保身の代償 ~長崎高2いじめ自殺と大人たち~

審査委員会が回答を避けてきた15の質問 –共同通信編(27)

2023年06月23日22時31分 中川七海

共同通信の石川陽一が文藝春秋から『いじめの聖域』を出したのは2022年11月10日。その翌日から、共同通信による石川への責任追及が始まった。

11月10日 文藝春秋が『いじめの聖域』を発行

11月11日 千葉支局長・正村一朗が石川に緊急連絡

11月14日 1回目の聴取(法務部長・増永修平、総務局人事部企画委員・清水健太郎)

11月24日 2回目の聴取(法務部・山内和博、法務知財室長・石亀昌郎)

12月5日 正村が遺族からの手紙を受け取る

12月6日 共同通信が審査委員会を設置

12月20日 石川が審査委員会に暫定の意見書を提出

1月10日 石川と遺族らが審査委員会に意見書を提出

この間、石川を支えていたのは、「息子の身に起きたことが二度と繰り返されないように」と、学校や行政と闘っている遺族の思い。そして、報道の自由を守りたいという気持ちだ。だからこそ、審査委員会に向き合うことにした。

だが石川には、どうしても納得いかないことがあった。石川が審査委員会に質問を送ってもまともに回答してこないのだ。これでは石川が、審査委員会の考えが分からないまま、意見を主張しなくてはならない。一方的で、公平さに欠く。

1月10日に送った意見書では、15項目について回答するよう改めて求めた。

「本気で事実関係を解明する気があるのなら」

石川は意見書に、質問への回答の必要性を説いた。

貴委員会が本気で事実関係を解明する気があるのなら、私により充実した内容の意見書を作らせようとするのは当然の態度ですから、積極的に情報を開示するなり、せめて聞かれたことにはきちんとお答えになったりするべきなのは明白です。

15項目の質問は以下だ。(内容が変わらない範囲でTansaが編集)

①12月14日付の貴委員会からの文書において、同月20日までの審査委への出席および意見書の提出を強要した理由を、具体的かつ詳細にお示し下さい。

②①に関連して、貴委員会は「審査をいたずらに長引かせることはできない」「審査にいたずらに時間を費やすことはできない」と主張していますが、審査の結論を急いでいる理由を、具体的かつ詳細にお示し下さい。

③貴委員会による執拗な連絡や代理人指定の無視、貴委員会が勝手に定めた期限内での対応の強要は貴委員会の石亀昌郎委員長による育児休業の継続的な妨害およびパワーハラスメントに当たりますが、それを正しく認識しておられるのかお答え下さい。また、違法行為である育休の妨害およびパワハラをどういうつもりで継続しているのか、そのお考えをお示し下さい。

④著書の発売から1カ月余りが過ぎましたが、「共同通信配信記事や記者の資質に対する信用が損なわれた」とのご意見ご感想や、それに類するものは現在のところ、1件も頂戴しておりません。また、11章の内容が裏付け取材不足である、正当な論評の範囲を超えている、などとする貴委員会の主張についても同様です。一体、どのような方々からご指摘のような疑念を持たれているのか、固有名詞を含めて具体的にお示し下さい。また、その方々からの具体的な指摘内容も併せて開示して下さい。

⑤11章の内容が〈十分な裏取り取材がされておらず、論評の範疇を超えた論理の飛躍の疑いがあるなど、共同通信の「職員就業規則」、「社外活動に関する規定」及び「記者活動の指針」に準拠しない〉と貴委員会は主張されていますが、ご指摘の記述がそれぞれ規則、規定、指針のどのような条文に準拠していないのか、具体的かつ詳細にお示し下さい。

⑥11章の内容が〈十分な裏取りがなされていない、論評の範疇を超えている〉と貴委員会は主張されていますが、そう判断している根拠と理由と証拠について、それぞれ具体的かつ詳細にお示し下さい。

⑦貴委員会は事実関係の調査を目的に掲げているにもかかわらず、当事者である版元の文藝春秋および担当編集者に質問や取材を行っていないのはなぜでしょうか。その理由を具体的かつ詳細にお示し下さい。

