飛び込め! ファーストペンギンズ

のけ者たちの自由(10)

2022年10月11日15時19分 辻麻梨子

シリーズ「虚構の地方創生」では、巨額の予算を支出する財務省も重要な取材先だった。私は主計局の担当者に話を聞いたり、情報公開請求をしたりしていた。昨年秋には、財政制度等審議会で地方創生臨時交付金の使い道が審議されるというので、その後に開かれる同省の記者会見に出席した。

財務省の広報室報道係からは、会見への参加許可を得ていた。当日、編集長の渡辺と会見が開かれる部屋に入った。机の上には、すでにマスコミ各社の記者の名刺が置いてある。場所取りをしているのか、あるいは席が決まっているのだろうか。私たちは空いていた一番後ろのソファ席に腰掛けた。

会見が始まると、記者たちは脇目も振らずパソコンを叩いている。この光景は、ほかの記者クラブの会見でもよく目にした。そんなに急いで、デスクにメモを送らないといけないのだろうか。会見の内容は資料にすでに書いてある。パソコンを叩くよりも質問を練るほうが大事ではないか。

財務省側からの説明の後、記者の質問が始まった。いくつかの基本的な質問がなされた後、横にいた渡辺が手を挙げた。渡辺はちょうどその頃、矢野康治事務次官(当時)が政府のばらまき政策を批判する論文を文藝春秋に載せたことについて、見解を問うた。

私は重要な質問だと思った。なにせ、現役の次官が表立って政権批判をしたのだ。財務省としての立場を聞くべきだろう。それまで予定調和な質問が続いていた中で、会見場の空気が少し変わったように思えた。

会見が終わり、帰ろうとしたところを不意にスーツ姿の男性2~3人と財務省の女性職員に囲まれた。会見の幹事をしていた、地方紙の記者が口を開いた。

「今日は誰の権限で会見に参加しているんですか?」

私は財務省に参加連絡をしたことを伝えた。相手は私たちの所属などを聞いた後、「コロナの関係で、会見への参加は1組織1人までなんです。今度からは気をつけてください」と言い立ち去った。

事前にそんな説明は受けていなかった。会場にはちらほら空席があり、混み合ってもいない。わざわざ注意するほどの「ルール」だろうか。私は突然のことにびっくりしたが、要は「部外者」が堂々と会見に参加するのが気に食わないのだろうと悟った。

Tansaは記者クラブに加盟していない。行政の会見に参加するには、毎回役所や記者クラブ加盟社に依頼する必要がある。これにはいつも、苦戦させられる。そもそもプレスリリースをもらえず、会見日程もわからない。各役所によって仕組みが異なり、クラブに加盟していないとダメだと断られることも多い。

他方、加盟社の記者たちは役所に自由に出入りし、記者用の部屋まで用意されている。非公式でありながら定番化している「ぶら下がり」「記者懇談会」といった取材の場も、ほとんど記者クラブ限定だ。

こうした特別扱いを受けるうちに、彼らの中には自分も「権力の側」であるかような意識が育っていくのではないだろうか。それがクラブ外の記者にわざわざ注意をすることや、必要以上に行政に気兼ねし、質問をしないこととつながる。

私には、彼らが監視すべき権力機関の中にぬくぬくと安住しているようにしか見えない。一体何のために記者クラブという「特権」を得ているのか。

Tansaは創刊6年目に入ったが、この「のけ者扱い」はほとんど変わっていない。今もさまざまな場面で、「記者クラブ以外お断り」を突きつけられる。だが、これまで報じた記事は国会審議の材料になったり、賞を受賞したりと着実に力をつけてきた。記者クラブの特権を得られないことで多少の不便はあるが、探査報道はできる。

小さな部屋に入れない代わりに、のけ者なりの自由を駆使しようと思う。

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