勾留644日、それでも折れないリーダーの覚悟/「産業民主主義を日本に根付かせる」/関生支部委員長・湯川裕司さん<関西生コン事件・証言#2>
2025年02月19日 19時00分 渡辺周、中川七海
生コン産業の労働組合、「関生(かんなま)支部」組合員たちの証言。2回目は委員長の湯川裕司さんだ。
湯川さんは近畿一円の関生支部の労組活動に関し、逮捕を繰り返されて644日間勾留された。組合員の中で最長の勾留期間だ。警察と検察が組合トップの勾留で組織を壊滅させようとしたことがうかがえる。
だが、捜査権力の狙い通りに関生支部が潰されることはなかった。その強さの根源は何か。リーダーの証言が明らかにしている。
年収300万円が当たり前の社会で
今回の大規模な弾圧は、産業別労働組合である関生支部に、権力側が仕掛けてきたという認識を持っています。
政財界の権力者たちは、企業別労働組合のストライキだけが合法だという大きな錯覚をしているんです。産別労組は日本では全く容認できない、と考えている。
しかし、それでは労働者は貧しくなるばかりです。実際、日本では派遣などの非正規雇用が増え、年収300万円が当たり前になりました。
産別労組と企業別労組の何が違うか。
産別労組は、「同一労働同一賃金」で労働者全体の賃金を上げていくためにストライキや経営側との団体交渉をします。個別の企業ではなく産業全体が潤うにはどうしたらいいかを考えます。
一方の企業別労組は、前提として企業間競争があります。ライバル企業に勝つためには、コストを下げなければならないから、賃金を下げたり下請け業者を泣かせたりということが起こるんです。そういうことが、あらゆる産業で横行しています。
僕は、労働者の賃金を企業間競争の材料にはさせないことが重要だと思っています。
セメント会社とゼネコンの狭間で
生コン業者は非常に弱い立場にあります。セメントを原料にして生コンを製造し、それをゼネコンに納入するのですが、セメント会社もゼネコンも大企業です。セメント会社はセメントを高く売り、ゼネコンは生コンを安く買おうとします。そうなると、大企業に挟まれた生コン業者の利益は薄くなってしまいます。
そこで生コン業者は、価格競争で疲弊しないよう協同組合を作ってセメントの納入や生コンの販売にあたっています。関生支部は労組として経営側である協同組合と闘争する半面、業界全体の利益となるよう協調して生コンの価格を上げる努力をしてきました。そのおかげで生コン業界全体が潤い、労働者の賃金も上がるという好循環を達成しました。
しかし、経営者たちが裏切ったんですよ。大阪広域協(大阪広域生コンクリート協同組合)をはじめ、協同組合の経営者たちは関生支部のストライキや団体交渉を「威力業務妨害」や「恐喝」だと主張し、捜査機関とそのシナリオで結託しています。背景の一つには、生コン業界が労使協調した場合、セメント会社とゼネコンの利益率は下がるので、権力側が動いたという構図があると思います。
「うちのヘッドに謝ってください」と頼む刑事
今回の弾圧では2018年8月28日、滋賀県警に逮捕されたのが始まりでした。京都の自宅は僕も母親も不在にしていたのですが、警察は母親に電話したんです。「家宅捜索するから家に戻って来い」と。母親はその時、体調を崩していて姉のところで面倒をみてもらっていたんです。「体調が悪くて戻れないので本人に電話して」と警察に言ったんですが、警察は何回も母親に電話する。僕には警察から連絡がない。
そこで母親が僕に電話してきました。自宅に駆けつけると、すでに滋賀県警の12、3人がいました。自宅から連行される時に「ご近所さんおる前で手錠かけるんか、もうええがな」と言ったんですが、「いや、もう指名手配打ってるんで」と。警察が僕に直接電話してこなかったのに、自宅にすぐに戻らなかったことで逃亡という体をとられたんです。
とにかく権力側には、関生支部が労働組合だという意識が全くないんです。
滋賀県警は暴力団捜査を担当する「組織犯罪対策課」が出てきました。刑事は暴力団を脱退させるかのように、関生支部を辞めさせようと圧力をかけてきました。「まだ若いし能力もあるんやろうから、違う世界でやっていったらええやんけ」と言うわけです。僕が「何を言うとんねん」と労働組合の理念を述べると、「そんなもん」という感じで相手にしない。
