編集長コラム

しょげてたまるか(199)

2026年02月09日18時47分 渡辺周

FacebookTwitterEmailHatenaLineBluesky

異様な自民党大勝だ。

・大企業のために非正規雇用を増やした

・財政を悪化させて将来の社会保障を危うくした

・安保3文書を改定し、戦争への道を開いた

いずれも国民を追い込む政策だ。統一教会との癒着や裏金など、腐敗にまみれてもいる。

それにも関わらず、高市早苗首相をはじめ自民党の政治家たちを、多くの有権者が選択した。316席。結党以来、最大の勝利だ。

もはや日本は、社会病理に侵されているのではないか。日本という閉鎖空間での「空気の勢い」が、そのことに気づかせていないだけではないか。

野田代表と昭和天皇の共通点

選挙結果を受けて、中道改革連合の共同代表である野田佳彦氏と、斉藤鉄夫氏が記者会見を開いた。私は野田氏の言葉にギクっとした。

「いわゆる独特の空気に結果が左右されてしまった」

具体的にどういうことか。記者が質問しても、野田氏は答えられない。

「まさに空気なので、説明しようがない。裏金とか個別の問題を超えていて、抗い難いもの」

斉藤氏も同じ感想だという。

野田氏と同じようなことを、昭和天皇も述べていた。

初代宮内庁長官の田島道治が、昭和天皇から聞き取った『昭和天皇拝謁記』(岩波書店)の中で、日本が戦争に突入して行った時のことを振り返る言葉が出てくる。

「形は命令一本で出て行くといふ事になるかも知れぬが、実際は善悪は別として世論とはいへぬとしても時勢の勢がそういふ趨勢になつて(中略)、何れにしてもそういふ時の勢の裏付けなしに命令一下出来るものではない」

「私など戦争を止めようと思つてもどうしても勢に引づられて了った」

「結局勢といふもので戦争はしてはいかぬと思ひながらあゝいふ事になった」

天皇は、大日本帝国憲法下では主権者だった。その天皇でさえ、「空気の勢い」に抗えなかったのだ。

自民党の本質

自民党の本質は、現行憲法と自民党の草案を読み比べれば分かる。象徴的なのは、前文の出だしの1行だ。

【現行憲法】

「日本国民は、正当に選挙された国会における代表者を通じて行動し、われらとわれらの子孫のために、諸国民との協和による成果と、わが国全土にわたつて自由のもたらす恵沢を確保し、政府の行為によつて再び戦争の惨禍が起ることのないやうにすることを決意し、ここに主権が国民に存することを宣言し、この憲法を確定する」

【自民党草案】

「日本国は、長い歴史と固有の文化を持ち、国民統合の象徴である天皇を戴く国家であって、国民主権の下、立法、行政及び司法の三権分立に基づいて統治される」

注目すべきは、現行憲法の主語は「日本国民」であるのに対して、自民党の草案は「日本国」であることだ。自民党は、「民あっての国」ではなく、「国あっての民」だと考えているのだ。

高市総裁の自民党が衆院選で掲げたスローガンは「日本列島を、強く豊かに。」だった。列島が強く豊かになってどうするのか。日本で暮らす人々が主語になっていないのは、単なる偶然ではない。これが自民党の本質なのだ。

しかし、たとえ自分たちの方を向いていない政党であっても、国民は自民党を選んだ。「空気の勢い」の怖さだ。

「万死に値する」への違和感

野田氏は記者会見で、選挙結果の責任について「万死に値する」とも言った。この言葉に、私は二つのことを感じた。

一つは、1万回も死ぬ覚悟があるならば、なぜもっと必死になって選挙に臨まなかったのかということだ。

もちろん、立憲民主党と公明党が一つの党になるという決断は、覚悟のいることだっただろう。その意味では、野田氏と斉藤氏には勇気があった。

しかし、一つの党になるという決断をしたこと自体が、ゴールになってしまった感がある。

中道改革連合の政策では、立憲民主党が「安保法制」と「原発ゼロ」で公明党に譲歩した。国の根幹政策で妥協した瞬間、私は「ああ、本気じゃないな」と思った。多くの有権者もそう思っただろう。

公明党も、自民党と連立政権を組む中で、安保法制や原発政策で譲歩してきた。自民党に公明党が譲歩し、公明党に立憲民主党が譲歩した延長に、中道改革連合があるということになる。茶番だ。

