タンサユースナイト

Tansaの舞台は日本と世界【第1回ユースナイトレポート】

2023年10月17日16時15分 中川七海

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9月末、「Youth × Tansa」の新プログラム「タンサ ユースナイト」を初開催した。探査報道やTansaの活動を深く知りたい25歳以下が集い、Tansaのリポーターやスタッフとざっくばらんに交流することができるオンラインイベントだ。

第1回には、高校生と大学生の2人が参加した。「探査報道をする覚悟はどのように生まれたのか」「寄付で運営して生活できているのか」など、学生たちから率直な疑問がたくさん寄せられた。

特に学生たちが気になっていたのは、「どのようにして世界を舞台に取材するのか」という、Tansaの国際連携に関する取り組みだった。

彼・彼女たちの目に、世界で活動するTansaはどう映ったのか。

高校生「日本のマスコミは世界とのつながりが感じられない」

2023年9月28日夜7時、第1回タンサユースナイトをZoomで開催した。参加者は、私立高校のインターナショナルコースに通う2年生と、大学生の2人。Tansaからは、編集長の渡辺周、リポーターの辻麻梨子、中川七海、スタッフの髙橋愛満が参加した。

学生2人にとって、Tansaメンバーから直接話を聞く機会は初めてだ。約1時間の会の前半でTansaの活動を一通り説明したところで、早速質問が上がった。

「どのように国を跨いだ取材をするのか」と質問したのは、高校2年生の参加者だ。帰国子女や留学生に囲まれ、すべての授業が英語で行われるインターナショナルコースで学んでいる。国際的な話題に興味があるが、日本のテレビや新聞を見ていても、世界とのつながりを感じる報道は少ないと感じている。

Tansaは、日本で唯一の「探査ジャーナリズム世界ネットワーク(Global Investigative Journalism Network)」加盟の報道機関だ。日本の外に出て取材をしたり、世界各国の報道機関と手を組んで事態を動かすニュースを報じたりしている。メンバーがそれぞれ、国際共同取材の経験を語った。

GIJN加盟の報道機関でコラボレーション

渡辺がまず挙げたのは、シリーズ「石炭火力は止まらない」の取材の裏側だ。

このシリーズでは、人体への悪影響から自国では建設しない石炭火力発電を、大手商社「丸紅」を中心に、日本と韓国の官民がインドネシアのチレボンに建設し、住民が公害被害に苦しんでいる実態を報じた。

この巨大な相手にどう立ち向かうのか。Tansaは、同じく「GIJN」に加盟する探査報道機関である、韓国の「ニュース・タパ」とインドネシアの「Tempo」とともに取材を始めた。

現地のことをよく知るTempoがいたことで、発電所建設に反対する住民を監視している警察の影響を受けない場所で取材をしたり、住民の健康状況を調べている医療関係者にスムーズに会えたりと、それぞれの強みを活かして取材を進めた。報道を受け、韓国の企業はチレボンでの新たな発電所の建設計画の中断を表明した。

「世界から見た日本」に気づかせてくれる

シリーズ「東京物語 Tokyo Stories」では、イギリスの有力紙「ガーディアン」と連携した。

ガーディアンは2020年の東京オリンピック開催にあたり、東京に関する探査報道を世界に発信したかった。そのためには、日本の報道機関との連携が不可欠だ。そこでガーディアンは、日本の報道機関では唯一GIJNに加盟しているTansaにコラボレーションを申し入れた。

Tansaが示した東京が抱える問題の中で、ガーディアンの記者が関心を寄せたのが「孤独死」だった。都営団地では毎日一人の高齢者が孤独死している。日本では、孤独死は誰もが聞いたことのあるテーマだったが、海外の記者からすると「経済発展した日本で、そんなことがあるなんて考えられない」とのことだった。

報道後、渡辺がハンガリー・ブタペストでのジャーナリストたちのセミナーに参加した際のことだ。記事を読んだ参加者から「あの記事見たよ、泣いてしまった」と声をかけられた。

渡辺は「国際連携は、世界的な視点でみた日本を我々に気づかせてくれます」。「影響力のある媒体で発信することで、世界に日本のニュースを届けることができます」。

BBCの取材ノウハウを学ぶ機会に

リポーターの辻は、イギリスの公共放送「BBC」に取材協力したエピソードを紹介した。

BBCは今年6月、「痴漢動画の闇サイトを暴く 売られる性暴力」を報じた。中国市場向けに、日本や韓国、香港などで痴漢動画を撮影し販売していた犯人を、探査報道を専門とする取材班が潜入取材などを経て突き止めた。YouTubeの再生回数は、英語オリジナル版日本語字幕版あわせて85万回に上る。

辻はTansaで、子どもや女性が被害に遭うネット上の性犯罪を描いたシリーズ「誰が私を拡散したのか」を手掛けている。BBCの取材班は日本に足掛かりがない。辻は日本における情報収集などをフォローした。

辻の方も取材協力する中で、BBCの加害者への接触方法を学んだ。

「協力者を騙って信頼を得ながら、周辺人物に接触していき、最終的な犯人に辿り着きます。ジャーナリズムはここまでできる、という可能性を感じました」

国際コラボで取材相手を揺るがす

リポーターの中川は、記者1年目で手がけたシリーズ「巨大たばこ産業の企み」について話した。

汚職や組織犯罪の調査を専門とする世界的ネットワーク「OCCRP」をはじめ、イタリアの「Rai 3」やウクライナの「Kyiv Post」など、世界10カ国の組織による大型の国際コラボレーションに参加した。

たばこ会社の「フィリップ・モリス」は、新型コロナウイルスの流行に乗じ、加熱式たばこ「IQOS(アイコス)」を「ステイホーム中でも吸いやすい」とアピールしていた。「紙たばこよりも安全」という偽りの宣伝文句を使っていた。

コロナ流行で各国間の移動が制限される中、世界的企業をどう取材するのか。10カ国の報道機関は、それぞれの国でできる取材を進め、オンラインでの情報共有を重ねた。中川が国際連携のパワーを感じたのは、各国でほぼ同時にフィリップ・モリスに対する質問状を出した後だ。同時多発的に取材を受けたことで、フィリップ・モリス本社が焦りを感じ、それを機に取材対応に変化が見られたのだ。

中川は「今や、一国の中で完結する問題の方が少ないです。企業も政府も、国を跨いで悪事を働きます。ジャーナリストも国を越えて協力し合わなければいけません」。

「私もTansaで活躍したい」

日本だけでなく、世界を舞台に探査ジャーナリストとして駆け抜けるTansaメンバーは、学生の目にどう映ったのだろうか。会の最後に、高校生が「質問ではないんですけど・・・」と切り出した。

「実は、これまでやりたいことが見つからず、大学進学も迷っているぐらいでした。だけど、私もTansaで活躍したいと思いました。高校生でも関われますか? 」

彼女は今月から、Tansaの学生インターンとして活動を始める。語学力や多様なバックグラウンドをもつ友人たちと学んでいる経験を活かして、ぜひTansaで活躍してほしい。

【次回予告】シリーズ「誰が私を拡散したのか」の記事ができるまで

第2回タンサユースナイトは、10月30日(月)19時に開催します。

前半は「探査報道って何?」「Tansaの活動を知りたい! 」といった疑問にお答えし、後半では月替わりのトークテーマについてお話しします。

今月のトークテーマは、「シリーズ『誰が私を拡散したのか』の記事ができるまで」です。担当リポーターの辻が、ネタを掴んでから記事にするまでの取材過程をシェアします。潜入取材や加害者特定までの経緯を聞ける機会です。記事を読んだ上での参加をおすすめします。

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