保身の代償 ~長崎高2いじめ自死と大人たち~【学校編】

いじめ自死の公表を求める遺族、マスコミばかり気にする海星学園に抱き始めた疑念(7)

2026年01月08日 16時20分  中川七海

FacebookTwitterEmailHatenaLineBluesky

私立海星学園中学・高等学校=長崎市で2025年4月19日、千金良航太郎撮影

遺書の中身も、遺族の名前も、全部公表して構わない。二度とこういうことが起こらないように、うちの子を最後の犠牲者にしてほしいーー。

福浦大助と福浦さおりは、その思いを伝えるため、息子の勇斗(はやと)が通っていた学校に向かう。

※同級生の実名は伏せ字で表記します。

「次のターゲットになったらどうしよう」

さおりが、勇斗が遺したノートを手に取ったのは、2017年5月4日のことだ。

ノートは、父の大助と兄の直斗が、勇斗の部屋を捜索して発見した。亡くなった際に身につけていたA4用紙には、「学校にいくたびにトラウマの如く頭痛がする」「今が一番苦しい」といった言葉が並んでいた。一方で、「家族に迷惑かけたくない」と、多くは語られていなかった。「勇斗なら、他にも何か遺しているかもしれない」と、大助と直斗は考えた。

二人の予感は的中した。

ノートには、同級生たちから受けていたいじめの内容や、自身の心情が綴られていた。日記のように、日付や天気を記しているページもある。「もういや。つかれた。」と書かれたのは、自死のちょうど半年前だった。

見慣れた勇斗の字で綴られた文章から、苦しみが伝わってくる。読むのも辛い。だが、自ら命を絶つほど追い詰められていた我が子の言葉から、目を逸らしてはいけない。さおりは読み進めた。

いじめの加害者たちも、実名で書かれていた。集団でいじめられていたことが分かる。

その中に、見覚えのある名前を見つけた。

「この子って・・・」

3年ほど前、海星中学で1年から2年に進級する際に、勇斗が漏らしたことがあった。

「■■と同じクラスになったらどうしよう」

どういうことか。さおりが尋ねると、勇斗は隣のクラスでいじめが起きていることを打ち明けた。

「■■が△△君をいじめてた。△△君は、それで転校してしまった」

いじめを受けていた生徒は勇斗と同様、おとなしい性格だった。勇斗は不安を口にする。

「次のターゲットになったらどうしよう」

勇斗から話を聞いたさおりは、担任との三者面談の際に尋ねた。

「隣のクラスの△△君が、■■君からいじめを受けて転校したという噂がありますが、本当ですか?」

しかし、担任の濵崎雅彦は「いじめではない」と述べ、真剣に向き合ってはくれなかった。さおりは、勇斗と■■が同じクラスにならないよう、濵崎にお願いすることしかできなかった。

勇斗の不安は拭えない。そこでさおりは進級前の春休みに、勇斗とともに学校へ行った。靴箱を確認すれば、新クラスが分かる。

勇斗と■■は、別のクラスだった。勇斗はようやく安心した。

ところが。そこから1年後の中学3年で、勇斗と■■は同じクラスになった。

勇斗へのいじめが始まったのも、中学3年からだった。

遺族「『犯人探し』はしなくていいから」

(左から)高校教頭の武川眞一郎氏、中学教頭の川島一麿氏、高校1~2年次担任の岩﨑孝治氏、中学1年次担任の濵崎雅彦氏=海星学園『創立125周年記念誌』より

ノート発見から2日後の2017年5月6日。さおりと大助は、海星学園へ向かった。

高校教頭の武川眞一郎と、中学教頭の川島一麿が対応した。

口火を切ったのは武川だった。

「保護者の方が、育成会会長に問い合わせています。川島とも、公表は早い方がいいだろうと話しました。段取りとして・・・」

武川は、さおりたちの話を聞く前に、一気に喋った。育成会とは、海星学園の保護者会のことだ。要は、勇斗の死について保護者から問い合わせがきているため、保護者たちへの説明を早く済ませたいとのことだった。

