誰が私を拡散したのか

子どもの性的動画200本超、アプリ内で裏取引/Google・Appleは今も無視(6)

2023年01月12日11時55分 辻麻梨子、渡辺周

(イラスト:qnel)

加害者グループが昨年12月14日の夜、TansaのTwitterスペースに参加してきた。その日の昼間に、彼らは作戦会議を開いて「Tansaの記事を台無しにしよう」などと話し合っていた。

「弁財天」、「えろすけ」と名乗る2人の人物は、これまでの記事に対してTansa側に反発してきたものの、同意のない性的な写真や動画を投稿・拡散することは違法行為であると認識していた。

Tansaとのやりとりが終わった直後、再び弁財天が加害者グループに向けてTwitterスペースを開いた。

「(Tansaの)言ってることは正しいから、なんとも言えん」

「(違法というのは)みんなわかってやってたことやし。質問とかで、逮捕とかそういうの大丈夫なんですかねって聞かれることあったけど、もうずーっとそんなん心配だったらやめといたほうがいいですって言ってた」

弁財天は数日後、Twitterのアカウントを削除した。えろすけも今後は投稿の拡散に一切関わらないと宣言した。

「今後一切投稿系のツイートには反応しません。」

「私のツイートやRTによる実害を確認した場合は、真摯に対応させていただきます」

そのほかの加害者が運営していたTwitterアカウントも、いくつかは削除された。動画シェアやアルバムコレクションで稼ぐ方法を指南していたチャットグループも閉鎖された。

しかし、問題は終わっていない。

外からは見えないように工夫しながら、今も投稿を続けるものがいるのだ。アカウントを非公開に設定し、数万人のフォロワー相手に投稿を続けたり、「入場料」を支払った利用者のみを、性的商品を配る招待制のチャットルームに案内したりしている。新たな投稿者のTwitterアカウントも次々と登場している。

そしてある日、私はさらに深刻な状況が広がっていることに気がついた。

※実態を広く伝えるため、加害者の手口や被害の内容を紹介する記述があります。フラッシュバックなどの症状がある方はご注意ください。

隠語の並ぶ掲示板

私は当初、加害者たちが動画シェアとアルバムコレクションに投稿する性的な写真や動画を宣伝する際は、主にTwitterを使っていると思っていた。

しかし、隠された手段があった。写真や動画を投稿するフォルダの中に、掲示板形式のチャットスペースがあったのだ。

そこに書き込まれていた言葉は、一見すると見慣れないものだ。

「炉」「s」「c」「jk」「和」

複数の投稿を目にするうち、それらの言葉は児童ポルノを示す隠語であるとわかった。「炉」は幼女や少女を表すロリータ、「s」は小学生、「c」は中学生、「jk」は女子高校生、「和」は日本人の少女であることを示す。

掲示板では写真や動画の対象を隠語にし、撮影された際のシチュエーションを次のように書いて購入者にアピールしていた。

「炉の詰め合わせ」

「更衣室 盗撮 超絶美少女S高学年」

「無邪気なSを車に連れ込んでワイセツ行為」

「最近の鬼畜すぎな和Sイタズラ記録」

掲示板にたどり着くためのフォルダ名は、他のフォルダと同じようにTwitterで配布されていた。有料の鍵を購入する必要がなく、数字とアルファベットがランダムに組み合わされたフォルダ名をアプリに打ち込めば、誰でも使える。ツイートには、掲示板で児童ポルノがやりとりされていることは、書かれていない。

しかし、あるTwitterユーザーは、掲示板をこう宣伝している。

「みんなの表には出し辛い秘蔵の逸品をメッセージ欄にどうぞ!」

掲示板の作成者は、有効期限を設けることができる。アルバムコレクションは1分〜最長335時間59分、動画シェアは5分〜119時間59分の範囲で設定可能だ。この有効期限を過ぎると、掲示板は自動的に削除され、あとには残らない。掲示板が消えても、再び別の掲示板が作成される。こうして加害者たちは掲示板を次々に作り替え、証拠を消しながら児童ポルノの投稿や拡散を続けていくのだ。

アルバムコレクションの掲示板で行われていたやりとり

泣き声を上げて身をよじる女の子

私はアプリのフォルダ内にある掲示板での「宣伝」をもとに、実際の映像を確認していった。その結果、動画シェアとアルバムコレクションで、200本以上の児童ポルノが見つかった。被害者はもっとも小さくて3歳ほどの幼児から、小学生、中学生、高校生とほとんど全ての年代の未成年だ。

映像の中で子どもたちに対して行われていた性的虐待は、多岐にわたる。

多かったのは、裸の胸や局部を撮影されているもの、学校や施設と見られる場所での着替えやトイレの盗撮、大人との性交や性的行為を強制されている映像だ。

さらには、子ども自身が撮影したような「自撮り」の映像や、服を着た状態の映像までが性的商品となり、取引されていた。

子どもたちは、笑顔で応じている子もいれば、呆然としていたり、泣き声を上げて身をよじったりしている子もいた。

動画を撮影する加害者や、それを売り買いする者たちにとって、子どもたちの年齢は「付加価値」になる。未成年であることを強調するため、動画内に登場する子どもに年齢を言わせる場面も見つかった。

ある動画では、女の子と性行為をしている撮影者が、「何歳なの?」「どこ中なの?」と尋ねている様子が撮影されていた。女の子は問いかけに答え、年齢と通っている中学校名を口にした。フォルダ名と一緒に投稿された説明文には「14歳の障害者を屋外で」とあった。

