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世界中の魚の加工を強制されるウイグル人たち【The Outlaw Ocean Project】

2024年08月23日16時42分 Tansa編集部

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中国・新疆ウイグル自治区の少数民族が、世界中の食卓やレストランに並ぶ水産物の加工を強制されている。中国政府が「雇用」と称して行なっている強制労働が、水産現場でも起きていた。

企業の社内報や衛星画像、そしてウイグル人のSNSへの投稿など大量の情報を、米国の非営利ジャーナリズム組織「The Outlaw Ocean Project」が分析し、明らかにした。

工場での労働は、監視や強制収容、同化教育と隣り合わせだ。逃げ場のない工場で加工された魚やイカを、日本に住む私たちも口にしているかもしれない。

本記事は米国ワシントンD.C.の非営利ジャーナリズム組織「The Outlaw Ocean Project」が、2023年に発表した記事の転載です。取材と執筆は、イアン・アービナ、ダニエル・マーフィー、ジョー・ガルヴィン、マヤ・マーティン、スーザン・ライアン、オースティン・ブラシ、ジェイク・コンリーが担当しました。Tansaは記事の翻訳と転載に加え、独自に人権侵害や資源の枯渇など、問題のある漁業の実態を報じていきます。

昨年4月のある晴れた日の朝、中国新疆ウイグル自治区・カシュガル市の駅前に、お揃いの赤いウインドブレーカーを着た80人以上の男女が整然と並んでいた。

彼らは、中国最大の少数民族の一つであるウイグル族だ。足元にスーツケースを置いて、厳しい表情を浮かべながら、地元政府が主催する送別セレモニーを見守っていた。

このセレモニーを録画した映像には、赤と黄色の伝統的なドレスを着てウイグル族伝統のドッパ帽をかぶった女性が舞台で回り踊る姿が映っている。

掲げられた横断幕には 「大量雇用を促進し、社会の調和を築く」と書かれていた。

ドローンで撮られたこの映像では、最後に一行を送り出すために待機している列車が映し出される。

2023年に中国政府のSNS抖音(ドウイン)のアカウントにアップロードされた、カシュガル当局による労働者移送を撮影した動画のスクリーンショット=ドウイン, Kashgar Media Centerより

民族を破壊するための「計画」

このセレモニーは、中国政府が行なう大規模な労働者移送プログラムの一環だ。このプログラムでは、ウイグル人を水産物の加工などを含む中国全土の製造業で強制的に働かせている。

「(強制労働)は支配と同化のための戦略です」。そう話すのは、新疆ウイグル自治区での抑留を研究する人類学者、エイドリアン・ゼンス氏だ。

「ウイグル文化を抹殺するよう設計されています」

このプログラムは、歴史的に見て反抗的な民族を服従させるという、より大きな計画の一部だ。

中国は漢民族が圧倒的多数だが、中国西部の内陸省である新疆ウイグル自治区の人口の半分以上は少数民族で占められている。少数民族のほとんどはウイグル人だが、キルギス人、タジク人、カザフ人、回族、モンゴル人もいる。

ウイグル人の反乱軍は1990年代を通して抵抗し、2008年と2014年には警察署を爆破した。

これに対して中国は、イスラム教徒の少数民族へのさまざまな迫害プログラムを強化した。例えば、葬式でイスラム教の聖典「コーラン」を朗読したり、髭を伸ばしたりしただけで数カ月から数年間も拘留することが可能になった。

拷問や強制不妊手術

2000年初頭、中国は12歳以上の新疆ウイグル自治区住民全員からDNA、指紋、虹彩スキャン、血液型を収集し始めた。近年はこれにWi-Fiを介したデータの盗聴、防犯カメラ、対面監視から得た大量のデータを組み合わせた。

中国政府は、何百万人ものウイグル人を「再教育」収容所や拘置施設に入れてきた。そこでは、拷問や虐待、強制不妊手術が行われてきた。

米国政府は、新疆ウイグル自治区における同国の行為を、民族や人種集団を計画的に破壊する「ジェノサイド」の一形態と表現している。

さらに2000年代初頭、中国はウイグル人の自治区外での労働を目的とした移送プログラムを開始した。後に「新疆援助」といわれるものの手始めだ。

新疆ウイグル自治区のトップである党委員会書記は、移送プログラムは 「完全雇用」と 「民族の接触と交流、同化」を促進するものだとした。 

その一方で、中国の学術論文は、これは国家が「潜在的な脅威」とみなしているウイグル社会を「こじ開ける」方法だと説明している。

2019年、この移送プログラムに関する情報を特別に与えられていた中国・南開大学の研究者たちの報告書が、誤ってネットに公開された。この報告書で研究者たちは、移送プログラムが、少数民族を「改革し、融合させ、同化させるための重要な方法」であると表現していた。

