記録のない国

入管の人権研修、日付とタイトル以外は「黒塗り」 弁護団が国を提訴 収容者暴行、反省のはずが加速する「官製ヘイト」

2025年07月16日 20時13分  渡辺周

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タイトルや日付以外は黒塗りにされた出入国在留管理庁の人権研修資料=2025年7月16日、千金良航太郎撮影

法務省の出入国在留管理庁(入管)は、外国人の人権を守る気があるのだろうか。

収容中の外国人への暴行事件が相次いだにもかかわらず、入管職員への人権研修の内容や講師の名前を明かさないのだ。入管行政を正そうとする大阪の弁護士たちが、研修文書を開示請求したところ、ほぼ黒塗りにした。

与党自民党は「違法外国人ゼロ」を参院選の公約に据え、躍進する参政党は「日本人ファースト」を掲げる。外国人排斥の機運が高まる中、このままでは入管と政治が一体となり外国人の人権を蹂躙する「官製ヘイト」が加速するのではないかーー。

7月16日、弁護士たちが入管による人権研修文書の開示を求め、大阪地裁に国を提訴した。

骨折しても手錠して放置、トルコ人男性への暴行

発端は2017年7月、大阪入管によるトルコ人男性Aさんへの暴行事件だ。

Aさんは入管職員の態度に腹が立ち、本を壁に投げた。すると職員7、8人がAさんを「保護室」(収容されている人からは「懲罰室」とも呼ばれる)に連行し、手錠をかけた。頭や胴体を床に押さえつけた。

Aさんは右肩を骨折し、右肘は捻挫した。怪我を負ったにもかかわらず、後ろ手で手錠をかけられたまま放置され、病院にすぐに連れて行ってもらえなかった。

この被害に関し、Aさんは2018年に国家賠償請求を大阪地裁に提起。2020年9月、和解が成立した。

和解では、国がAさんに300万円を支払うことの他に、2つの約束が盛り込まれた。

①大阪入管局長はこの事案を重く受け止め、Aさんに謝罪する

②大阪入管局長はこの事案を重く受け止め、大阪入管収容者への人権を尊重しつつ、より一層適正な処遇を行うよう努める

和解条項に謝罪が盛り込まれるのは異例。それほど大阪入管が悪質だったということだ。

入管「研修講師が誹謗中傷される」

入管による外国人収容者への人権蹂躙は後を絶たない。2021年3月には、スリランカ人のウィシュマ・サンダマリさんが名古屋入管で死亡した。体調不良を訴え、嘔吐までしていたのに、必要な医療を入管は提供しなかった。

本当に入管行政は、人権を尊重した処遇に改める意思があるのか。トルコ人男性Aさんの国賠訴訟を担当した弁護士たちは2022年12月、入管が実施している人権研修の内容や講師、参加者の感想などを把握できる文書を開示請求した。対象期間は2018年から2022年まで。情報公開法に基づいた請求だ。

129の文書が出てきた。ところが、公開されたのは研修の日付と研修のタイトルだけで、あとは黒塗り。タイトルは、例えば次のようなものだ。

「移民(外国人)の人権と日本の課題」

「国際人権諸条約〜関連する勧告とその対応〜」

「メディアから見た入管行政」

これでは、人権研修が入管行政の改善に役立っているか外部からチェックができない。研修の講師の名前が分からなければ適任者か判断できないし、何よりどういう知識を伝授し入管職員を啓発したのかが不明だ。

なぜここまで秘匿するのか。

入管の理屈はこうだ。

「日頃から入管の職員の対応に不満を持ち、誹謗中傷する人たちがいる。そうした人たちが、研修をしても入管職員の接遇態度に改善が見られないと、研修を実施した講師たちのことも誹謗中傷する恐れがある」

だが、入管が収容者への暴行で怪我を負わせたことや、適切な医療処置を行わず死亡させたことは事実だ。研修は、収容者の命と人権を守るための重要な公的任務であり、それを担う人の名前は公開されて当然だ。

入管は講師名だけではなく、研修の内容も明らかにしていない。内容を公開すれば、講師との信頼関係が崩れるという理屈だ。

外国人収容者の命と人権を守らなかったのに、自分たちのことは過剰に守ろうとする。不開示理由に、入管の姿勢が表れている。

「日本人ファースト」に乗る「官製ヘイト」

人権研修の不開示部分の公開は、必須だ。7月16日、4人の弁護士が大阪地裁に国を提訴した。

中井雅人弁護士

上林惠理子弁護士

岡本英樹弁護士

手島滉介弁護士

提訴後の記者会見で、上林弁護士は「官製ヘイト」という言葉を使って、今回の提訴の背景を説明した。

「数年前から入管法の改悪というものが国会で審議をされています。不法滞在者は悪、犯罪者なんだという打ち出しを入管はやってきた。私たちが反対すると、逆側の言論が飛び出してきて、それがクルド人ヘイト、『日本人ファースト』に結びついてきました。私たちは『官製ヘイト』と呼んでいます」

その上で、入管の人権研修を監視する必要について強調した。

「入管は世論を気にします。世論がこれだけ日本人ファーストに興味を持っているということを踏まえ、人権より国益の観点を打ち出してくる。あなたの命が危なくても、あなたの家族が一緒にいられなくなったとしても『それは国益に見合わない』という判断をするようになります。その中でじゃあ、入管でどういう人権研修をしているのかということは、私たちがきちんと関心を持って見ていかなければいけません」

では入管側は、どのように考えているのか。

国賠での和解では、大阪入管局長が2つの約束を守ることが盛り込まれた。一つは、トルコ人男性Aさんへの謝罪。もう一つは、「大阪入管収容者への人権を尊重しつつ、より一層適正な処遇を行うよう努める」ことだ。国賠訴訟では、大阪入管の職員たちにAさんが床に押さえつけられる証拠映像が示された。

だが当時の大阪入管局長・福山宏氏は「どこ吹く風」だ。退官後に受けたインタビューで次のように述べている(公益産業研究調査会「公研」2025年5月号より抜粋)。

「制圧の映像を初めてご覧になれば、驚きの余り、あたかもかわいそうな被収容者を入国警備官が大勢で虐待しているかのように見えるのも無理もないことです。しかし、制圧は、人権侵害どころか本人及び他の被収容者の利益・人権を守るための必要最小限の措置なのです。自傷他害の危険性があるから制圧するのであって、それがなければ制圧もありません。したがって、そこで人権侵害が起こる余地もありません」

「人権侵害が起こる余地もない」となぜ断言できるのか。トルコ人男性Aさんへの謝罪は嘘だったのか。福山氏こそ、人権研修を受けた方がいい。

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