編集長コラム

経団連第二広報部? (163)

2025年05月31日10時54分 渡辺周

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おべんちゃらも、ここまで来ると怖い。

5月29日、日本経団連の会長に筒井義信氏が就いた。日本生命保険の社長、会長を務めた人物だ。歯がうくような言葉を並べ、マスコミ各社は筒井氏を持ち上げている。

朝日新聞の5月30日付「ひと」欄の書き出しは、「逆境に強い」。東日本大震災で、社長だった筒井氏が、保険金を遅滞なく支払う方針を定めたエピソードを披露している。母の商店街での買い物に同行し社会性が身についた話など、子ども時代の話も紹介。最後は筒井氏の語る「揺るがぬ信念」で締めている。

「企業とは人そのもの、一人ひとりの行動の集積。何よりも人が重要で、結束してこそ大きな力になる」

朝日だけではない。毎日新聞は、筒井氏が藤沢周平の小説が好きな理由を語った言葉を載せた。「市井の人たちが主人公なのも親近感が湧いていい」。NHKは「課題解決のフロントランナーとして企業がその役割を担い、将来世代への責任を果たしていく」と筒井氏の決意を強調した。

その他の報道も目を通したが、共通しているのは、批判的な視点の欠如だ。ただ、「筒井新会長万歳」と叫んでいるように私には思える。

筒井氏という人物を褒めるなとは言わない。だが筒井氏は、経団連の会長という大きな権力を持つ立場にある。その権力をどのように使うのか。しっかりと監視するのが、ジャーナリズムの担い手としての役割だ。

自民党への企業献金を主導してきたのは、経団連だ。献金で自民党の政策を「買収」し、大企業に我田引水してきた。その結果、この30年で非正規雇用の割合は倍増して4割に。防衛費はうなぎのぼりだ。Tansaのシリーズ「自民支えた企業の半世紀」で、報じている通りだ。

経団連新会長の筒井氏は、「市井の人たちに親近感が湧く」とか、「将来世代への責任を果たしていく」とか語っている。だが、実際は大企業の社員たちとそれ以外の人たちとの格差は広がるばかりだ。

前任の経団連会長である十倉雅和氏(住友化学会長)は自民党への政治献金について、2023年の記者会見でこう言っている。

「民主主義の維持には相応のコストがかかる。政党に企業がクリーンな寄付をすることは社会貢献の一環で、重要だ」

ならば新会長の筒井氏は、どう考えるのか。自民党がいまだに企業団体献金の禁止から逃げ続けるのは、経団連と示し合わせているからではないのか。それくらいのことは筒井氏に質し、経団連会長就任の記事には入れるべきだ。

なぜマスコミは、こんな当然のことができず、経団連第二広報部のようなことしかできないのか。

マスコミ各社にとって、大企業が大事な広告主だということが大きいのかもしれない。経営難に喘ぐ中では、その重要性はより一層、増しているだろう。

しかし、少しくらいは抵抗したらどうか。広告主よりも、読者・視聴者の信頼を失うことの方が深刻だ。

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