得しようとしているか、あるいは両方だろう。

今日の朝刊で、読売新聞が1面で「首相、衆院解散検討/2月上中旬 投開票/23日通常国会冒頭に」と報じた。3面は「政権安定へ勝負/高支持率 慎重論振り切る」で、記者の署名欄には「政治部 田島大志、藤原健作」とある。

「政権安定へ勝負」というフレーズは、高市首相と読売新聞との一体感を窺わせる。実際、中身も高市首相に寄り添っている。

例えば日中関係。1面にはこう書いている。

「首相には、政権基盤を強めることで、悪化する日中関係の局面を打開したい意向も働いたとみられる」

意味不明だ。高市首相の力が強まれば、日中関係は一層こじれるのではないか。

3面でも日中関係に言及している。

「首相は、衆院選の勝利で求心力を高め、じっくりと中国と向き合う環境を作る必要性も感じていた」

じっくりと中国と向き合う環境を作って、具体的に何をするのかが分からない。本来ならば、ノーアイデアの高市首相を批判するべきところだが、「じっくりと向き合う」という前向きな表現で擁護しているようにみえる。

他にも、高市首相の代弁者のような内容が多いが、私が強い違和感覚えたのは次の一文だ。

「首相には『高い支持率のうちに信を問うのが得策だ』との意見も届き、主戦論のメリットが大きく見えるようになった」

「主戦論」という言葉づかいは、戦前へタイムスリップしたようだ。政治権力と一体化する中で、新聞記者が高揚してしまっている。当時は「暴支膺懲」(ぼうしようちょう)の大合唱だった。暴支膺懲とは、「横暴な中国を懲らしめる」という意味だ。

先日、教え子の中国人留学生が会いにきた。彼は、私が講師を務める大学で法律やジャーナリズムを学んだ。その後も日本で勉強を続けていたが、中国に帰ることにしたという。理由はいくつかあったが、最後にボソリと言ったことにハッとした。

「日本にいても、中国人への風当たりが強くなるばかりなので」

彼の帰国を惜しむ人は、今の日本では少ないだろう。そのことが、私は悔しい。たとえ少数派でも、高市政権に抗する。

官邸ホームページより

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