誰が私を拡散したのか

【速報】加害者グループの音声を公開 、「記事を台無しにしよう」と作戦会議(5)

2022年12月14日20時14分 辻麻梨子

12月14日正午過ぎ、ついに加害者グループが動き出した。

私が手がける本シリーズ「誰が私を拡散したのか」に対し、Twitterで音声配信ができる「スペース」機能を使い、「作戦会議」を開いたのだ。

「弁財天」というアカウントを持つ関西弁の男が主催し、Tansaや私の名前を出しながら加害者グループに対策を呼びかけた。これからも性的動画・写真をカネ儲けや趣味の道具にするつもりだ。

彼らは、今夜21時30分から開くTansaのTwitterスペースにも参加するという。私に質問をすると意気込んでいる。

作戦会議の詳細を、入手した音声と共に公開する。

(イラスト:qnel)

「名前を変えてたどり着けないように」

4回目の記事では、「動画シェア」「アルバムコレクション」を使い、性的な写真や動画を投稿していた300超のアカウント名を掲載した。記事では、こうしたアカウントが利用規約に違反しており、Twitter社に通報できるとも紹介している。

「弁財天」はこの記事に対抗する作戦を仲間たちと共有するため、Twitterスペースを開いていた。タイトルは「界隈大かくれんぼ」。参加者は47人だ。私は潜入取材の過程で、彼らの作戦会議をライブで聞くことができた。

「僕らのプロフィールをスクショしてるっていうことを書かれてたんですね、あの記事に。だから、それをもう台無しにしようっていう作戦」

弁財天は、参加者にTwitterの名前やID、プロフィール情報を全て変えるよう訴えた。私の記事を読んだ読者が、彼らのアカウントにたどり着けないようにするためだ。

「通報したろって人が検索しても、もう僕らがないよ、みたいな。そんな名前の人出ないよ。え、じゃあなんやねんこの記事みたいな。でたらめか、みたいな」

弁財天は「ピーチ」と名乗る別の投稿者と相談し、Tansaに対抗する今回の作戦を決めたという。4回目の記事に登場した、稼ぎ方指南のグループを運営している人物だ。

ピーチはその数日前、クリスマスにちなんだ「キャンペーン」を行なっている。サンタクロースやクリスマスツリーの絵文字と共に、宣伝文句が並ぶ。

「エロサンタがDMにプレゼントをお届けするよ」

「見たことない画像や動画のpass配布」

「大量ゲットのChance」

「クリスマス企画」と題して、まだまだ投稿を繰り返している

「社会問題になって警察が動いたら最悪」

弁財天や参加者の一部は、私のTwitterプロフィールやTansaのウェブサイトを見ている。弁財天は私や記事について言った。

「自分の顔も堂々とサムネイルに載せている」

「記事自体、あの人らは結構力入れて作ってる」

一方の弁財天は、自分の身元が判明することに怯えている。

「僕らとしてはあの記事がね、バズったりとかなんかして、社会問題になって、警察も動かざるを得ない状況になるのがいちばん最悪やとは思うんで」

Tansaのスペースにやってくる?

弁財天は、今夜21時30分からTansaがTwitterのスペースを開くことも発見した。

「今日の21時30分から、(Tansaが)スペースをやるって。何について話すかっていうと、N番部屋とかいう韓国の有名なデジタル犯罪。要はアルバムコレクションや動画シェア(を使う自分たち)に似てるみたいな」

N番部屋事件とは、10代〜20代の犯人を中心とした集団が、被害者を脅して性的にリンチし、その写真や動画をメッセージアプリで売買していた事件だ。26万人が閲覧や取引に加わり、3億円を儲けていた男もいた。

2020年に発覚すると、厳罰を求める国民の怒りが沸騰し、警察は3757人を逮捕した。国会では「N番部屋事件再発防止法」が成立した。

だが弁財天は、自分を安心させるように言った。

「向こうも要は母体が警察とかそんなんじゃなくて、ジャーナリスト集団なんですよね。記者なんすよ。だからネタがなくなったら困るし、なんなら僕らに直で取材したいくらいちゃうんかなーって」

弁財天は、「えろすけさん」という仲間とTansaのスペースに参加して、質問するぞと張り切る。参加できない仲間のためには画面収録するという。

韓国・N番部屋事件との共通点

加害者グループによる作戦会議は、弁財天が「じゃあ、俺もちょっと仕事に戻るわ」と言って終わった。弁財天は仕事の合間にこの会議を開いていたのだ。何くわぬ顔をして職場に戻ったのだろうか。

前回の記事では、加害者グループが名古屋でオフ会を開いていたと報じた。ツイートされていた写真に写る男女は、どこにでもいそうな出立だ。机を囲み、ビールを飲みながらピースサインをしていた。

職場に戻った弁財天といい、名古屋でオフ会を開いていたメンバーといい、一見すれば「普通の人」なのかもしれない。

韓国のN番部屋事件でも、犯人が逮捕されてわかったのは、彼らがどこにでもいそうな人間だということだった。

N番部屋事件の元となるチャットルームを初めて開設した、「ガッガッ(神神)」ことムン・ヒョンウク(逮捕当時24歳)は、当時国立大学の建築学部に通う学生だった。

「スポーツソウル」の記事によれば、ムンは2019年から2020年までの間に、計3762件の性的動画を配信した。警察に通報しようとした被害者の両親、3人を脅迫したこともわかっている。

ネット上で「博士」と名乗っていたチョ・ジュビン(逮捕当時24歳)は、2019年5月から「博士部屋」を運営。前年の春に大学を卒業したばかりだった。文春オンラインによれば、学生時代は成績優秀で、学生新聞の編集長も務めていたという。

3757人を逮捕、懲役42年も

だが、そうした犯罪者の行く末はどうなったのか。

ムン・ヒョンウクには強姦や脅迫、わいせつ物配布などの罪で懲役34年が確定した。判決には10年間の身元情報の公開、児童・青少年関連機関や障害者福祉施設への就業制限、30年間、居場所を追跡できる電子足輪の装着も含まれている。

チョ・ジュビンには懲役42年が確定。わいせつ物の制作配布や犯罪集団を組織した罪が認められた。ムンと同様の身元情報の公開、電子足輪の装着などに加え、1億ウォン(約957万円)の追徴が科されている。

このほか2020年末までに逮捕されたのは3757人。仮想通貨の送金履歴などをもとに、警察が身元を辿った。逮捕者の中には、未成年の少年も含まれていた。

史上最多、200万人超の請願

N番部屋事件の犯人たちにはこれまでの韓国国内の性犯罪と比べ、厳罰が科されている。その背景には、国民の怒りがあった。

事件発覚後の2020年3月、大統領府には加害者の身元の公開と、記者団の前でインタビューに応じることを求める「国民請願」が行われた。この請願にはわずか4日間で200万人以上が賛同。過去最多となる賛同者数を記録した。

同年9月には、韓国最高裁の量刑委員会が児童を性的に搾取する動画などを、複数回・組織的に制作した者への厳罰化を決めた。被害者が自殺したり、学業を中断したりするなど、深刻な被害を受けた場合には、加重も可能だ。

事件を繰り返さぬよう、新たな法律も作られた。

2020年4月に可決された「N番部屋事件再発防止法」では、違法な性的写真や動画を所持、購入、保存、試聴する行為を処罰対象に含めている。

私は徹底取材を続ける。だが、記事の力だけでは事態を変えられないと思う。

読者の方々には、現状に怒りの声を上げてほしい。記事をSNSで誰かに共有したり、自分の意見を発信したりしてほしい。

それが加害者たちを追い詰める力になる。

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