公害「PFOA」

WHOがん専門機関「PFOAの発がん性は確実」/アスベストやカドミウムと同じ区分に/内閣府も結果を公表

2023年12月11日17時16分 中川七海

2023年12月1日、WHO(世界保健機関)のがん専門機関「IARC(国際がん研究機関)」がPFASの発がん性に関する最新評価を発表した。

PFASとは、有機フッ素化合物の総称だ。中でも毒性の強い物質が、PFOAとPFOSである。ダイキン工業が製造・使用していたPFOAは、フッ素加工の「焦げ付かないフライパン」や防水スプレーなど私たちの身近で長年使われてきた。PFOSは、水では消火できない石油系の火災に使用される泡消火剤の原料だ。軍事基地や空港で多用される。

IARCの専門家たちが審議した結果、PFOAについて「発がん性がある」と断定するに足る証拠が揃ったと公表。アスベストやカドミウムと同じ、最もランクの高い「グループ1」に分類された。PFOSは、PFOAより2段階低い「発がん性の可能性がある」という評価だった。

大阪府では、摂津市のダイキン淀川製作所を汚染源に、全国一のPFOA汚染が起きている。京都大学の研究チームと大阪の医師団が進める疫学調査では、ダイキンの工場周辺住民のPFOA血中濃度が非常に高いという中間報告が上がった。

「PFOAを曝露したヒトにおける強力な証拠が揃った」

IARCは、WHOのがんに特化した専門的な機関だ。独立した立場から、世界中の知見を集約・検討し、化学物質などの発がん性を評価する。目的は、がんの原因を特定することで予防措置を促し、病苦の負担を軽減することだ。

2023年11月7日〜14日にかけて、フランス・リヨンでIARCの会議が開かれた。世界11か国から30人の専門家が集まり、PFOAやPFOSに関するあらゆる文献を徹底的に精査。発がん性を判断するに足る科学的根拠の確かさを審議した。

その結果、PFOAを「グループ1=発がん性がある」に認定した。

これまでPFOAは、「グループ2B=発がん性の可能性がある」という評価に留まっていた。今回、一気に2段階引き上げられた理由は以下だ。

「動物実験での十分な証拠と、PFOAを曝露したヒトにおける強力な証拠が揃った」

「グループ1」にはPFOAの他に、アスベストやカドミウム、タバコやアルコール飲料などが分類されている。

PFOSは「グループ2B=発がん性の可能性がある」だった。

内閣府・食品安全委員会のウェブサイトより

評価の概要はすでに、権威ある医学誌『The Lancet Oncology』でオンライン公開されている。内閣府・食品安全委員会も、IARCの発表内容を日本語にしてウェブサイト上で公表した。

2024年中には、IARCが詳細な報告書を発表する予定だ。

ダイキン淀川製作所周辺住民の93%が高濃度

IARCの発表を受け、より心配なのは大阪府民の健康への影響だ。

2023年11月11日、「大阪PFAS汚染と健康を考える会」は血液検査の途中経過を報告した。

会は、京都大学の研究者や大阪府内の医師らからなる。大阪府内全域でPFAS汚染の報告が上がっているにもかかわらず、ダイキン、政府、大阪府が十分な対策を講じないことから、みずから疫学調査に乗り出したのだ。現在、国内最大規模となる大阪府民1000人を対象としたPFAS血液検査を進めている。

中間報告では、かつてPFOAを製造・使用していたダイキン淀川製作所の周辺に住む87人分のPFAS血中濃度が公表された。

87人のうち、93%に上る 81人が、2ng/mlを超える濃度だった。これは、2022年に「米国科学・工学・医学アカデミー」が発表したPFOAの血中濃度に関するガイダンスで、「対処が必要」と指摘する値だ。

特に妊婦の場合は、妊娠高血圧症の検査が必要になる。妊娠高血圧症は、妊娠前は高血圧でなかった女性が、妊娠20週〜産後12週の間に高血圧になる症状で、PFOAが引き起こす代表的な疾患の一つだ。母親の出血や肝機能の悪化、胎児の発育不全などを引き起こし、最悪の場合は母子の死亡につながる。

さらに、23%に当たる20人が、20ng/mlを超えていた。同ガイダンスが「腎臓がんや精巣がん、潰瘍性大腸炎、甲状腺疾患などのリスクを考慮した処置が必要」と警告する値だ。

ダイキンの主張の根拠は崩れ

ダイキンはこれまで、IARCで「グループ2B」の「発がん性の可能性がある」にPFOAが分類されていたことを盾に、PFOAの危険性とその責任から目を逸らしてきた。

摂津住民や市議への説明会では、IARCの分類を示して「『発がん性がある』のではなく『発がん性があるかもしれない』」と強調していた。Tansaによるダイキン役員らへの取材でも、化学事業部の幹部がPFOAについて「危険なんですか? 」と尋ねてきたくらいだ。

だがそうしたダイキンの主張は、これからは通用しなくなる。

『The Lancet Oncology』に掲載された「PFOAおよびPFOSの発がん性」=2023年11月30日付

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