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シリーズ「TM特別報告書 自民党に巣食った統一教会」は、日韓共同取材だ。
Tansaのパートナーは、非営利独立の探査報道組織「ニュースタパ」。闘う報道機関として知られる。
ユン・ソンニョル(尹錫悦)が大統領だった時は、ユンの検事時代の不正を追及。ニュースタパは検察から強制捜査を受けたこともある。その際は市民が応援し、寄付や激励メッセージ、海苔巻きまで送られてきた。
統一教会に関するニュースタパの取材成果からは、日本と同じように教団が政治家に食い込むことで組織の拡大を図ったことや、逮捕後もハン・ハクチャ(韓鶴子)総裁に絶対的な忠誠を誓わそうとした戦略がみえてくる。
今回はニュースタパのこれまでの報道をもとに、統一教会の意図に迫る。
講堂を埋め尽くした2700人の信者

特別検察官のもとへ出頭する統一教会のハン・ハクチャ(韓鶴子)総裁=ニュースタパ提供
統一教会総裁のハン・ハクチャは2025年9月23日、韓国の特別検察官に逮捕された。ユン・ソンニョル前大統領の妻や側近に金品を渡し、統一教会への便宜を依頼した疑いだ。
ニュースタパは、逮捕の前日から1カ月間にわたり、統一教会に潜入取材した。
逮捕の前日、ハンの拘束令状について裁判所が審査している頃、統一教会の聖地「天心苑」では、信者たちが「ホーリーマザー・ハン」と書かれたTシャツを着て泣き叫びながら天に祈りを捧げた。

ハン総裁の拘束令状却下を祈っている統一教会信者たち=ニュースタパ提供
この日、天心苑長のイ・ギソン(李基誠)は信者たちに対し、総裁がまもなく釈放されるという「霊界」からのメッセージを伝えた。
イはまず、2012年に亡くなったムン・ソンミョン(文鮮明)のメッセージを伝えた。
イによると、ムンは「令状審査は却下されるが、その後が重要だ」とのメッセージを送ってきた。続いて古代ギリシャの哲学者ソクラテスの霊界メッセージも伝えられた。ソクラテスは「真の母(ハン・ハクチャ)を強力に守る」と述べたという。
だがハンは逮捕され、ソウル拘置所に収監された。
統一教会では、ハンが拘束される前後で約40回の集団祈祷会が行われた。夜10時から深夜1時まで、毎回最低1000人以上の信者が参加した。
ハンが拘束された週には2700人余りが講堂を埋め尽くした。前方に幹部たちを含め、ハンの家族と親族が席を取り、その後ろに信者たちがびっしりと座った。両親について来た幼い子どもたちは最前列の床で眠った。
舞台にはハン・ハクチャ、ムン・ソンミョン夫妻の映像が映し出され、舞台にはハン総裁の黄金の椅子が置かれた。幹部たちは椅子に花を捧げ、礼拝した。
ある幹部はソウル拘置所に収監されたハン総裁を哀れみ、自作の詩を発表した。
詩の題材はハン総裁の拘置所での食事で、こんな内容だ。
「お母様の朝食はミニチーズパン……お母様の昼食は油揚げ入りスープ、豚の角煮、唐辛子の漬物、白菜キムチ。お口に合われただろうか、半分は召し上がっただろうか」
集団祈祷会で、統一教会の幹部は信者たちに結束を呼びかけた。
「我々を崩そうとする者たちが望むのは分裂だ。家族が一つにならなければならない。逆転の日と勝利の日が必ず来る」
ハンの孫で後継者と言われる人物は、声を張り上げた。
「メディアと特別検察が主張する全ての嫌疑と虚偽にも、堂々と人々の前に立ったお母様の生涯を見よ」
裁判で裏付けられたTM特別報告書の信憑性
「TM特別報告書」は、統一教会の内部文書だ。教団ナンバー2のユン・ヨンホ(尹英鎬)世界本部長が、ハン・ハクチャ総裁に教団の懸案を直接報告するために作成したとされる。
裁判ではTM特別報告の目的や、信憑性を裏付ける証言が出ている。
裁判でユンは以下のように証言した。
「この文書をハン・ハクチャ総裁にそのまま伝達はしなかったが、文書内容を基に毎朝口頭で報告した」
「報告後にはハン総裁が具体的な指示事項を出した」
統一教会で、通訳・翻訳業務と海外要人の招待業務を担当していた人物はこう証言した。
「海外報告事項をユン・ヨンホ前本部長に伝達すると、ユン前本部長がこれをハン・ハクチャ総裁に報告した」
「ユン前本部長からハン総裁の指示事項を受け取ると、これを翻訳して海外各国に伝達した」と述べた。
証人として出席した統一教会の第5地区長は、TM特別報告書の中に登場する文言を自身が作成したと認めた。
大統領に接近
統一教会は、韓国でも政治家に浸透することで教団の影響力を大きくしようとしていた。
2022年の大統領選後に作成されたとみられるTM特別報告書には、「Y訪問」という表現が登場する。Yはユン・ソンニョルのことを指す。
報告では、ユン・ヨンホがユン・ソンニョル前大統領の当選直後に、「政権引き継ぎ委員会事務室」を訪問した当時の記録がメモとして記されている。
「ユン・ヨンホ本部長に特定の部分を任せる」「国家プロジェクト提案」「今後議論しよう」「在任期間中に実行しよう」
統一教会側が国家事業的なプロジェクトを提案し、ユン・ソンニョルがこれを前向きに検討した状況がうかがわれる。
統一教会が推進したい事業を、国会議員が支援していたという記述もある。
例えば、「共に民主党」の議員だったイム・ジョンソン(林鍾成)。
