消えた核科学者

一緒に歩いた松林(10)

2020年04月20日11時29分 渡辺周

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茨城交通のバス停「原子力機構前」。奥は日本原子力研究開発機構(旧・動燃)内の松林=2020年4月4日午後1時54分、茨城県東海村村松

失踪した竹村達也は、天王寺高校の出身だった。大阪に向かった私が探し当てた最初の同級生は彼のことをよく覚えていなかった。しかし、大阪府警が失踪と北朝鮮の拉致とを関連付けて調べていることは確認できた。

では、竹村が進学した大阪大学の同級生たちはどうだろう?

大阪大学工学部の卒業生名簿をもとに、私は工学部で冶金を学んだ同級生を探した。

冶金とは、金属を加工する技術のことだ。竹村は動燃に入ってから、核燃料に必要なウランと金属を混ぜた合金の研究している。阪大時代に学んだことが基礎になっていた。

大阪市内に、竹村と共に阪大工学部で学んだ同級生の男性がいることがわかった。その男性は、同じ教授のもと、冶金を学んでいる。専門分野という共通項があれば、竹村とは密な関係があるのではないか。私は男性を訪ねた。

「僕は住吉高校を出て阪大に入学したんだが、竹村君は天王寺高校でしたね」

男性は私を部屋に招き入れて、ソファーに腰をおろすと、そういった。

「大学では、30人クラスで竹村君と一緒でした。卒業研究はさらに4講座に分かれるんですが、それも私は竹村君と同じです。同じ指導教授のもと、竹村君を含め4人で卒業研究に打ち込みました」

竹村さんはあなたから見てどんな人物でしたか?

「友達付き合いが少ない、おとなしい人でしたね。酒も飲まなかったんじゃないかなあ。交際している女性がいたなんてことも、まずなかった」

卒業後、男性は日立製作所に就職した。竹村と同じ茨城県にある会社だ。就職して間もない日曜日、男性は竹村がいる東海村を訪ねたことがあった。

「他の同級生はほとんど関西で就職したから、関東組は僕と竹村君だけだったんですよ。それで会いに行って。昼間に動燃近くの松林をぶらぶらと2人で散歩して。特に何か話をするわけでもなく。彼とはそれっきりだね」

男性の話が一段落したところで、竹村が北朝鮮に拉致された可能性があることを告げた。男性はびっくりした様子だった。

「え、そうなんだ! 失踪したなんて全然知らなかった。私のところには大阪府警から何の問い合わせもないよ」

そして、意外なことを口にした。

「竹村君は、動燃を辞めて宮崎の旭化成へ行くと、当時誰かから聞いたんだがなあ」

(敬称略)

=つづく

*北朝鮮による拉致の目的とは何か、日本は核を扱う資格がある国家なのか ──。旧動燃の科学者だった竹村達也さんの失踪事件について、独自取材で迫ります。この連載「消えた核科学者」は「日刊ゲンダイ」とのコラボ企画です。「日刊ゲンダイ」にも掲載されています。

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