ウイグル強制労働防止法

移送プログラムは、中国の主要産業に安価な労働力を提供している。新型コロナウイルスの感染拡大後、特に山東省の水産業では労働力不足が深刻化した。

ウイグル人権プロジェクトのジュリー・ミルサップ氏は、中国が移送プログラムを通して「ウイグル人の生活のあらゆる面を統制し、制限することができる」と指摘する。(中国外交部の関係者は、移送プログラムに関する質問には答えなかった)

中国政府の統計によると、2014年から2019年にかけて、中国当局は250万人いるウイグル自治区の人口の10%を労働の目的で移送した。域外に移送されているウイグル人は、年単位でみると2万5000人に上る。

効果は絶大だった。国連によると、2017年から2019年にかけて、新疆ウイグル自治区の出生率はほぼ半減したのだ。

2021年、米議会はウイグル強制労働防止法を可決した。新疆ウイグル自治区の労働者、または同自治区出身の少数民族によって「全体的または部分的に」生産された全ての商品は、中国国家による強制労働があったと推定されるべきとし、アメリカ市場への輸入を禁止した。

法律の影響は大きかった。

この1年で、米国税関・国境警備局は、電子機器、衣料品、医薬品など、新疆ウイグル自治区に関連する10億ドル(約1500億円)相当以上の商品を押収した。

しかし、これまで水産業は大幅に見逃されてきた。

米国は国内で消費される水産物のおよそ80%を輸入している。中国はその最も巨大な供給源だ。

米・マーケティング会社のGenuine Alaska Pollock Producersによれば、米国の公立学校の給食で出される白身魚フライの半分は、中国で加工されたものだ。

しかし、水産物は漁船、加工工場、輸出業者など多くの工程を経る。原産地を追跡するのは難しい。

2020年、中国南方航空の客室乗務員がウイグル人の労働移動の際に入国証の記入を手伝う=中国民間航空ネットワークより

数千のSNS動画、社内報、記事、衛星画像を調査

中国東海岸沿いの主要な水産加工拠点である山東省は、新疆ウイグル自治区から1600Km以上離れている。そのため、規制から逃れやすかったのだろう。

2018年以降、少なくとも1000人のウイグル人が山東省の水産加工工場で働かされていると判明している。

「まさに、ドアツードアです」と人類学者のゼンス氏は言う。「彼らは、新疆ウイグル自治区の集荷場から工場に運ばれるのです」

海外メディアのジャーナリストは一般的に、新疆ウイグル自治区での取材を禁じられている。

さらに中国政府の検閲官たちは、ウイグル人の労働に関する情報を中国のインターネットから排除している。

私は調査チームと協力し、何百ページもの社内報、現地のニュース、貿易データ、衛星画像を調査した。

そして中国版Tik Tokと言われる抖音(ドウイン)を中心に、インターネット上にアップロードされた何千もの動画を視聴した。新疆ウイグル自治区の労働者を映したものだ。

これらの動画をアップロードしたユーザーの最初に登録した位置情報が、新疆ウイグル自治区になっていることを確認した。専門家に、動画で使用されている言語を検証してもらった。

調査員も雇い、いくつかの工場を訪問した。

これらの方法で集めた情報から、世界の多くの人々が食べる魚の裏にある、ウイグル人の強制労働のシステムを垣間見ることができた。

「雇用に感謝」の一方で、拒否すれば収監

ウイグル人労働者の移送は、家のドアをノックするところから始まる。

地元の村の共産党員で構成される、特別なチームが家庭訪問を行ない、ウイグル人に移送プログラムへの参加を促すことも含めた「思想改造」を実施するのだ。

共産党員たちにはたいていノルマが課せられている。また、フォーチュン500(世界の総収入上位500の企業)に入る新疆中台グループを含む、労働者移転の調整に携わっている国有企業の代表者たちが、家庭訪問に参加することもある。