統一教会が日韓海底トンネル推進のために設立した「世界平和トンネル財団」の名称を、2017年11月に「世界平和道路財団」に変更する過程で、協力があったと記録されている。
2019年10月のTM特別報告には、統一教会が推進したキルギス水資源開発事業についても、イムが支援役を務めたと記されている。
現在、イムは2020年総選挙前後に統一教会側から約3000万ウォンを受け取った疑いで捜査を受けている。
イムは金品・政治資金を受け取ったことはないと反論している。TM特別報告書については「統一教会内部で忠誠を競うように誇張して作成されたものに過ぎず、実際の行為とは無関係だ」との立場だ。
統一教会が韓国で、国政だけではなく、地方自治体の選挙にも介入しようとしていたこともTM特別報告書で明らかになっている。
2020年11月2日のTM特別報告には、2021年のソウル市長補欠選挙を前に、候補者を懐柔しようとする計画が盛り込まれている。「ソウル市町共同体事業」を活用して、統一教会の信者最大300人を住民自治委員会の委員として参加させるという計画だ。
「空中戦は(統一教会の)世界本部を通して、地上戦は私たちが責任を持って作り上げていきます」
「来年のソウル市長補欠選挙に出馬する候補者にとって、決して打ち破れない切り札になり得ると確信しております」
日本の統一教会同様、韓国の本部もTM特別報告の信憑性を否定している。
「ユン・ヨンホ前本部長が自身の影響力を誇示するために主観を過度に反映して作成した非公式文書に過ぎず、事実と異なる内容が含まれており、ユン・ヨンホ本人にとって不利な部分は削除された」
しかし、裁判での他の統一教会関係者の証言や、日本の政治家への60年にわたる統一教会の浸透、日韓両国での政治家と統一教会関係者への取材を総合すると、TM特別報告は信憑性が高い。ニュースタパとTansaは引き続き、共同で検証を続ける。
(韓日翻訳:姜旼宙)
(敬称略)
「TM特別報告書」を報じるにあたって
TM特別報告書に関し、統一教会は反論し、自民党は目を背けています。
統一教会側からは2026年1月16日、世界平和統一家庭連合広報渉外局が「『TM特別報告 』(俗称)に対する当法人の見解」を公表しました。
見解では、TM特別報告書を作成した元世界本部長のユン・ヨンホ(尹煐鎬)氏のもとで活動していたとされる職員のリポートを掲載。TM特別報告書には意図的な省略、書き換え、追記が含まれている可能性が高く、「極めて信憑性に欠ける」と指摘しています。リポートの筆者である職員は匿名で、役職等も記されていません。
また、TM特別報告書に出てくる日本の政治家との関係については、「事実関係を超えて表現が誇張されている、文脈が脚色されている、あるいは事実として確認できない内容が含まれている可能性を否定できません」と書いています。
統一教会側からは、元会長の徳野英治氏もXで2026年1月8日に発信しました。TM特別報告書について、「私が韓総裁に報告するために元世界本部長に送った報告が含まれているのは事実」と自身の報告が含まれていることを認めた上で、「個人的意見や希望的予測なども多く含まれています」などと記しています。
自民党は元総裁の安倍晋三氏が殺害されて2カ月後、2022年9月に統一教会との関係を調査し「党としての組織的な関係はない」と結論を出しました。調査は議員による自己申告で極めて不十分なものでしたが、現総裁の高市早苗氏は、TM特別報告書を検証する意思が今のところは全くありません。2026年1月26日にはTBSの「news23」に出演。れいわ新選組共同代表の大石晃子氏にTM特別報告書に高市氏の名前が出ていることなどを指摘され「出所不明の文書」「名誉毀損になりますよ」とまで言っています。
Tansaは、3212ページある韓国語のTM特別報告書すべてに目を通しました。AIによる分析も活用し、翻訳者、取材パートナーである韓国の探査報道組織「ニュースタパ」と共に検証しました。
統一教会に関しては、ジャーナリストや研究者、被害者対策に取り組んだ弁護士や宗教家による膨大な調査結果が蓄積されています。Tansaは先達の仕事に敬意を払い、その成果も活用させていただきながら、TM特別報告書を検証しました。
その結果、統一教会と自民党の長年にわたる共依存を解き明かす上で、TM特別報告書は極めて重要な資料であると判断しています。
TM特別報告書について報じながら、取材を続けます。統一教会と自民党の癒着について、明かされていない内部情報をお持ちの方は、ぜひTansaまでお寄せください。責任を持って情報源を秘匿し、お守りします。
情報提供にあたっては、以下のページをご参照ください。連絡方法や注意点、公益通報者保護法のポイントを掲載しています。
https://tansajp.org/whistleblower/
統一教会は2015年に「世界平和統一家庭連合」と名称変更し、マスコミ各社は「旧統一教会」と呼称しています。しかし、教団がはらむ問題には連続性があるため、Tansaは「統一教会」と表記します。
2026年1月27日
Tokyo Investigative Newsroom Tansa
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