飛び込め! ファーストペンギンズ

鈍感すぎませんか?(25)

2023年02月14日18時49分 辻麻梨子

2月3日の夜、Twitterを見ていたらあるニュースに目が留まった。

「速報 首相秘書官、性的少数者や同性婚巡り差別発言」

首相官邸で行われたオフレコの取材の場で、首相秘書官の荒井勝喜氏が同性婚制度について、「秘書官室は全員反対で、私の身の回りも反対」「見るのも嫌だ。隣に住んでいるのもちょっと嫌だ」などと発言したのだ。

翌日、岸田文雄首相は荒井氏を更迭した。

発言内容を実名で報道しない前提で行われる、オフレコ取材。そのルールを破り、荒井氏の発言を最初に報じたのは毎日新聞だった。その後、共同通信や朝日新聞が続いた。

首相のスピーチの作成も担当していた秘書官が、性的少数者を露骨に差別していたことがわかったのは報道の成果だ。

だが、疑問が浮かぶ。

他の記者たちはこの差別発言を聞いて記事にしようと考えなかったのか。

毎日新聞の記事によると、この日のオフレコ取材の場には毎日新聞を含む報道各社の記者約10人がいた。だが他の社が記事を出したのは、最も早い共同通信で毎日新聞の40分後、朝日新聞や読売新聞は同日の深夜だった。毎日新聞の報道を見て、追随したのだろう。

荒井氏の発言が重大だとあとになって断じるのであれば、なぜ発言を聞いた直後に報じなかったのか。毎日新聞が報じなければ、誰も報じることはなかったのではないかと思わざるを得ない。

そもそも、この日の取材に参加していた10名の記者は誰なのだろうか。朝日新聞は自社の記者がその場にいなかったと記事で説明していたが、他社の状況はわからない。どの記事でも、「記者団」と表記されているだけだった。

私は数日前に読んだ別の記事でも、同様の「記者の鈍さ」を感じた。

1月26日付けの朝日新聞朝刊2面に載った「首相の『決断』資質問う」という見出しの記事だ。前日に始まった岸田首相の施政方針演説に対する、各党の代表質問の内容を報じている。

記事の後半では、防衛予算の大幅な増額や原発政策など、これまでの政府の方針を大きく転換する首相の「思惑」を報じていた。そこに自民党の閣僚経験者の発言として、次の内容が掲載されていた。

「自民党内にも「岸田首相で本当にラッキー。安倍政権なら大変な騒ぎになっていた。ソフトなイメージの岸田氏がのらりくらりとやって決めてくれるからできることだ」(閣僚経験者)と歓迎する声がある。」

防衛予算増大やそれに伴う増税、原発新設は国民の生活や安全に関わる重要な方針転換だ。それを「岸田首相で本当にラッキー」「のらりくらりと決めてくれる」などと評価するのは、党の方針を通すことに価値を置き、国民の姿が見えていない。

私はこうした発言をした政治家も、実名で報じるべきだと思う。

首相秘書官に対するオフレコ取材は、平日はほぼ定例化しているという。政治部の記者には、政治家と日々付き合いながら情報を聞き出すことも求められるだろう。

だが職業を通じて得た情報を社会に還元しない「政治通」を、私は記者と呼びたくない。

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