新疆ウイグル自治区南部から、労働者1000人の「雇用」を促進した中台グループの王洪新会長は、自社の採用活動を楽観的な言葉で表現した。

「シヤック地域の農民たちは、家を出て仕事を見つけたいという強い願望を持つようになっています」(同社にコメントを求めたが、応じなかった)

公式の説明では、ウイグル人労働者は雇用機会に感謝しているとされている。実際に、そのような労働者もいるようだ。

国営メディアによるインタビューで、ウイグル人のメメット・サイト氏は水産工場で年間2万2000ドル(約330万円)を稼いでいると話した。工場は「無料の食事と宿泊」も提供してくれるという。

しかし、2017年に出されたカシュガル県安定維持司令部の機密内部指令によれば、労働者移送に抵抗する人々は拘留で罰せられる可能性がある。

小さな子ども2人の面倒を見なければならないため、工場勤務を拒否したカシュガル出身の女性は、2017年から2019年にかけて拘留された。

移送を拒否した別の女性は、「非協力」を理由に独房に入れられた。

国家には圧力をかける他の方法もある。

子どもや高齢者が国営の施設に送られることはよくあり、家族の土地が没収される場合もある。

あるウイグル人労働者は、2021年に人権団体に「家族の誰かが収容所に入れられているなら、他の家族は働くしかありません。父や夫を収容所から早く出すには従うしかないとわかりました」と語っている。

生産能力を補うための動員

動員は一網打尽に行われる。

例えば2022年2月、何千人ものウイグル人が、新疆ウイグル自治区南部の収容所で開かれた「就職説明会」に連れて行かれた。

自治区内の他の地域で行われた同様の説明会の動画には、軍服を着た役人に監視されながら、整然と列をなして契約書にサインする人々の姿が映っている。

ほとんどの労働者は列車か飛行機で連れていかれる。

お祝いのシンボルである赤い花を上着に留めたウイグル人たちが、国がチャーターした中国南方航空の便に乗り込む姿が写った写真が見つかった。(同航空会社にコメントを求めたが、応じなかった)

労働者の移送は、中国国内の産業の労働力不足を埋めるためにも実施される。

2020年3月、中国最大の水産業界の企業のひとつである赤山グループが社内報を出した。新型コロナウイルスによって引き起こされた「巨大な生産圧力」と呼ばれる、生産力不足について説明している。

同年10月、労働力の移送に関わる人事・社会保障局と、公安局反テロ分遣隊の党幹部が2度にわたって赤山グループ幹部と面会。追加の労働力の確保について話し合った。

数カ月後、赤山グループは自社工場への労働者移送を加速させることに賛成した。

赤山グループの副総経理であるWang Shanqiangは、社内報で「当社は新疆からの労働者の早期到着を楽しみにしている」と述べた。(赤山グループにコメントを求めたが、応じなかった)

2020年、赤い花を胸につけ、揃いの服装で飛行機に乗り込む移送労働者の列=中国民間航空ネットワークより

2020年、青島天源水産食品有限公司に移送されるウイグル人女性。体温を赤外線スキャナーで記録されている=Jiaozhou News Centerより

軍隊式管理下の水産工場

中国のインターネットに投稿された工場経営者向けの広告では、ある「約束」がなされていた。ウイグルの労働者たちが到着したら、国家が彼らを「軍隊式管理」の下に置くというのだ。

水産工場の動画を見ると、新疆ウイグル自治区出身の労働者の多くが、警備員の監視の下、寮で生活していることがわかる。

福建省で働くある労働者は、オンラインマガジン「Bitter Winter」に監視の厳しさを語っている。ウイグル人の寮ではたびたび手荷物の検査が行われ、もしコーランが見つかれば、その持ち主は再教育施設に送られる可能性があるというのだ。

2021年12月に発行された赤山グループの社内報で、同社は他省から移送された労働者を「重大な」安全上のリスクと認定している。また別の社内報では、「喧嘩、酔っぱらいの暴動、集団事件」を防ぐため、夜間や休日に彼らを取り締まることの重要性を強調している。