しかし、武川の提案には引っかかる点があった。勇斗の自死について公表する範囲を、勇斗のクラス(S3)に限定していたのだ。

だが、いじめはクラスを跨いで行われていた。勇斗のノートに綴られた10人ほどの加害生徒は、同じクラス(S3)だけではなく、別のクラス(S1、S2)や、転校済みの生徒が含まれている。

大助は、持参したノートのコピーを武川と川島に手渡した。生徒の実名を読み上げ、「説明をS3だけに絞るのはどうかと思う」と伝えた。

さおりも、勇斗を心配して連絡をくれている子が他クラスにもいることを伝え、クラスを跨いで広く事実を公表する必要性を訴えた。

ところが、武川が渋る。

「段取りとして、S3の保護者に話して、それから次は中学からの内進生(内部進学の生徒)の保護者とか。今一番心配しているのはS3。親御さんも心配している。変な噂が立つのは変なので。S3保護者、S3生徒、中学からの内進生などの順で」

武川の意図がよく分からない。さおりは、遺族としての思いを伝えた。

「内進生だけとか、S3だけとかに限定してしまうと、いつか忘れ去られてしまう。うちの子は中学からここで生活してきたのは事実。いつの間にか風化されてしまうことは望みません。(遺書やノートの)全体でも構わないし、私たちの名前が出ても構わない。いじめられて亡くなったことを教訓にして、二度とこういうことが起きないようにしてほしい」

大助も、「犯人探し」にはならないようにしてほしいと念押しした上で、こう述べた。

「事実を伝えてほしい」

「自分がいじめをやっていたということに、(加害生徒が)気づいてほしい。吊し上げる必要はないけど、自覚してほしい。親子共々」

しかし、武川は承諾しない。

「全校朝礼では一般的な話をする。福浦君のことは、いずれは言わないといけない。あまりに早く言うと生徒がショックだし、身近な人から話さないといけない」

「身近な人から」と武川が述べたため、さおりは「段階を踏んでいって、うちの子がこういう形で亡くなったことを、全校生徒に話してくれるのですか」と確認した。

武川が答える。

「全校となると、私だけでは決められない」

部活動の短パン姿でやって来た担任

武川の発言に、さおりも大助も「学校側は、事実の公表を避けているのではないのか?」という疑念を強めた。

4日前の5月2日、勇斗が亡くなってから初めて、二人は海星を訪れた。その時も武川は今回と同じように、「真実を公表してほしい」という遺族の意向を汲もうとしなかったからだ。

5月2日は、勇斗の自死から12日が経っていた。この時点でもまだ、遺族は勇斗の同級生たちに何も知らせていなかった。「(通夜や葬儀に)生徒を呼ぶのはやめましょう。生徒を呼ぶと、やはりマスコミに情報が漏れるので」という海星側の提案に従っていたからだ。

だが、いじめ自死については生徒や保護者に公表すべきだ。生徒たちは、勇斗がただ単に学校を休んでいるだけだと思っている。

生徒への公表にあたっては、学校側と会って話した方が良いと思い、遺族側から対面を希望した。武川に加え、生徒たちをよく知る担任の岩﨑孝治も同席するよう、事前にアポを取っていた。

ところが当日。大助とさおりは時間通りに到着したものの、武川しかいなかった。

大助が「あれ、担任の先生は?」と尋ねると、武川は言った。

「今呼びに行っています。バスケ部の顧問で、明日の朝も早いんですよ」

大助、さおり、武川の三人で会議室に入り、先に会話を始めていると、扉が開いた。

岩﨑は、半袖のシャツに短パン姿で現れた。部活動を抜けて、急いでやって来たようだ。

さおりも大助も驚いた。自分のクラスの生徒が自死し、その遺族と初めて対面する場に遅刻した上、部活のままの服装だ。

勇斗のことを軽視しているように感じたが、口には出さなかった。

武川教頭「心配なのは、家族や生徒の後追い自殺」

岩﨑が到着する前、大助は、学校が生徒や保護者に勇斗の自死をどのように伝えるのかを問うていた。

武川の返答はズレていた。

「今日、長崎新聞が来ました。『おたくでしょう?』と聞かれました。多分これは消去法でしょう。(周辺の学校を)全部調べて、うちの学校だけが『分からない』と答えているからだと思います。(記者は)点と点が結びついている感じではなかった。うちは突っぱねています。報道は、(学校を)特定した段階で、(生徒の)名前を聞いてくるでしょう。その前でシャットアウトしておかなければならないと思っています。今の段階では、毎日新聞と長崎新聞が取材に来ています」