滋賀県警に何回も逮捕される中で、ある時、刑事から「うちのヘッドにもう謝ってください」と言われたこともありました。「実は湯川さん、もう1発やろうと思ってたんですよ。犯人隠避か何かでね。うちのヘッドはしつこいので、もう謝ってください」と。ヘッドというのは、当時の組織犯罪対策課の羽田賢一課長のことでしょうね。
勾留を決める「勾留裁判官」も労働組合のことが分かっていませんでした。
滋賀で勾留されている時に、大津地裁の勾留裁判官に聞いたことがあるんです。「何回勾留すんねん、労働組合法を分かってんの? 」と。
その裁判官はベテランでしたが、「労働組合法のことはよく分からない」ということでした。しかも「自分も辛い」とわけの分からんことを言ったんです。上の立場の人から言われて勾留の決定を強いられているというよりは、習慣となっている勾留決定を変えられないという感じでした。
事件のカラクリを知った上で取り調べをしているな、と感じた時もありました。
例えば、大津地検の齋藤一馬検事に「なんでいきなり逮捕なんや」と聞いたことがあるんです。僕らとしては正当な労組活動をしているわけですが、捜査当局として問題があると考えているならば、まずは警察に呼び出して話を聞いて、それでもあかんという時に逮捕するのが筋ちゃうか、と。なのにそういう手順を飛ばしていきなり逮捕するのは不自然です。
齋藤検事の答えは「黙秘します」でした。これは自分たちの落ち度を分かっているからこそ、下手なことは口走れないということではないでしょうか。
地獄絵図
僕は滋賀、京都、和歌山の留置場や拘置所で計644日勾留されたんですが、弁護士以外は接見禁止でした。弁護士から関生支部の状況を聞いていました。
他の組合員たちも次々と逮捕されていく中で、黙秘を徹底して闘うということを貫けられたらいいんですが、今回は警察・検察・経営者が一体となった弾圧です。警察と検察が関生支部の脱退と釈放を引き換えにし、経営者側は脱退した人たちを自分の会社で雇う。それぞれが役割を持って、関生支部を切り崩してきた。みるみるうちに組合員が減っていった。結局、このままでは生活ができなくなるから権力に抗うことができず、安住の地を求めたわけです。自分たちの権利を失ってでも、生活のためには、という状況が刻々と続いたんです。
組合を辞めるだけではなく、経営側の味方をして関生支部を批判してくる者まで出てきた。もう地獄絵図のようになっていきました。
人間の見たくない性が見えました。苦楽を共にした仲間が、自分を正当化するために裏切るんです。ありもしないことを言って仲間を売った。正直、のみ込めないですよ。裏切られたことで負った心の傷は、もう回復しないと思います。
何で戦争が絶対にあかんかと言うと、自分や家族が生き残るためには他人を蹴り落とすという性が出るまで、人間を追い込むからなんです。自分の家族が殺されて、そこにライフルがあったら相手を撃ちたい衝動に駆られてしまうでしょ。復讐心が宿り、人間って狂うんです。弾圧も同じなんです。
取り調べでは、「関生支部の組合員はどんどんやめとんで」とか「お前がおらんかったら組合はどうにでもなる」というようなことを言われました。私をはじめ組合幹部が勾留されている間、関生支部で踏ん張っている仲間たちのことを思うと辛かった。僕らは何もできない。勾留中は、狭い部屋に閉じ込められて壁を見ているしかない。
警察・検察のストーリーに合わせて供述してしまえば、釈放されるんですよ。関生支部がどんどん削られていく中で、妥協すれば釈放され、組織に戻って態勢を立て直すこともできたかもしれない。
しかしそんなことをすると、自分がこれまで仲間とやってきたことを否定することになるんですよ。僕らが何をしたんや、と。刑法に抵触することは何一つないわけですよ。
まず自分を信じ、踏みとどまっている仲間を信じて、弁護士を信じる。これを維持して闘うしかないんです。
「お父さんは何も悪いことはしていない」
一人暮らしをしている母親が心配です。僕は大津地裁の判決で懲役4年が出て控訴審。2025年2月26日に京都地裁で判決が出る裁判では、検察から懲役10年を求刑されています。信じられないことに、こんなでっち上げの事件でも刑務所に入らなあかん可能性があるんですよね。母親の死に目には会えないのかな、と。
