保身の代償 ~長崎高2いじめ自殺と大人たち~

加盟社トップらでつくる理事会、全員傍観 –共同通信編(30)

2023年06月28日23時39分 中川七海

共同通信は、一般社団法人だ。地方紙を中心とした55の新聞社とNHKが加盟している。その影響力は大きく、共同通信社長の水谷亨は今年4月の入社式で、新入社員に次のように述べている。

「新聞の発行部数が減っていると言いましたが、それでも加盟社の新聞は2000万を少し下回る程度の総発行部数があります。国内の日刊新聞の総発行部数は22年度の日本新聞協会のデータで約3085万部ですから、6割以上の新聞に共同の記事が配信され、使われている計算になります。これだけの影響力を持つ会社です。皆さんも自分たちがそういう仕事に関わることに誇りを持ってください」

加盟社は共同通信と密接な関係にある。『いじめの聖域』の著者である石川陽一を共同通信が審査委員会にかけた末、報道の自由を弾圧したことをどう考えているのか。共同通信の誤った判断に待ったをかける加盟社はないのか。

加盟社の中でも、特に理事会のメンバーは共同通信の運営を担う重要な存在だ。Tansaは理事会に入っている42人の社長らに、配達証明郵便で質問状を送った。長崎新聞には架電の上、別途送っている。

一般社団法人共同通信社の組織図の一部

理事会長は中日新聞社長

理事会は、社長の水谷ら共同通信本体の幹部で構成する常任理事会と共に、共同通信の組織全体を統括する。社長も理事会を経て正式に決まる。

会長は中日新聞社長の大島宇一郎が務める。中日新聞は、名古屋に本社を置いて東海地方を中心に約190万部を発行している。中日新聞と同じ会社である東京新聞の約39万部、北陸中日新聞の約7万9千部を合わせると、230万部を超える。大島は創業家の一つである大島家の出身で、東京本社で政治部を経験した。

副会長は約38万部の新潟日報会長・小田敏三と、約18万部の愛媛新聞社長・土居英雄だ。

43人全員が回答せず

Tansaは、43人の理事会メンバーに質問状を送った。

石川の著書をめぐり、長崎新聞からの抗議を受けた共同通信がとった言動を示した上で、次の4項目について理由とともに答えるよう求めた。

①石川氏に本書の重版を止める権限はありません。共同通信が重版を認めない旨を石川氏に通告したことは適切だと考えますか。

 

②共同通信は本書の重版を認めない旨を文藝春秋に申し入れるべきだと考えますか。

 

③共同通信が「極めて不適切」と断定した本書第11章の記述は、長崎新聞社に対する名誉毀損に該当すると考えますか。

 

④石川氏が育児休業中にもかかわらず、共同通信が石川氏の代理人である喜田村洋一弁護士を無視して執拗に連絡し、精神的な苦痛を与えたことは不適切だと考えますか。

反応したのは、山梨日日新聞、産経新聞、岩手日報の3社だ。「詳細を把握していない」「回答する立場にない」などと、回答しない旨を伝えてきた。

他は全員、無視だ。

以下に質問状を送った理事会のメンバーを示す。(質問状を送付した2023年5月18日時点で一般社団法人共同通信社の公式サイトに掲載されていた「2022年7月14日現在」の情報)

理事会長 中日新聞社 代表取締役社長 大島宇一郎
理事会副会長
新潟日報社 代表取締役会長 小田敏三
愛媛新聞社 代表取締役社長 土居英雄

 

理事
日本放送協会 代表取締役会長 稲葉延雄
産業経済新聞社 代表取締役社長 近藤哲司
日本経済新聞社 代表取締役社長 長谷部剛
毎日新聞社 代表取締役社長執行役員 松木健
北海道新聞社 代表取締役会長 広瀬兼三
河北新報社 代表取締役社長 一力雅彦
東奥日報社 代表取締役会長・主筆 塩越隆雄
秋田魁新報社 代表取締役社長 佐川博之
山形新聞社 代表取締役社長・主筆 寒河江浩二
岩手日報社 特別顧問 東根千万億
福島民報社 代表取締役社長 芳見弘一
福島民友新聞社 代表取締役社長 中川俊哉
下野新聞社 代表取締役社長 若菜英晴
茨城新聞社 代表取締役社長 沼田安広
上毛新聞社 代表取締役社長 内山充
神奈川新聞社 代表取締役社長 須藤浩之
山梨日日新聞社 山日YBSグループ代表 野口英一
信濃毎日新聞社 代表取締役社長 小坂壮太郎
静岡新聞社 代表取締役顧問 大石剛
岐阜新聞社 代表取締役社長 矢島薫
北日本新聞社 代表取締役社長 蒲地誠
北國新聞社 副会長 温井伸
京都新聞社 代表取締役社長 主筆 大西祐資
神戸新聞社 代表取締役社長 高梨柳太郎
山陽新聞社 代表取締役社長 松田正己
中国新聞社 代表取締役社長 岡畠鉄也
山陰中央新報社 代表取締役社長 松尾倫男
四国新聞社 代表取締役 平井龍司
徳島新聞社 理事社長 グループ経営会議議長 池上治徳
高知新聞社 代表取締役社長 中平雅彦
西日本新聞社 代表取締役社長 柴田建哉
大分合同新聞社 代表取締役会長 長野健
宮崎日日新聞社 代表取締役社長 河野誠司
長崎新聞社 代表取締役社長 徳永英彦
熊本日日新聞社 代表取締役社長 河村邦比児
南日本新聞社 社長 佐潟隆一
沖縄タイムス社 代表取締役社長 武富和彦

 

監事
福井新聞社 代表取締役社長 吉田真士
佐賀新聞社 代表取締役社長 中尾清一郎
琉球新報社 代表取締役社長 普久原均

 

Tansaの連載を読んで、報道機関のトップとして、今回の共同通信の行動が日本のジャーナリズムの信頼失墜につながると判断したならば、今からでも返事がほしい。

=つづく

(敬称略)

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