少女が自分のフルネームと年齢をカメラに向かって伝えてから、自分で裸を自撮りしている映像も複数見つかった。場所は自宅のように見えるが、誰かに言わされているのだろうか。

別のフォルダには、22本の動画が入っていた。これらは全て公共施設などのトイレで盗撮されている。トイレの中に盗撮用のカメラが仕掛けられているのだ。映像には小学校低学年から中学生ほどの女の子が、顔出しで写っていた。

警察を警戒する犯罪者たち

加害者たちはあらゆる手を使い、子どもたちを狙っている。

子どもたちに対する性的虐待の被害は、身体的な虐待やネグレクトと異なり、外からはわかりにくい。本人もされたことの意味がすぐには理解できない場合があり、助けを求めることが難しい。しかし子どもの頃に受けた性被害は、生涯にわたり被害者を苦しめる。被害を撮影された映像が出回っていたら、なおさらだ。

警察も子どもを守るために捜査をしている。児童ポルノ禁止法違反の場合は、必ずしも被害者本人を特定する必要はない。写真や動画内に写る被害者が未成年であると確認できれば、犯人を逮捕することができる。被害者が被害を申し出る必要のあるリベンジポルノなどと比べると、捜査のハードルは下がる。

アプリに性的写真や動画を投稿している加害者たちの間でも、「児童ポルノはまずい」という認識があるようだ。警察に逮捕されるリスクが高いからだ。児童ポルノに当たるものは一切投稿しないと言い切る者もいる。

投稿者たちのチャットグループを運営していたピーチと名乗る男は、児童ポルノは投稿しないようメンバーたちにアドバイスしていた。だが同時に「観賞用」として、チャットグループ内で10代前半と見られる少女の動画や写真を送信していた。内輪で楽しむだけならいい、と考えているのだ。

加害者グループのチャットでも児童ポルノがやりとりされていた

警察庁は

動画シェア、アルバムコレクション内に作成された掲示板の中だけでも、児童ポルノが入ったフォルダを宣伝する投稿が、1日に数十件行われている。子どもたちの性的な映像が毎日繰り返し投稿・拡散されている状況に、警察はどう対処するのか。

頼りになるのではと私が考えたのは、警察庁サイバー特別捜査隊だ。2022年4月に発足した。主な目的は、政府や企業を狙った大規模なサイバー攻撃に対応することだ。しかし、隊長の佐藤快孝(よし・たか)氏は就任会見で次のように述べている。

「サイバー空間における安全安心の確保に努めて参りたい」

「捜査や技術に精通した人材や専門の資機材といったリソースが(サイバー特別捜査隊には)集約されております」

政府や大企業をサイバー犯罪から守るだけではなく、子どもや女性が犠牲になる性犯罪も捜査してくれるのではないか。私がいくら犯罪にあたるような性的な動画や写真を見つけても、数が多くて間に合わない。しかし、この隊には捜査のための人材と資機材が集約している。

2022年12月9日、私は警察庁サイバー特別捜査隊に対して質問状を送った。私が取材しているアプリを使った大規模な児童ポルノや、リベンジポルノ拡散の犯罪捜査に着手するかという内容だ。

12月23日に以下の回答が届いた。

個別の事件についてはお答えすることはできませんが、一般論として申し上げれば、警察では、「子供の性被害防止プラン(児童の性的搾取等に係る対策の基本計画)2022」を踏まえ、児童ポルノ等については、特に低年齢児童を性的好奇心の対象とする悪質な事犯の取締りを強化するとともに、児童の保護、支援等を推進しております。

また、リベンジポルノについても、被害に遭われた方の心情に配意しつつ、取締りの徹底や画像の削除に努めるとともに、被害の未然防止のための教育・啓発等、関係機関と連携した対策を推進しております。

なお、サイバー特別捜査隊は、警察法上、重大サイバー事案に係る犯罪の捜査を行うこととされており、この種の事案については、主に都道府県警察の生活安全部が対応しております。

児童ポルノなどのネット上の性犯罪に、都道府県警の生活安全部が所管する現在の仕組みだけで対応できるとは、私には到底思えない。ネット上での犯罪は、県境どころか、国をも跨いで毎分、毎秒展開されているからだ。

被害件数も多い。これまでに取材した現役の警察官や警察庁OBからは「検挙がまったく追いついていない」という声を聞いている。

手に負えないのであれば、なおさら対処方法を変えるべきだ。

警察庁は対面での取材には応じなかった。

最初の質問から4ヶ月

動画シェア、アルバムコレクションを提供しているGoogleとAppleはどう対応するのか。私が最初に両社に質問を送ったのは昨年9月だ。当初から両アプリで児童ポルノが売買されていることを指摘してきた。

また2回目の記事でも報じたように、Appleのアプリストアには、これらのアプリで違法な動画がやりとりされていることを指摘するユーザーレビューも複数寄せられている。

今回発覚したケースでは、動画シェア、アルバムコレクションの掲示板で児童ポルノを宣伝する投稿が繰り返されている。アプリを提供しているGoogle、Appleの責任は重い。

私は両社に度々回答を催促してきたが、返答はない。

被害を広げたプラットフォーマーが逃げ続けている。

私の頭の中には、性的虐待を受けていた子どもたちの表情や声がこびりついて離れない。大人の無責任の代償を子どもに払わせてはならない。

被害を温存する構図がなぜ今も続いているのか。取材を続ける。

=つづく

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