保身の代償 ~長崎高2いじめ自殺と大人たち~

審査結果を当事者に開示しない共同通信 –共同通信編(29)

2023年06月27日23時22分 中川七海

2023年1月27日、共同通信は総務局長・江頭建彦の名前で、石川陽一に対して通知書を出した。文藝春秋が出版した石川の著書『いじめの聖域』の出版了解を取り消し、重版を認めない旨が書かれていた。

重版する権限は文藝春秋にある。石川にこのような通知を出すのは筋違いだ。

共同通信は、なぜこのような意味不明な結論に至ったのかを、石川は知りたかった。

だが、それは叶わない。

共同通信は石川に通知を出すにあたって、審査委員会が社の幹部たちには審査結果を報告したにもかかわらず、石川には開示しなかったからだ。

共同通信社の江頭建彦総務局長が出した「社外活動(外部執筆)の了解取り消しの通知」(2023年1月27日付)

審査結果を受け取った常任理事会

総務局長の江頭の名前で出された通知では、石川について「取材を尽くしていない」と判断していた。

だが、共同通信は調べを尽くした上で結論を出したのだろうか。

石川は意見書で、長崎新聞の記者にも取材したことを書いているのに、通知では「一切取材していない」と事実誤認している。福浦勇斗(はやと)の遺族や、長崎で塾を経営する佐々木大から提出された意見書の内容も、通知書では全く考慮されていない。吟味したとは思えない。

出版の了解を取り消し、重版も認めないのであれば、長崎新聞を批判した第11章の問題点を指摘した上で、文藝春秋に申し入れる必要がある。ところが共同通信は、文藝春秋に重版を認めないと伝えていない上に、出版までの経緯を尋ねてすらいない。

文藝春秋だけではない。事実確認のために共同通信は、長崎新聞や海星学園、長崎県といった関係者からきちんと話を聞いたのだろうか。少なくとも意見書を出した遺族と佐々木は、共同通信から何の連絡も受けていない。

総務局は、通知書を発送したことを知らせる石川へのメールに次のように記していた。

「石川さんの著書の件で、審査委員会が審査結果を文書で常任理事会に報告し、これを受けて社としての措置を決めました」

審査結果の文書は存在する。審査を受けた当事者である石川には文書を開示せず、常任理事会には共有したのである。常任理事会は、社長の水谷亨をはじめ、専務理事や常務理事で構成される。

石川は、育児休業中だったが、昼夜を問わない連絡や2回に及ぶ聴取にも応じてきた。21枚の意見書に加え、3枚の質問書、13枚の参考資料も提出した。

ところが、石川が受けとったのは総務局長の江頭の名前で出された2枚の通知書のみ。石川は納得いかなかった。

「原則公開」のはずが・・・

石川は、「審査委員会規定」を確認した。

審査委員会規定の第5条には、審査結果について次の通り定められている。

委員会の審査結果は、プライバシーに配慮しつつ、再発防止に役立てるため原則として公開する。

「原則公開」であれば、社員が閲覧できる場所にあるはずだ。石川は社内ポータルも調べた。だが、見当たらない。

原則公開にもかかわらず、当事者の石川にすら審査結果を開示しない。

通知書には、「今回の経緯をメディアで公表したりすることは、職員就業規則や社外活動規定に違反し、懲戒の対象になる場合がありますのでご注意ください」と書かれていた。石川に対するこの威迫も、審査結果を本人に知らせないまま通知を出したことが発覚するのを恐れてのことかもしれない。

石川は、勇斗の遺族と佐々木に申し訳なさを感じた。

勇斗の母・さおりは、石川への責任追及を思いとどまってもらうため、38度を超える高熱があるにもかかわらず、共同通信宛てに手紙を書いた。大晦日から元日にかけては徹夜で9ページにおよぶ意見書を書き上げた。

佐々木は、正月返上で意見書を書いた。共同通信が問題視する本の第11章について、「当時の状況をありのままに記す第11章は不可欠であった」と訴えている。

「共同通信社と長崎新聞社の信頼関係は著しく傷つきました」

共同通信は報道機関であり、公開するべき情報を公的機関や企業が出さなかった場合は追及するのが仕事だ。今回のように自らがそのような行為に走れば、信頼が失墜し現場の記者は取材に支障をきたす。通知書では石川が「社の名誉、信用を失墜させ、損害を与える行為」をしたと認定したが、それはそのまま共同通信に当てはまることになる。

なぜ、共同通信はここまで暴走したのか。

それがわかる一文が、通知書に記載されていた。

不適切な表現により、共同通信社と長崎新聞社の信頼関係は著しく傷つきました。

=つづく

(敬称略)

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