⑧貴委員会は「社に業務上の重大な問題が生じた」と断じ、「共同通信配信記事や記者の資質に対する信用が損なわれた疑いがある」と主張しています。それなのになぜ、今まで版元である文藝春秋に対して抗議等を行っていないのでしょうか。その理由を具体的かつ詳細にお示し下さい。

⑨文藝春秋は「週刊文春」や「文春オンライン」などの各媒体で、著書を紹介する記事を複数回に亘り掲載しています。貴委員会の主張通りであれば、これらの記事も共同通信に損害を与えていることになりますが、なぜ今まで一度も抗議や削除、訂正等の要請を行っていないのでしょうか。その理由を具体的かつ詳細にお示し下さい。

⑩⑦~⑨に関連して、今後、文藝春秋に対して書籍や関連記事について上記のような行動を取られるつもりはあるのでしょうか。ある場合はその時期と具体的かつ詳細な内容を、ない場合はその理由を具体的かつ詳細にお示し下さい。

⑪会社は貴委員会の発足に至るまで、主張を二転三転させています。当初は「書籍の内容は名誉毀損であり、共同通信に回復措置を求めると長崎新聞が言っている」とのご説明でした。訴訟を提起される可能性も示唆されましたが、「共同通信に当事者適格はないのでは」と私が指摘すると、次は「社外活動に関する規定に違反する疑いがあり、執筆許可を取り消して回復措置を求めるか検討する」とのご説明でした。それが次は「社に業務上の問題が生じた」として、審査委員会で「職員就業規則」、「社外活動に関する規定」及び「記者活動の指針」に違反する疑いがあるとのご説明です。このような変遷がなぜ起きたのか、その理由と経緯を具体的かつ詳細にお示し下さい。

⑫長崎新聞が著書について「名誉毀損だ」と共同通信に抗議するのは、共同通信は出版に関わっていないのだから、そもそもお門違いであることは誰の目にも明白です。抗議を受けた際に「文藝春秋に対して抗議するべきだ」という趣旨の回答をしなかったのはなぜでしょうか。その理由を具体的かつ詳細にお示し下さい。

⑬⑫に関連して、長崎新聞は無関係の共同通信に「名誉毀損だ」と主張しているにもかかわらず、版元である文藝春秋に対しては直接の抗議等をこれまでに一切行っていないことについて、貴委員会がどのように受け止めておられるのか、そのお考えを具体的かつ詳細にお示し下さい。

⑭著書の出版後から今日に至るまでの経緯がもし仮に公になったとしたら、会社および貴委員会の言動は世間にどのように受け止められる、あるいは評価されるとお考えでしょうか。「共同通信が加盟社の意向に忖度し(もしくは圧力に屈し)、言論封殺を試みた」と受け止められかねないのではないでしょうか。貴委員会のお考えをお示し下さい。

⑮⑭に関連して、「共同通信が言論封殺を試みた」との疑念を市井の人々に抱かれないためにも、長崎新聞と共同通信のやり取りを含め、本件に関する全ての経緯や議論の経過をつまびらかにする必要があります。そのようなご予定はございますか。ある場合は具体的な時期と公表内容、ない場合はその具体的かつ詳細な理由をお示し下さい。

「ジャーナリズム本来の在り方を問う案件」

質問の⑭で示したとおり、石川は共同通信の行為に言論封殺の恐れがあると感じている。

21ページ、2万3000字を超える意見書本文の最後に、石川はこう綴った。

今回の意見書をここまで読めば明らかなとおり、貴委員会の主張に正当性はなく、言いがかりの域を脱しません。さらに、会社および貴委員会の言動には数多くの矛盾や不可解な点が存在し、仮に全ての経緯が公になった場合には、「報道機関であるはずの共同通信が言論封殺を試みた」との社会的な批判は免れません。

 

<中略>

 

本件は共同通信のみならず、ジャーナリズム本来の在り方を問う案件であると認識しております。

審査委員会は石川の問いにどう答え、審査の結果を出すのか。

 石川陽一氏が共同通信の審査委員会に提出した質問事項

=つづく

(敬称略)

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