ウイグルの住民たちは日々の農村生活から突然、工場労働を強いられるのだ。

赤山グループの社内報によれば、新しい環境に慣れてもらうため、新人労働者には生産ノルマが課せられない。

しかし、1カ月もすると、工場関係者は労働者の「熱意」を高めるために労働者の日々の生産量を監視し始める。

ある工場には、「生活に適応できない」労働者を監督する特別チームがある。新入りのウイグル人労働者の「思想を把握するため」に、経験のあるウイグル人労働者が担当に付くこともある。

習近平の演説を勉強

監視だけではない。多くの新疆ウイグル自治区出身の労働者は、「愛国教育」を受けさせられている。

ある市の機関が公表した写真には、こんな様子が写っている。烟台三江水産有限公司という企業で新疆ウイグル自治区出身の少数民族に属する労働者が、習近平の演説を学び、「党の民族政策」を読んでいる様子だ。(烟台三江にコメントを求めたが、応じなかった)

士気を高めるため、一部の大規模工場では、移送された労働者のために別の食堂でウイグル料理を提供している。時折、伝統衣装を着て、ダンスや音楽がお祭りのようなイベントが工場で開催されることもある。

ある工場内の映像には、制服の警備員に囲まれたウイグル人が食堂で踊っている姿が写っていた。

英国・ロンドンの東洋アフリカ研究学院のレイチェル・ハリス教授は、「この種のダンスは、政府の政策を地元が支持しているように見せ、政府もまたウイグル文化を尊重していると示すために利用されている」と語った。

「もちろん実際には、工場での労働は収容所に入れられる恐れによって成立している強制的なものであり、ウイグル人たちは自分の意志によって自身の文化を表現することはできない」とハリス教授は言う。

移送プログラムから逃れた他の産業の労働者たちは、自分たちの待遇についてはっきりと批判することもある。あるウイグル人男性は再教育施設から釈放された後、すぐに縫製工場に移送された。「私たちには選択の余地はなかった」と彼は2021年に国際人権NGOのアムネスティ・インターナショナルに語っている。

新疆ウイグル自治区出身のグルジラ・アウエルハンという女性は、強制的に手袋工場で働かされた。彼女が泣いたり、トイレで2、3分余分に過ごしたりすると、手足を固定された「虎の椅子」に座らされ、拷問として罰せられた。

「最初のころは、ルールに従わなかったからと6時間から8時間、虎の椅子に座らされました」

「警察は、私には精神的な問題があり、正常な精神状態ではなかったと主張したんです」

2021年、工場で政治教育セッションに参加する烟台三江水産有限公司の少数民族労働者たち=烟台統一戦線工作部より

SNSから垣間見える悲痛な叫び

今も工場で働かされているウイグル人たちは、厳重に監視されている。彼らの生活を覗き見る、ほとんど唯一の方法は、SNSへの投稿だ。

ウイグル人労働者たちが山東省に到着すると、まず彼らは海のそばで自撮りをする。新疆ウイグル自治区は地球上で最も海から遠い場所だからだ。

ウイグル語の歌の、悲痛な歌詞を投稿する者もいる。

もちろん、これらは単に感傷的な音楽を投稿しているだけなのかもしれない。

しかし、研究者たちは、このような投稿が中国当局の検閲をかいくぐりながら、苦しみを伝える暗号のようなメッセージとして使われている可能性もあると主張している。

​​2015年、米フィラデルフィアのドレクセル大学が、新疆ウイグル自治区で行われたインターネット利用状況を分析した。それによれば、「ウイグル人は比喩や皮肉、ウイグルの伝統的なことわざや文化的な側面への言及など、ウイグルの文化やコミュニティに精通している人でなければわからないような表現を使います。社会的なコメントや批評をベールに包んでいるんです」と結論づけている。

2022年3月、山東省の水産物工場に出勤する途中のウイグル人中年男性は、空港の出発ロビーに座っている自分の姿を撮影。その映像に「Ketarmenghu」(「私は去ります」)という曲をつけた。

彼はこの映像を、ある歌詞の直前でカットした。曲を知っている人なら、あとに続く歌詞がわかるはずだ。それは「今私たちには敵がいる、気をつけなければ」という歌詞だった。

別のウイグル人労働者は、国営メディアのインタビューに対して、移送プログラムについて熱く語った。メディアには、彼の海辺での自撮り写真も掲載されている。その一方、ドウインに投稿した同じ写真にはこんな曲が付けられていた。