なぜ、生徒や保護者ではなく、メディア対応の心配をしているのか。岩﨑が到着した後もずっと、武川の口からはメディアを意識した話ばかりが出てくる。

「今日、長崎新聞と話して引っかかったのは、SNSのこと。マスコミがわざと(SNSに)『海星だろう』と投げかけるのではないかと思った」

勇斗の自死後、「長崎市内で高校生が自殺か」といった記事がマスコミから出ていたが、学校名は伏せられていた。海星の生徒である確証がないため記事には書けないが、記者がSNS上では『海星だろう』と投稿しているのではないかと、武川は的外れな想像をしているのだ。

武川が続ける。

「両親の気持ちが一番大事。公表の仕方、順番、時期について、いろんな形を探って、両親が納得する形がいい。学校が独走しても変だし。いつかは公表しないといけない。私はいつかその日が来るまでの防波堤になるつもりです。だから今日も、長崎新聞が来たときに強く言いました。自分は新聞社から訴えられるかもしれない、と思うぐらい言いました」

「両親の気持ちが一番大事」と言うのであればと、大助は尋ねた。

「逆に言えば、遺族の意向に沿ってもらえるということですか?」

武川が答える。

「もしお父様がきついということであれば、学校側で公表の仕方を作って、それを見てもらうという方法もあります。時期についても同じことです」

遺族としては、最初から全てを公表してほしいと、先ほどから述べている。なぜ、遺族の意向に沿うと断言しないのか。

「ネットで出ると、もうおしまい。今はクラスも平穏。長くなればなるほど子どもも不安定になる。今は点と点が繋がっていない。これは遺族の意向だからクラスの中だけでの話、ということもできる」

またSNSの心配をしているが、一体何が「おしまい」なのか。「遺族の意向」という言葉を使って、クラス外には情報を出さないように仕向けているような提案だ。さらに武川は、全く関係のない過去の事例を持ち出した。

「私の経験では、生徒が自殺未遂で入院した。原因は家庭内暴力だった。児童相談所も入った。この時はクラスに話した。児相のことは言わなかった」

「今回、問題はどこまで言うか。クラス内とか。昔、(アイドル歌手の)岡田有希子が自殺した時、後追い自殺があった。一番心配なのは、お母さん、次はお兄ちゃん、そして生徒。後追いは、勇斗くんは望んでいないと思う」

大助もさおりも、武川の主張についていけなかった。生徒を心配しているような口ぶりだが、ネットに情報が出ることの不安を煽ったり、生徒に真実を伝えなくても良いとほのめかしたり、有名人の後追い自殺を引き合いに出したり。事実の公表を踏みとどまらせようとしているように感じた。

武川がおかしな主張を重ねても、隣に座る岩﨑は口を開かない。

大助は言った。

「生徒がショックを受けるのは望んでいないけれど、真実をねじ曲げることはしたくない」

武川が言い返す。

「そしたら子どもたちにも、カウンセリングをしながら話すとか、親も集めるとか、話す内容も詰めないといけない」

さおりは言った。

「全部言っていただいて構わない。うちの子は、いじめで死んだんです。真実を知りたいし、ここでそのまま何もなかったことにしても、学校も何も変わらないでしょう? 二度とこういうことが起こらないように、うちの子が最後の犠牲者にと思っています。そのためには、事実をねじ曲げるのではなく、伝えていく義務があると思う」

このように、遺族は「真実を伝えてほしい」という明確な意思を、5月2日と6日に繰り返し伝えていた。

(つづく)

*敬称略

FacebookTwitterEmailHatenaLineBluesky
保身の代償 ~長崎高2いじめ自死と大人たち~【学校編】一覧へ