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撮影罪が施行 同意のない性的撮影や盗撮は処罰対象に 「同意ないと知りながら拡散」も犯罪

2023年07月19日16時56分 辻麻梨子

シリーズ「誰が私を拡散したのか」の取材費のサポートはこちらからお願いいたします。

7月13日、本人の同意を得なかったり、他の人には見せないと騙したりして性的な姿を撮影することを罰する「撮影罪」が施行されました。撮影したものを提供することや、提供する目的で保管することも罪に問われます。

この法律は、探査報道シリーズ「誰が私を拡散したのか」で報じてきた被害の一部を、犯罪行為と規定しています。

これまで泣き寝入りするしかなかった被害だとしても、これからは相手方の法的責任を問える可能性があります。現在、同意のない性的な画像を撮影されたり、それを広められたりして困っている方にとって、新法を理解する一助となるよう本記事でその内容を解説します。法律の条文と、Q&Aは法務省のサイトに掲載されています。

(イラスト:qnel)

撮影罪の第一条に定められている目的は、「性的な姿態を撮影する行為等による被害の発生及び拡大を防止すること」です。

具体的には次のような被害に遭った場合、相手方の行為が法律より罰せられます。

①盗撮されてしまった

裸の性的な部分や性的な行為のようすを、あなたが気がつかないうちに撮られたり、同意をしていないのに撮影されたりした場合、相手の行為は「性的姿態等撮影罪」に当たります。下着を身につけていても当てはまります。

これまでは都道府県の迷惑防止条例などで対応していましたが、全国一律の規制ができました。業務中に被害に遭っても上空のため、犯罪が行われた都道府県が特定できなかった客室乗務員などの訴えも続いていました。

こうした撮影行為を行った者には、3年以下の懲役または300万円以下の罰金が課される可能性があります。

また法律には、加害者が持っている性的画像の撮影データを没収し、消去することができると明記されました。相手が不起訴になっても、消去は可能です。さらには押収したものの中に、捜査中の事件とは別の同意のない性的画像や児童ポルノが入っていた場合にも、これらを消去できます。

②知人やパートナーに性的な画像を撮影されてしまった

例えば性的な行為などに同意していても、撮影されることには同意していないのに撮影されてしまった際には、①と同様に「性的姿態等撮影罪」が成立します。あなたが同意困難な状態で、撮影することも犯罪です。「同意困難な状況」とは暴行や脅迫をされる、お酒や薬物を摂取している、睡眠時や意識不明などで、同意を示すことが難しい状況を指します。

「自分が見るためだけに撮影する」「これは性的な行為ではないから大丈夫」などと、あなたを騙した状態での撮影も同様に禁止されます。

撮影に同意していた場合でも、それを無断でばら撒かれたり、ばら撒く目的で他の人に渡されたりした場合には、相手の行為は犯罪です。リベンジポルノ防止法に違反します。

③同意なく撮影された性的な画像を拡散されてしまった

盗撮やあなたの同意を得ていない性的画像であると知りながら、それらを特定の相手や少人数のグループなどに拡散することは、3年以下の懲役または300万円以下の罰金刑に該当します。不特定・多数の人に提供したり、SNSや掲示板などで誰でも見られるように掲載することは、さらに重い5年以下の懲役または500万円以下の罰金が課されます。

画像のやりとりの際に、金銭の支払いがあったかどうかは関係ありません。提供を受けた人が、また別の人に提供するという二次的、三次的な提供の場合でも、それぞれの人が処罰の対象になります。

こうした画像を提供したり、公開したりする目的で保管することも禁止されます。2年以下の懲役または200万円以下の罰金が課されます。

画像が、犯罪によって撮影されたものであると知りながら保有している場合は、犯人ではない人からであってもこれらを没収することもできます。

ただし提供する目的ではない「単純所持」では、撮影された人が18歳未満の児童の場合以外には処罰対象にはなりません。

④盗撮などをライブ配信された/画面収録された

あなたの同意のない盗撮などを、不特定多数に向けて送信・ライブストリーミングすることも禁止です。5年以下の懲役または500万円以下の罰金が課されます。また送信されたものが違法に撮影されたものと知りながら、画面収録機能などを使って記録してもいけません。