もう一つは、「万死に値する」という言葉には、中道改革連合の悲壮感が表れているということだ。

自民党の麻生太郎副総裁が選挙中、「高市総理になって明るくなったでしょう」と言って笑いを誘っていた。石破茂前首相を揶揄してのことだろうが、どんなにマトモなことを言ったとしても、多くの人は意味不明でも明るく振る舞う政治家になびいてしまう。

閉塞感が支配する社会で、悲壮な姿を見せることがどれだけマイナスか。中道改革連合は最初から、立憲民主党と公明党が追い込まれた末の「窮余の策」と有権者に映ってしまっていた。

比喩にせよ、「万死に値する」という表現はやめてほしい。戦争で死を強いられた幾多の人たちを、冒涜することになると思うからだ。戦争を阻止すると謳う政党の党首が、口にするべき言葉ではない。

落選した党内の同僚たちへの責任ではなく、社会への責任を感じているのならば、生きて闘い抜くと宣言するのが筋だろう。

だからこそ笑う

Tansaはここからどうするか。

しょげてたまるかと思う。

昨年11月、マレーシアで開かれた「世界探査ジャーナリズム会議」(Global Investigative Journalism Conference)でのことだ。

韓国のニュースタパ、台湾の報導者のメンバーと会食をしていて、「タガの外れた右傾化が、日本、韓国、台湾で進んでいる」という話題になった。しかもこれは、ナチスのような極右勢力が台頭するドイツをはじめ、世界的な社会現象だ。「ストップ・ザ・極右」という企画で、各国の報道機関が連携することになった。

先週の2月6日、ニュースタパの創設者であるキム・ヨンジンさんがTansaにやって来た。企画についての打ち合わせだ。

取材対象は多岐にわたり、様々な切り口が考えられるが、その一つに労働組合への弾圧がある。

韓国ではユン・ソンニョル氏が大統領の時、建設労組が「建設暴力団」のレッテルを貼られ約2000人が召喚、40名超が逮捕された。日本では安倍政権の時から「関西生コン支部」への弾圧が始まり、労組員延べ89人が逮捕された。労働運動を弾圧する政権を、暮らしに困窮する人たちが支持するのは矛盾している。「タガの外れた右傾化」が根底にある。

キムさんが関生支部の弾圧について知りたいということで、関生支部委員長の湯川裕司さんにも、打ち合わせに参加してもらった。

キムさんも、強制捜査を受けたことがあり裁判が継続中だ。ユン政権時、ユン氏の検事時代の不正をニュースタパが追及したことで、ソウル中央地検特別捜査チームに家宅捜索を受けた。今も押収されたスマホが返ってこない。

私は湯川さんとキムさんに「二人は弾圧されたもの同士ですね」と話を振ると、こんなやり取りになった。

キムさん「私は逮捕と勾留はされていない」

湯川さん「韓国は、勾留に関しては適用が厳しいんですよね。最大でも20日とかですよね」

渡辺「湯川さんは、何回も逮捕されて、勾留644日ですもんね。何回逮捕されたんでしたっけ?」

湯川さん「8回。勾留20日くらいやったら大したことないですよね。目を閉じて、ハッと目を覚ましたらもう20日経ったくらいのもんですよ」

キムさん「そりゃあ、ひどい」

湯川さんも、キムさんも大笑いしていた。

本当は深刻なことだ。

湯川さんは勾留中、刑事弾圧を恐れて労組員たちが次々と去り、家族に苦労をかけ、自身の心身も痛める。キムさんも同様だ。ニュースタパと自宅が特捜検察に踏み込まれるという事態は、報道機関の長として心労が重なったはずだ。

それでも二人は笑った。だからこそ笑った。

まだまだ闘いはこれからだ。

幸い、Tansaは良き同僚とサポーターに支えられている。選挙期間中、「TM特別報告書」を検証し、自民党と統一教会の癒着について記事を出す中で、多くのサポーターに励まされた。選挙後、寄付をいただいた方からはこんなメッセージをいただいた。

「昨日投開票が行われた衆議院議員選挙での自民党の大勝を見てTANSAの重要性がますます高まったと感じました。このままでは危ない。強くそう思いました」

信念と理性に支えられた「勢い」で巻き返していこうと思う。

FacebookTwitterEmailHatenaLineBluesky
編集長コラム一覧へ