私は連れ合いと息子2人の4人家族ですが、全部素直に話しています。「お父さんは逮捕されたけど、弾圧であって何も悪いことはしていない」と。ただ、服役する可能性があるので「その時はちゃんと3人で頑張らなあかんで」と日頃から伝えています。
息子は高校2年生と中学1年生で、多感な時なんですよね。僕がいなくなったら、下の子なんかちょっとやんちゃなので大丈夫かなと。上の子もやっぱりいろいろ教えてあげたいことがあるんですよね、成人になるまでにね。
でもそういうことが、できないかもしれないのが、僕はものすごく残念なんです。息子2人は僕とは血の繋がりがないんですが、自分のことを父親やと思って慕ってくれてるんです。
僕としては、彼らが社会人になっていく時に、どのような社会情勢なのかということが重要だと思っています。
まともに職に就けず、低所得者が増えています。食べていけないとなると、若者が犯罪に引き込まれていく心配もあります。高齢者が多く若者が少ない中では、税金の負担が増し、年金制度も破綻するでしょう。そういうことを考えると、ほんまにこれからの子がかわいそうだな、と。もしかしたら戦争も起きるかもしれません。そういう情勢の中で、自分が服役してしまったら息子たちにアドバイスもしてやれないのが、残念で仕方ありません。
産業民主主義を根付かせる
日本ってどの産業も民主化されていないんですよ。
企業別労組が主流で、正社員は助かるけれども非正規は助からないとか、労働者の中での階級化が進んでいる。完全に分断されているんです。
日本の政治に力を持つ連合(日本労働組合総連合会)も、僕は企業別労組の集合体だという認識しかないんですよね。例えばトヨタが赤字で期間工を1,000人切りましたというようなニュースが出るでしょう。産別労組ならば争議して労働者の雇用を守らないと駄目なんです。連合自身は産別労組だというような表現をされるけども、私は産別ではないという判断をしています。
この状況では、政治経済権力が暴走しても止めることができない。
関生支部の委員長としては、産別労組の火は消さない。日本で主流にしていく。そのためには、世界各国の産別労組に学ぶとともに、交流していきたいと思っています。
【取材者後記】畝本検事総長と湯川委員長の大きな違いとは/編集長 渡辺周
湯川委員長の信念には、一点の曇りもない。
だからこそ、息子たちに「お父さんは何も悪いことはしていない」「自分が服役してもお母さんと3人で頑張らなあかんで」と言える。
一方でだからこそ、弾圧に耐えられず関生支部を去る仲間もいることに苦悩する。みんなが強いわけではない。平穏な暮らしを送りたい。そこは理解する。ただ、自分だけ助かろうと関生支部に関する嘘を言う人までいた。苦楽を共にした仲間だけに、怒りが収まらない。
しかし、残った仲間たちの結束は強い。苦悶しながらも、最終的には未来のための決断をしていく湯川委員長のリーダーシップがあってこそだろう。
Tansaも見習うべきところがあると感じている。たとえ相手がどんなに大きくても、晴れ晴れと闘う。仲間を信じる。「他人の痛みは我が痛み」を心の中心に据える。そういうところだ。
今回、Tansaは畝本直美・検事総長、鈴木馨祐・法務大臣、楠芳伸・警察庁長官、氏本厚司・最高裁事務総長、石破茂・内閣総理大臣に質問状を出した。関生支部脱退を迫る取り調べや、不要な勾留など「人質司法」の責任を問う内容だ。その中では、実例も検事の氏名などを挙げて示している。
「個別の事件に関わることなので、お答えは差し控えます」という予想通りの回答が並んだが、思わず笑ってしまった一文が最高検からの文面にあった。回答の前置きとして、こう記していた。
「以下は、最高検察庁組織としての回答ですので、よろしくお願いいたします」
こちらは畝本検事総長宛てに質問状を出しているが、最高検は組織として検事総長を守る必要がある。そういうことだろうか。
大組織の中で保身に汲々としている「権力者」より、信念を持って闘うリーダーの方が強いと私は思う。今回の弾圧の責任者たちに聞きたい。
「あなたは、自分の家族や大切な人に自身がやっていることを誇れますか? 」
人質司法 なぜ労組は狙われたのか一覧へTansaは報道機関としての独立性を担保するため、行政や企業からの広告費は一切受け取っていません。活動を支えるのは、市民のみなさまからの寄付です。
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