①〜④の行為は、加害者の日本人が国内にいない場合でも、国外犯として取り締まることができます。

企業の対応も必須

撮影罪の新設で、これまでは刑法で取り締まれなかった加害行為が犯罪と規定され、処罰につながることが期待できます。

他方で、同意のない性的画像を価値のあるものとして広めるインターネットの利用者と、それを支える仕組みが変わらなければ、根本的な犯罪の抑止にはならないと私は考えます。SNSや動画視聴・投稿サイトなどを運営する企業は、自社の管理下で犯罪行為が起きないように予防・対応措置をとるべきです。

企業のこの問題への取り組みが不十分な中、性的画像に目をつけ、金儲けに利用しているサイトが今も多くあります。拡散した画像を削除する法的義務もありません

デジタル性暴力の被害に遭った方へ

最寄りの警察署への相談のほか、利用できる支援団体や相談窓口を紹介します。

性犯罪・性暴力被害者のためのワンストップ支援センター:性犯罪・性暴力に関する相談窓口です。産婦人科医療やカウンセリング、法律相談などの専門機関とも連携しています。

NPO法人ぱっぷす:リベンジポルノ・性的な盗撮・グラビアやヌード撮影によるデジタル性暴力、アダルトビデオ業界や性産業にかかわって困っている方の相談窓口です。

よりそいホットライン:電話、チャット、SNSなどで性的被害について専門相談員に相談ができます。

インターネット・ホットラインセンター:児童ポルノなどを見つけた場合に通報することができます。通報をもとに、センターが警察に情報提供したり、サイト管理者等に送信防止措置を依頼します。

2022年11月から連載を始めた、シリーズ「誰が私を拡散したのか」では本人が撮影や公開に同意していない性的な画像が、GoogleやAppleのストアで提供されていた人気のアプリやSNSで、大量に取引されている実態を報じています。これまで撮影罪に該当するような行為が、まかり通ってきました。

ここではシリーズの中で報じてきた、加害行為の実態についてお伝えします。

性的な写真や動画の投稿が止まないのは、投稿者に金が入るためです。

私が取材している、写真や動画の共有アプリ「動画シェア」や「アルバムコレクション」では、写真や動画をダウンロードする際に有料の鍵を購入する必要があります。その鍵の購入代金の一部が、投稿者に支払われるのです。売り上げはポイントで支給され、貯まったポイントはAmazonギフトカードなどに交換できます。他の投稿者の写真や動画をダウンロードするための鍵とも交換可能で、再投稿のための新たな写真や動画を仕入れるために使われていました。

投稿者は自身の「商品」をダウンロードしてもらうために、必死に宣伝をします。その舞台となっていたのがTwitterでした。

アプリを利用した性的画像売買の構図。赤矢印は写真と動画の流れを示す

「今夜『風呂盗』更新したら、また買ってくれる方いますか」と宣伝

Twitter上で「動画シェア」、「アルバムコレクション」をキーワードに検索すると、自身の行為を堂々と喧伝するツイートが出てきます。フォルダの中身を示すため、被害者の顔写真や動画のさわりなどを添付しているものも多くあります。

私は被害者の画像の宣伝・販売を行うアカウントの発信内容やプロフィールの記録を残し、アカウント名とフォロワー数の一覧を記事として公開しました。その数は見つけられただけでも、300超にのぼりました。

ツイートにはこんな宣伝文句が並びます。

「お気に入りをupします!ネタ提供ができるように頑張ります!」
「カギ使う価値ありの超美人さん いいね、リツイートお願いします」

フォルダの内容を「オススメ度」、「レア度」で評価し、星のマークの数でランク付けしている投稿もありました。

被害者の素性がわかるフォルダは人気が出ます。モザイクのない映像や、本名、SNSのアカウント名が含まれているケースです。ある投稿者はこうしたフォルダを渡す場合の、追加料金までとっていました。

「モザナシ、アカウント付き欲しい方 Paypay1000円or アマギフ1500円〜」

私に被害を相談してくれたAさんも、SNSのアカウント名と一緒に画像を拡散されました。その結果、SNSには「画像を見て連絡した」「いい体してるね」などの嫌がらせのダイレクトメッセージが何十件も届き、今も被害が続いています。