「どうしてこれ以上苦しまなけらばいけないんだろう?」

若い女性は、山東省の水産物工場の前で撮った自撮り写真を投稿し、ウイグル語のポップソングの歌詞の抜粋を添えた。「 私たちはとても多くの苦しみに慣れている」という歌詞だ。

「私の心よ、我慢して。この日々はいつか終わる」と歌詞は続く

ドウインに投稿されたある動画には、海産物をダンボールに詰める作業員が登場する。

ナレーションでは、「人生最大の喜びは、自分より何倍も強く、自分を抑圧し、差別し、辱めた敵を打ち負かすことだ」という言葉が流れる。

いくつかの動画では、ウイグル人労働者たちが自分たちの不満をあまり隠すことなく表現している。あるウイグル人労働者は、煙台隆運食品で魚の内臓を取り除いている動画を投稿した。

「山東省に愛があると思いますか?」とナレーションの声が質問を投げかける。

「毎日朝5時半に起きて、休みなく働き、終わりのない包丁研ぎと魚の内蔵を取り出す日々が続くだけです」

(煙台隆運食品にコメントを求めたが、応じなかった)

別の動画では、スケトウダラの梱包ラインが映し出されている。

「月給はいくらですか?」と1人の男性が聞く。

「3000元です」と2人目の男性が答える。

「では、なぜまだ不満なんですか?」 

「選択の自由がないからです」

2023年、中国山東省にある烟台三江の水産物工場で働く労働者たち。この工場は新疆ウイグル自治区出身のウイグル人やその他の労働力に依存し、米国、カナダ、ドイツ、デンマーク、オランダに輸出している=ドウインより

「この監査はツールとして完全に崩壊している」

水産物のサプライチェーンに入り込むのは、あまりにも難しいことで知られている。非営利の監視団体やジャーナリストは、中国では厳しく管理されている。

強制労働を見つけるため、企業はたいてい「社会監査」を実施する企業に頼る。社会監査とは、検査官が工場を訪問し、民間の労働基準に準拠しているかどうかを確認することだ。

監査の準備のため、工場はふつう、他省または海外からの移民労働者の存在や、現場で使用されている言語を開示するアンケートへの記入が必要だ。また監査官に労働者のリストを提供しなければならず、そのうちの何人かが面接に選ばれる。

しかし、新疆ウイグル自治区からの労働者の存在を隠そうとする工場は、このいわゆる「自己評価アンケート」に労働者を記載しないことが多い。

また社会監査は通常、事前に知らされる。そのため、経営者は監査期間中だけ少数民族の労働者を隠すことができる。

労働基準監視団体であるワーカー・ライツ・コンソーシアムのスコット・ノバ事務局長などの専門家によれば、主な問題は、監査員たちや監査員が従うルールやマニュアル自体が、国家による強制労働を検出するためのものではないことだと言う。

さらに、労働者がインタビューを受ける際、報復を恐れ正直に話したがらないことも多い。

コーネル大学のサロシュ・クルビラ教授(労使関係学)は、4万件以上の監査を分析した結果、半数近くが信頼できないものであることを発見した。

「この監査はツールとして完全に崩壊している」と彼は言う。

これは、監査員たちがチェックリストを埋めるパフォーマンスであると同時に、監査を依頼した取引先の企業にとっても茶番である。

探偵が工場を訪れると…

2023年、私は中国で私立探偵を雇い、山東省にある2つの大規模な水産物工場を訪ねた。ひとつは山東海都海洋食品、もうひとつは栄成海博という。

施設内にはエプロンを着用し、肘まである青い手袋をはめた数十人の作業員がいた。長い金属製のテーブルに向かい並んで立ち、揃って下を向いてイカを切っていた。

明るい蛍光灯の下で、製品をプラスチック製の青いカゴに仕分ける作業員もいた。 

探偵は工場の管理者から、「守秘義務」があるため、作業員の誰とも話すことはできないし、加工エリアにも入れないと言われた。

​​ほとんどの作業員は、外科医が手術室で着る白衣のような、全身を覆う白いユニフォームを着ている。顔もマスクで覆われていた。声をかけなければ、誰がウイグル人なのかもわからない。

