編集長コラム

3万円のカタログギフトと3千円の祝い金(202)

2026年02月28日12時37分 渡辺周

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高市早苗首相が、315人の自民党衆院議員に、1人あたり3万円相当のカタログギフトを贈っていた。

衆院選で当選したことへのねぎらいだと高市首相は言うが、嘘をつくなと思う。党内での求心力を強めるため、媚びただけだ。

本当に人をねぎらうためのお金は、どういうものか。私は19歳の時に体感した。

1994年春、志望していた早稲田大学に合格した。1年間、関東の新聞配達所に住み込みで働きながら浪人生活を送った。

合格発表の日は大学の掲示板を見に行き、配達所に戻ってそのまま夕刊の配達へ。配達を終えて自室に帰ると、ドアノブにビニール袋がかかっていた。ザラ紙に書かれたメッセージと、封筒が入っていた。同じ配達所のAさんからだった。

「おめでとう。大阪の実家に帰るしんかん線代のたしにしてください」

私が配達所に戻った時、Aさんはですでに夕刊の配達に出発していたが、他の従業員に私が合格したことを聞いたのだ。

封筒を開けると、3千円が入っていた。新幹線代は、東京から新大阪まで当時も1万3千円くらいかかった。3千円では、本当に足しにしかならない。

それでもAさんからの3千円が、私には嬉しくて仕方がなかった。Aさんの経済的な苦境を知っていたからだ。

Aさんは母親の借金の保証人になったものの、母親は失踪。借金がAさんの肩にのしかかった。新聞配達所で懸命に働いていた。朝夕の配達の上に、私のような予備校生とは違って、新聞の営業活動がある。かなりの重労働だったが、Aさんの前職よりは給料が良かった。

「なんだかなー」がAさんの口癖だった。なぜ自分がこんな苦労を背負わないといけないのかという気持ちだったのだと思う。

Aさんに親近感を抱いた。私も「なんだかなー」と思うことがしばしばだったからだ。

他の予備校生たちは、親に授業料を払ってもらい、実家から通って衣食住に不自由なく受験勉強に専念している。私は家が困窮していたのでそうはいかない。新聞奨学生という制度は、予備校代を出してくれるのでありがたかったが、途中で辞めれば返済しなければならない。睡眠時間は1日4時間。急に体調が悪くなってうずくまってしまう時もあったが、辞めるわけにはいかなかった。

それでもAさんと私には希望があった。Aさんは将来カレー屋さんを開きたいということで、ジッパー付きのビニール袋に入れた試作品をよく私にくれた。私も志望校に入れば、そこから未来が開けると思っていた。

困窮の中にあっても、Aさんは希望を持って私をねぎらってくれた。それが3千円だったのだ。Aさんの思いを裏切ってはならないと、30年以上が経った今でも思っている。

高市首相は、315人の自民党衆院議員に、1人あたり3万円相当のカタログギフトを贈った。原資の1000万円は、自身が代表を務める自民党奈良県第2選挙区支部から支出したが、「政党交付金は一切使用することはありません」と自身のXで釈明している。

だがお金に色がついているわけではない。自民党奈良県第2選挙区支部に政党交付金が入っている以上、支部からの支出は納税者への愚弄だ。

仲間内の国会議員に媚びるための贈り物を「ねぎらいのため」とごまかすよりも、疲弊している市井の人たちをねぎらうことが先決ではないのか。

それができない人に、首相の資格はない。

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