公害「PFOA」

【速報】ダイキン元従業員の血液から国平均298倍のPFOA検出/高濃度の上位5人中3人が元従業員

2024年03月31日23時12分 中川七海

FacebookTwitterEmailHatenaLine

2024年3月31日、「大阪PFAS汚染と健康を考える会」が記者会見を開いた。同会は昨年秋からPFAS疫学調査を進めている。対象者は関西圏の1192人で国内では最大規模。459人分の血液分析が完了したことを受け、中間結果を公表した。

見えてきたのは、PFOAを製造していた「ダイキン工業淀川製作所」で働いていた人たちの高濃度曝露だ。

最もPFOA濃度が高かった人は596.6ng/mlで、国の平均値2ng/mlの298倍に上る。459人の上位5人のうち、少なくとも3人がダイキンの元従業員であることも判明した。

ダイキン元従業員だけではない。ダイキンの淀川製作所に近い大阪府摂津市民と大阪市東淀川区民の血中濃度も、他地域に比べ高かった。検査を受けた両地域の5人に1人が、ドイツ政府が示す基準値を超える濃度だった。

PFASとは1万種以上ある有機フッ素化合物の総称だ。中でも毒性の強い物質がPFOAとPFOSだが、WHOはPFOAを「発がん性は確実」と認定。PFOSよりも2段階厳しく評価している。

京大・原田准教授「私が分析した中で最高濃度」

会見では、京都大学大学院・准教授の原田浩二氏(環境衛生学)が報告に立った。原田氏は、2023年9月から12月にかけて全49会場で採血した1192人分の血液分析を進めている。

これまでにも、全国各地のPFAS血液検査を担ってきた。米軍基地によるPFAS汚染が起きている東京・多摩地区の約650人対象のPFAS検査を担ったのも原田氏である。

そんな原田氏が、中間報告の時点での最高濃度「596.6ng/ml」について驚く。

「私がこれまでに分析した中で最も高い値です」

この値は、何を意味するのか。

環境省が2022年度に実施した全国調査では、血中濃度の全国平均は2ng/mlだった。596.6ng/mlは、その298倍に当たる。

米国政府が採用する「米国科学・工学・医学アカデミー」の臨床ガイダンスでは、PFOAを含む7つのPFASの合計値が「20ng/ml」以上の患者に対して、「腎臓がんや精巣がん、潰瘍性大腸炎、甲状腺疾患などのリスクを考慮した処置が必要」と警告している。

ドイツ環境庁も、「HBM-II」という基準を出している。人を対象とした健康調査(疫学研究)を根拠に、健康リスクの予防のための目安として、PFOA基準値「10ng/ml」を設定している。

米国やドイツの基準に照らせば、596.6ng/mlは健康への影響が懸念される値なのだ。

元従業員の曝露原因の特定へ

「大阪PFAS汚染と健康を考える会」によると、596.6ng/mlもの高濃度が検出された人は、ダイキン淀川製作所の元従業員だった。

大阪府摂津市にあるダイキン淀川製作所では、1960年代からPFOAを製造・使用してきた。ダイキンはPFOAの製造を2012年に廃止したと公表しているが、PFOAは残留性が高く、一度体内に取り込むと長年蓄積する。

ダイキンと並ぶ、PFOAの世界8大メーカーである米デュポンも、かつて工場の周辺地域に甚大なPFOA汚染をもたらした。その際、工場従業員のPFOA高濃度曝露も同時に引き起こしていた。

原田氏ら研究者は現在、この元ダイキン従業員の曝露原因の特定を進めている。

だが、ダイキンの元従業員の高濃度曝露は、その1人だけではなかった。

459人中、2番目に高濃度だった女性(127.7ng/ml)と5番目に高濃度だった女性(83.3ng/ml)も、かつてダイキンで働いていたことが判明した。

上位5人のうち、少なくとも3人がダイキンの元従業員だったのだ。

5人に1人がドイツ基準超過

会見では、摂津市民と大阪市東淀川区民のPFOA濃度が高いことも報告された。どちらもダイキン淀川製作所の近隣住民だ。

【平均値】

 

摂津市民(181人):9.41ng/ml

 

大阪市東淀川区民(49人):7.25ng/ml

5人に1人以上が、ドイツ環境庁のPFOA基準値(10ng/ml)を超過していた。

【10ng/ml以上の人数と割合】

 

摂津市民:181人中40人(22.1%)

 

大阪市東淀川区民:49人中11人(22.4%)

この結果について、原田氏はこう述べた。

「東京などでもPFAS検査をしてきたが、ドイツ環境庁の基準値を超過するケースはなかなかない。(摂津市と隣接し、ダイキン工業からも近い)大阪市東淀川区でも22.4%の人がドイツ基準を超過しているのは、注目すべきポイントです」

医師「アスベスト被害の二の舞にならないで」

「大阪PFAS汚染と健康を考える会」は、今年1月からPFAS相談外来を開設している。本来であれば、外来設置は行政の役割だ。だが、全国一のPFOA汚染地であっても、大阪府は動かない。業を煮やした「会」の所属医師たちが中心となり、自ら設置した。

対象者は20ng/mlを超過している患者で、医師6人体制で行った。患者1人あたり30分の聞き取りと腹部エコーなどの検査を実施。必要に応じて、精密検査に繋げた。

会見では、相談外来を担った一人である、中村賢治医師が報告に立った。

中村氏は普段、主に職業病の診療を行なっている。鉛中毒やアスベスト患者の主治医の経験もある。

「今回のPFAS公害を見ていると、アスベストの問題とよく似ている。問題が出始めた当初は『そんなに毒性の高い物質じゃない』と国が考えていた。国には、アスベストの二の舞を避けていただきたい」

「会」は今後、誰でも相談外来を受診できるようにする。2箇所だった窓口も10箇所に増やす予定だ。

京都大学大学院の原田浩二准教授=撮影/中川七海

公害「PFOA」一覧へ