中身の無い監査によって、企業は求められている基準を遵守していると主張することができてしまう。

海博と取引する米国の大手イカ・サプライヤー、ルンズ・フィッシャリーズ社は、取り引きするすべての業者に、最も広く使われている監査マニュアルを作成したセデックス社による監査を義務づけている。

「当社のサプライヤーは、米国の輸入規制を上回る当社の基準を満たしています」と、ルンズのウェイン・ライヒル社長は私に語った。

2022年5月、大手監査法人であるSGSの社会監査員が海博を査察したが、工場での強制労働の証拠は見つからなかった。

しかし、私たちが調査したところ、2021年には170人以上の新疆ウイグル自治区出身者が海博とその姉妹工場である海都で働いている。2022年中に、海博の6人のウイグル人労働者が定期的にドウインに投稿していた。

監査員が視察した同じ日、若いウイグル人労働者が工場の寮や荷捌き場の近くにいる自分の写真を投稿していた。

これについて尋ねたところ、SGSの担当者は、「監査員はセデックスのルールブックで要求されたことを行ったまでである」と答えた。

(海博工場の担当者は、「私たちは法律と規則に従って運営されている会社です」とメールで述べ、 “事実でない噂 “を流さないよう求めた。海都工場の代表者にコメントを求めたが、応じなかった)

「昨日も夜まで働いたのに、今も仕事をしています」と語るウイグル人男性。2021年にドウインにアップロードされた動画の中で、輸出用に梱包されたヒラメのパレットの上で労働者たちが疲れ切っている=ドウインより

「サステナブル」と認証された企業も多く関与

この監査の失敗は一度きりの出来事ではない。

私たちの調査では、ある水産工場が社会監査でクリアされた数日後に、ウイグル人がその工場で自分たちの動画を投稿していた実例が他にも見つかった。

私たちがウイグル人労働者との関連を指摘した中国の輸出企業の半数は、世界的な大手監査会社の監査に合格していた。

サステナブルであると認証されている企業の多くでさえも、ウイグル労働に関与していた。

私たちは、新疆ウイグル自治区で強制労働を行っている水産物工場がすべて、海洋管理協議会(MSC)の認証を受けていることを突き止めた。

(MSCの広報責任者であるジョー・ミラー氏は、社会監査は「大きな限界」があるとしながら、MSCが監査を当てにしていることを認めた)

セデックスの関係者に尋ねたところ、「隠蔽されている可能性がある」国家による強制労働は、「監査員自身が明確に認識することは困難であり、リスクが高い」と答えた。

同団体は、この問題に関するガイダンスを更新すると述べた。

権利擁護団体は以前から、社会監査は機能していないと主張してきた。

2019年、ヒューマン・ライツ・ウォッチは、バングラデシュ、インド、パキスタンの衣料品産業で横行する性的虐待の事例を社会監査が発見できていないと報告した。

それでも、社会監査の利用は拡大している。

SGSは現在、定期的な監視が極めて困難とされる海上で操業する漁船の監査サービスも販売している。

国際運輸労連のジョニー・ハンセン氏は、「監査や認証は、陸上の水産加工現場における強制労働を発見できていない」と語った。

「であれば、どうして海での強制労働を発見できるというのでしょうか?」

全米のスーパーへ

こうした監査の失敗の結果、強制労働により加工された何千トンもの水産物が米国に入り続けている。

中国の少なくとも10社の大手水産会社が、2018年以降1000人以上のウイグル人労働者を使ってきたことがわかった。その間、これらの企業はタラ、スケトウダラ、エビ、サケ、ズワイガニを含む4万7000トン以上の水産物を米国に出荷した。

これらの水産物は、ハイ・ライナー・フーズを含む米国とカナダの大手輸入業者が購入した。(ハイ・ライナー・フーズの広報担当者によると、同社が取引している工場は2022年9月に第三者機関による監査を受けたという)

水産物は出荷の各段階で混ざり合う可能性があるため、最終的にはどこに送られるかを確実に知ることは難しい。

しかし、これらの輸入業者は、ウォルマート、コストコ、クローガー、アルバートソンズなど、全米に渡るスーパーマーケットに製品を送った。(ウォルマートの広報担当者は、「当社へのすべてのサプライヤーが、人権に関するものも含め、当社の基準や契約上の義務を遵守することを期待している」と述べた。アルバートソンズの広報担当者は、ハイライナー・フーズからの水産物の購入を中止すると述べた。コストコとクローガーにコメントを求めたが、応じなかった)