より悪質な投稿者もいます。その人物は自ら風呂場やトイレを盗撮し、それらをアプリに投稿しているようです。

「今夜風呂盗更新したら、また買ってくれる方いますか?リピーター募集中です」

これは同意のない撮影と、その拡散・保管行為が撮影罪に該当する犯罪です。

潜入取材アカウントに届いた大量の盗撮カタログ

昨年11月、熱心に宣伝を行う別の投稿者からは、私の潜入取材用のTwitterアカウントにダイレクトメッセージが届きました。他の投稿者と同様に、アルバムコレクションなどのキーワードを入れて宣伝ツイートをしていた人物です。私がフォローをすると、すぐにDMが届きます。

「逆さ撮り販売中なのでよろしくお願い致します」

逆さ撮りとは何なのでしょうか。相手は「カタログ」と称して、たくさんの動画が保存されていることがわかる、スマホの画面を送ってきました。

相手のスマホ画面に一覧で表示されていたのは、どれも女性のスカートの中を下から撮影した盗撮動画でした。被害者のほとんどは、制服姿の学生のように見えます。マスクはしているが、顔が写ったものもありました。

動画は204本あり、1本あたり10秒〜30秒程度。大量の性的動画を所持していることを伝えるため、この宣伝カタログを送っているといいます。潜入取材をしている私にも、「全てオリジナルです」とアピールしてきました。

動画の価格は204本で6000円。その後「今ですと格安です」と、3000円まで値下げすると売り込んできました。

その数日後、投稿者のアカウントが消えていました。Twitterは、ユーザーからの通報を受けた場合などに、規約に違反する一部のアカウントを利用停止(凍結)にしています。

ところが、すぐに別のアカウントから連絡が来ました。

「さっきまでお話させて頂いたものです。アカウント凍結を喰らいましたので、もし良ければこちらのアカウントをフォローして頂いて、DMくれますと助かります」

加害者はアカウントを作り替えて犯罪を続けますが、これも今回の撮影罪で摘発される可能性が非常に高い事例です。

年間2万件の削除要請

事業者にとっても自社の運営サイトなどが犯罪に利用されないよう、対処が必要でしょう。現状では対処どころか、サイトやアプリの仕組みによっては、違法画像の売買による利益を受け取っている場合もあります。事業者が被害者の被害の拡散と加害者の金儲けに利用されていても、被害者にとっての「救済措置」もありません。

被害者にとって重要なのは、自身の画像を削除し、拡散を防ぐことです。

しかし現行の「プロバイダ責任制限法」では、被害者が削除を要請しても、事業者にはこれを削除する義務まではありません。撮影罪の新設で、犯人の所持する画像の応酬や消去が規定されたのも、この点がこれまで不十分だったためです。

被害者支援を行うNPOぱっぷすの調査では、削除を要請したもののうち3割が消されていないといいます。

総務省でインターネット上の有害・違法情報などに対応する消費者行政第二課の担当者も、「法的な根拠がない」と言葉を濁す。

「そういったサイトなどについて、強い懸念が広く社会的に存在することについては我々も承知しています」

「ただ、行政指導などをする法的根拠はありませんし、個々のサイトやコンテンツに総務省が深く介入するというのは、表現の自由という観点からも難しいというのが現実的にはあります」

削除要請を3年続けても

シリーズ1回目の記事で被害状況を綴ったBさんとその親族たちは、新たな投稿がないか確認し、見つけたら削除を依頼する生活が3年以上続いています。

Bさんの写真や動画は初めにTwitterで拡散され、次第に動画シェアやアルバムコレクションでも見つかるようになりました。Bさんも当初は、誰にも相談せずに画像を探し、削除を依頼していました。ところが、追い詰められた末に自殺を図ってしまいます。幸い命は助かりましたが、画像の流出を告げる消印のない手紙が自宅に届いたり、帰り道に何者かにあとをつけられたりと、被害は実生活にも及ぶものでした。

Bさんから相談を受けた親族などは、複数人で手分けしてBさんの画像が投稿されていないか確認し続けています。監視は様々なサイトやSNSに及び、今も毎日続きます。

被害は終わっていません。本シリーズでは引き続きこの問題を報じます。

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