保身の代償 ~長崎高2いじめ自殺と大人たち~

「大事なお客様だからといって、報道機関が自治体を擁護しないで」–共同通信編(21)

2023年06月15日17時11分 中川七海

共同通信の石川陽一は、著書『いじめの聖域』で、長崎県が長崎新聞にとって大きな広告主である点を突いた。県を擁護する長崎新聞のことを「スポンサーに忖度していると読者に受け取られかねない」と書いた。

審査委員会を設置した共同通信にとって、この指摘は「長崎新聞に対する名誉毀損」であり、石川を追及する上で重要な材料だ。

だが、福浦勇斗(はやと)の母・さおりと、父・大助は25年来の読者として、長崎新聞は県に忖度していると感じる。審査委員会に提出した意見書で、その実感の源を説明していく。

長崎新聞社=2023年6月9日、中川七海撮影

「長崎新聞を読めば自治体が広めたい情報はわかる」

石川が著書で示したのは、長崎新聞が県から毎年安定した収入を得ているという事実だ。2021年度に長崎県から長崎新聞に約900件の支払い履歴があったことを挙げ、こう指摘した。

「長崎新聞が勇斗の件で、なぜ県に追従するような態度を取ったのか、その真意は分からない。ただ、一般市民は新聞社の内部的な仕組みなんて詳しく知らないのだ。多額の金銭をやり取りしている相手だからこそ、不祥事を起こした際は厳しい態度で追及していかなければ、『スポンサーに忖度しているのだな』と読者に受け取られかねない。もしそうなれば、余計に見放されてしまうだろう」

「利害関係がある相手を批判する内容であれば、マスメディア企業は平気で黙殺を試みる恐れがある」

さおりと大助は、「その通りだ」と長崎新聞を25年間購読している読者として思った。さおりは意見書にこう綴った。

なぜ長崎新聞だけが、県側を擁護する記事を敢えて掲載したのか、県と歩調を合わせる必要性があったのか、今でも疑問に思います。

 

長崎新聞には、県や市などの自治体の広告が度々掲載されます。一読者の私たちも、長崎新聞を読めば県内の自治体が広めたい情報のことはだいたいわかる、と思うほどです。

 

当たり前のことですが、広告というのは例え自治体であっても有料であり、長崎新聞が県や市町村と多額のお金の取引をしていることは、誰にでも簡単に理解できます。

 

書籍にも書かれてありますが、県が各企業や学校等に支出した金額というのは公金であることから、容易に一般の市民が検索できるようになっています。また、公金だけではなく、首長の定例記者会見もおこなわれることを鑑みますと、自治体は報道機関にとって、多くの情報を提供してくれる存在だと思うのです。もちろんそこには、自治体が推進する事業の紹介など(例えば、観光キャンペーンや学生向けのUターン推進など)有償のものもあります。自治体は大事なお客様でもあるわけです。

長崎新聞を避けた理由

さおりは、勇斗の事件についてメディアを頼ることにした、2019年当時の経緯にも触れた。さおりと大助は、長崎新聞が掲載する広告に着目していた。

思えば、長崎新聞に不信感を覚えたのはこれが最初ではありませんでした。2019年2月に息子のいじめ自殺が初めて報道されましたが、これは西日本新聞へ私たち遺族が情報提供したことによるものです。

 

敢えて、地元の長崎新聞を避けたのには理由がありました。それは、長崎新聞の読者でもある私たちは、当時、紙面に度々大きく海星学園の広告が掲載されているのを目にしていました。長崎新聞に情報を提供しても、海星学園はお客様であるために、そのお客様にとって不利な情報はもみ消されるかもしれない、との恐怖心があったからです。

 

<中略>

 

海星とつながりがないような西日本新聞に連絡を取ることを決めたのです。

「命の重みが問われている事案で」

長崎新聞が県を庇う記事を出すので、さおりはみずから、県から長崎新聞への支払い履歴を確かめたことがある。石川の指摘どおりだった。

「石川さんの本にも書いてありましたが、長崎新聞にとって県は大のお得意様であることがよくわかりました。やはり、県と長崎新聞は蜜月なんですね」

さおりは意見書で、報道機関としての長崎新聞のあり方を問うた。

大事なお客様だからといって、その自治体の姿勢を何でもかんでも報道機関が擁護することは決して許されるものではないと思います。しかも一人の命の重みが問われている事案ではなおのこと。

 

長崎新聞の取った対応は、残念ながら私たち遺族には県の姿勢を擁護しているとしか感じられませんでした。

=つづく

(敬称略)

保身の代償 ~長崎高2いじめ自殺と大人たち~一覧へ