これらの輸入業者はまた、シスコ社にも水産物を届けていた。シスコ社は、米国内だけで40万軒以上のレストランに食材を供給している世界的な食品サービス大手だ。(シスコの広報担当者は、サプライヤーである烟台三江は監査を受けており、「国家が強制した労働者移送プログラムの下で労働者を受け入れたことはない」と否定した)

米国政府は過去5年間で、ウイグル人の強制労働と関わりのある輸入業者から2億ドル(約300億円)以上の水産物を購入してきた。これらは公立学校、軍事基地、連邦刑務所での消費される。(農務省の広報担当者は、可能な限り米国産の水産物を調達していると述べた)

ただ、新疆ウイグル自治区出身の労働者が関わる水産物を輸入している国は、米国だけではない。

ドイツのブレーマーハーフェンにある、英米大手ノマド・フーズが所有する世界最大の水産加工工場は、ウイグル人の強制労働と関わりのある輸入業者から供給されている。

この工場は、フランスのカルフール、イギリスのテスコ、ドイツのエデカなど、ヨーロッパ中の食料品店に主要な冷凍魚ブランドを供給している。(カルフールの報道担当官は、「サプライチェーンにおける強制労働の使用を断固として非難」し、調査を開始すると述べた。テスコは、ウイグル人労働者を使用している工場から調達しているサプライヤーとの関係についてコメントを避けた。エデカの広報部は、「商標のついた製品」に関するコンプライアンス問題については責任を負わず、記者はノマド・フーズ社に問い合わせるべきだと述べた)

日本企業の加担

私たちは、20カ国以上で新疆ウイグル自治区からの労働と関連のある水産物の輸入を確認している。

例えば、ロイヤル・グリーンランド社という北欧の大手水産企業だ。ウイグル人の強制労働を利用して、複数の水産加工工場を運営する中国の大手企業、山東美佳グループに水産物を送っている。

ロイヤル・グリーンランド社は、2019年から2022年にかけて、ウイグル人強制労働者を使用する工場での加工用に、オヒョウ、エビ、サバ、そして魚を200隻近く輸出している。

同社は美佳グループとの関係を次のように説明する。美佳グループは、アジア市場への供給を目的として、同社子会社のロイヤル・グリーンランド・ジャパン社に向けた、グリーンランドの水産物の加工を担っている。

国営メディアの報道、会社の記録、そしてThe Outlaw Ocean Projectが確認した動画の内容によると、山東美佳グループは少なくとも2019年からウイグル人の強制労働を利用している。

グループの広報担当者は、「検証の結果、当社には新疆ウイグル自治区出身の労働者を不法に使用している事実はない」と否定した。

しかしドウインに投稿された動画には、2023年5月の時点で、美佳グループの子会社で働くウイグル人労働者の姿が映っている。

世界第2位の水産物会社である日本の株式会社ニッスイも、Outlaw Ocean Projectの調査から深く関与していることがわかった。この調査では、強制労働や違法漁業に従事している中国企業とニッスイの子会社数社とのつながりが特定された。

株式会社ニッスイにフランスの子会社であるシテ・マリーンがある。シテ・マリーンは、中国の工場が初めてウイグル人労働者の使用を開始したとされる2018年以来、中国の青島天源水産食品からスケトウダラとタラを大量に輸入している。

2023年5月の時点で、青島天源にウイグル人労働者がいた証拠が見つかっているのだ。また、シテ・マリーンは青島連洋水産物から白身魚を輸入している。調査の結果、2023年の時点でウイグル人がその工場で働いていたことも判明している。

ニッスイのデンマーク子会社、J.P.クラウゼンも青島天源と青島連洋から白身魚を輸入していた。

ニッスイの別の子会社であるノルディック・シーフードも関与している。青島天源から白身魚を輸入しているほか、中国の加工業者、日照佳苑食品からイカを輸入している。 日照佳苑食品は政府の労働者移送プログラムにより2019年以降、少なくとも2022年10月まではウイグル人を含む新疆ウイグル自治区からの労働者を受け入れている。

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