誰が私を拡散したのか

ハワイ→シンガポール→ロンドン→渋谷(16)

2023年10月05日20時29分 辻麻梨子、渡辺周

(イラスト:qnel)

児童ポルノや違法な性的画像が取引されていた「アルバムコレクション」の運営者は誰なのか。

私はホワイトハッカーと調査を続け、ある会社と人物に行き着いた。

社名は「MAX PAYMENT GATEWAY SERVICES」。運営責任者は「KEISUKE NITTA」である。

MAX社とNITTAは、アルバムコレクションと同じ仕組みのアプリを、他にも制作していた。「写真カプセル」と「動画コンテナ」だ。どちらのアプリも、子どもの性的虐待映像などが取引される温床となっていた。

看板を替えて、同内容のアプリを何度も作り直すのはなぜか。

同じ名前のアプリで違法画像の取引が長期間続くと、警察に目をつけられやすくなるためだろう。

NITTAとは、どのような人物なのだろうか。

前回までの記事で明らかになったアプリ同士のつながり

「KEISUKE NITTA」の漢字表記は?

「MAX PAYMENT GATEWAY SERVICES」と「KEISUKE NITTA」をインターネットで検索すると、あるウェブサイトがヒットした。英国政府が運営する企業データベースだ。

サイトを開くと、「MAX PAYMENT GATEWAY SERVICES UK LIMITED」という会社が登録されていた。オフィスはロンドンだ。2013年6月に設立されたが、2年後の2015年9月に解散した。

社長の欄には、「KEISUKE NITTA」。シンガポールに本拠を置くMAX社と、責任者を兼任しているのだろうか。

英国のMAX社に関する情報をさらに精査すると、NITTAの連絡先として、今度は日本の住所が記載されていた。

東京の渋谷駅から徒歩3分。地上11階、地下3階建ての大きなオフィスビルの1フロアだった。

このオフィスビルの当該フロアに入居していたのは、何という会社なのか。

住所を検索すると、「株式会社インフォトップ」という会社の2014年の求人情報に記載された本社住所と一致した。

当時の社長が「新田啓介」だった。

情報商材で「業界ナンバーワン」

インフォトップは、主にアフィリエイトに関連したサービスを提供している。

アフィリエイトとは、インターネット上の「成功報酬型広告」のことだ。広告料を稼ぎたい人が、自身のウェブサイトやブログ、SNSに企業の広告URLを掲載。読者・視聴者がそのURLをクリックした場合や、URLを経由しサービスや商品が売れた場合に、収入が得られる仕組みだ。

インフォトップの役割は、商品を売りたい販売者と購入者、アフィリエイターと呼ばれる掲載者をつないだり、決済を代行したりすることだ。2015年に社名を「ファーストペンギン」と変えているが、アフィリエイトのプラットフォーム名は、現在もインフォトップを使用している。

ファーストペンギンのサイトを見てみると、扱うのはノウハウを売る「情報商材」がメインのようだ。例えば以下のような商品が売られている。

女性を惹きつける肉体改造術 1万5000円

FXで月50万円以上を稼ぐ具体的な方法 3万2780円

潜在意識を書き換え、天才脳を覚醒する! 7万4000円

ファーストペンギンはサイトで、「情報商材を専門に扱うサイトとしては、業界ナンバーワンのポジションにあります」とアピールしている。

同社が公表している資料によると、2018年時点で、アフィリエイトサービスの累計会員数は300万人超。累計取扱高も150億円を突破している。

高級住宅街のマンションへ

アフィリエイトビジネスの新興企業を率いた新田啓介が、アルバムコレクションの運営責任者だったのだ。

新田は、アルバムコレクションや過去の類似アプリ内での取引により、今も多くの子どもや女性たちが苦しんでいることをどう考えているのか。

東京都内に、新田が所有するマンションの一室があることを私は掴んだ。Tansa編集長の渡辺周と共に、直接訪ねることにした。

ターミナル駅から徒歩10分ほどの場所に、そのマンションはあった。都会の中心だが大通りからは1本奥に入った位置だ。周辺は小さな集合住宅や一軒家が立ち並ぶ、高級住宅街。マンションは新しく建てられたものではないが、タイル張りのおしゃれな造りだった。

部屋のポストに名前は書いていなかった。近隣で話を聞くと、今は本人が住んでおらず、別の人物が住んでいるという。

ここまで来るのに、私は新田が残した世界中の痕跡を、ホワイトハッカーと共に辿ってきた。

最初は、アルバムコレクションのウェブサイトに載っていた「Eclipse Incorporated」という会社を調べた。ハワイに登記された会社で、ペーパーカンパニーだった。

次にアルバムコレクションと、仕組みも内容も同じアプリ「写真カプセル」と「動画コンテナ」を発見。両アプリの運営者である「MAX PAYMENT GATEWAY SERVICES」とNITTAが、アルバムコレクションの運営者の正体であることに行き着いた。MAX社はシンガポールにあった。

さらに、NITTAが運営責任者のMAX社は英国・ロンドンにもあることが判明した。英国政府に登録されたNITTAの連絡先住所が東京・渋谷であったことから、「KEISUKE NITTA」とは、日本でアフィリエイトビジネスを行う会社「インフォトップ」(現・ファーストペンギン)の元社長、新田啓介であることがわかった。

私はアルバムコレクションについての全容を解明するため、実態を追ってきた。ハワイ→シンガポール→ロンドン→渋谷→都内の新田のマンションと行き着いたが、新田はいなかった。だが、ここで諦めるわけにはいかない。

事態を動かす突破口があった。新田と非常に関係が近く、アプリ運営の鍵を握るもう1人の人物がいたのだ。

取材で判明したアルバムコレクションの運営の構図

=つづく

(敬称略)

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