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反省なき浪費(28)

2023年03月29日20時42分 辻麻梨子

全く同じ構図だと思った。

地方創生と、物価高対策と銘打った統一地方選挙前のばらまきだ。

3月28日、政府は物価高対策やコロナ対策として、約2.2兆円の予備費の支出を閣議決定した。このうち、1兆2000億円が「コロナ地方創生臨時交付金」だ。この交付金については昨年、私がシリーズ「虚構の地方創生」の中で1794自治体の約6万5000事業をデータベース化。その無駄遣いを明らかにした。

1兆2000億円のうち、5000億円分が低所得者世帯への3万円の給付だ。残りの7000億円は、LPガス料金の負担軽減費用などとしてあてがわれた。

問題は、使い道の枠こそあるが、実際には柔軟性が高いことだ。低所得者層への給付では、1世帯あたり3万円は目安で、給付額や対象は地方自治体が決められる。エネルギー料金の高騰対策に至っては、地方創生臨時交付金の推奨メニューに加えるだけだ。「物価高対策」という名目さえあれば、地方自治体が自由に使える予算になるだろう。

今回の1兆2000億円が、統一地方選前の選挙対策であることは、予備費として予算が計上されていることに表れている。予備費とは、予算の成立後に計上される「予見し難い」予算の不足に充てるための経費だ。だが、物価やガス・電気料金の高騰は、昨年からすでに予見されていた。

過去にも自民党政府は同じ振る舞いをしてきた。千代田区の一律12万円の給付や、福井県での結婚するカップルへの5万円のギフト進呈など、私が無駄遣いを報じたコロナ地方創生臨時交付金は、8年前の統一地方選前に始めた地方創生の政策が元なのだ。

2014年の暮れ、第二次安倍政権は衆議院を解散して総選挙を行った。解散の目的は、消費税の再増税の信を国民に問うことだが、安倍政権は「ムチ」だけではなく「アメ」も忘れなかった。地方創生で全国の自治体に予算をつけていくことを目玉政策として掲げたのだ。数ヶ月後には、統一地方選が控えていた。

地方創生の目的は東京への一極集中を是正し、地方の人口を増やすことだ。始まりは増田寛也・現日本郵政社長率いる「日本創生会議」が2014年5月に発表した、「消滅可能性都市」だった。全国の自治体の約半数が、人口減少によって将来的に消滅するという予想を示したのだ。政府はこの年の9月に対策本部を設置し、11月には「まち・ひと・しごと創生法」をあっという間に成立させた。

自民党がこの選挙で大勝した一方、地方創生の結果はどうか。法制定から8年あまり、東京への一極集中は変わらないどころか、人口減少は予想以上のスピードで進んでいる。第一の目的であった人口増加は、まったく実現していない。

事態が深刻なのは、政策が失敗しても誰一人として責任を取らないことだ。それどころか、地方創生という政策の枠組みを利用し、コロナ禍で臨時交付金のばらまきを行った。

これでは、2014年に異例のスピードで進めた地方創生に関する法制定が、単に間近の統一地方選に間に合わせるためだったと言われても仕方がないだろう。

岸田文雄首相は2022年5月、国会で地方創生臨時交付金の使い道を「政府としてもしっかり検証する」と答弁した。蓮舫議員が、Tansaの記事を引用して行なった質疑に対する答弁だ。

だが政府の検証は2020年度分のみで止まっている。さらには、交付金の使い道を掲載していた内閣府のウェブサイト「地方創生図鑑」が3月31日で閉鎖するという。

私は岸田首相が国会で述べたことは嘘だったと思う。検証が中途半端なまま、今回新たなばらまきを決めたからだ。

税金の使い道のモラル崩壊を食い止めるには、たとえ膨大な国家予算でも、納税者一人ひとりが自分の財布のこととして真剣に考えることが大切だ。私は事実を提示するため、地方創生臨時交付金をはじめとし、再び税金の使途を調べ始めた。

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