誰が私を拡散したのか

背後にいたビジネスの「カリスマ」(17)

2023年10月12日20時41分 辻麻梨子、渡辺周

(イラスト:qnel)

児童ポルノや違法な性的画像が今も売買されているアプリ、「アルバムコレクション」。これまで私はホワイトハッカーと協力し、調査を進めてきた。

アルバムコレクションの運営責任者として浮かび上がった人物・新田啓介は、アフィリエイトサービスを運営する日本企業「インフォトップ」(現ファーストペンギン)の元社長だった。私は編集長の渡辺周と、新田の保有する東京都内のマンションに足を運んだが、新田はいなかった。

しかしここで終わりではない。事態を動かす突破口があった。新田と非常に関係が近く、アプリ運営の鍵を握るもう1人の人物がいた。

新田は本当にMAX社のトップ?

アルバムコレクションの表向きの運営会社は、ハワイに拠点を置くEclipse Incorporatedだった。だがこれが実態のないペーパーカンパニーとわかる

次にたどり着いたのが、シンガポールの「MAX PAYMENT GATEWAY SERVICES」(以下MAX社)。「写真カプセル」と「動画コンテナ」というアプリを運営していた会社である。

両アプリは、アルバムコレクションと仕組みから宣伝文句まで同じだった。つまりMAX社が、写真カプセルと動画コンテナの後継アプリとして、アルバムコレクションを運営しているのだ。過去の2つのアプリも、児童ポルノや違法な性的画像を取引していた。MAX社は警察の摘発を逃れるため、看板を替えて内容が同じアプリを次々と作ったと考えられる。

MAX社の代表者は、動画コンテナの過去のサイトに「KEISUKE NITTA」と記されていた。この人物が誰なのか。

英国にもMAX社の関連会社と思われる「MAX PAYMENT GATEWAY SERVICES UK LIMITED」を発見したことを端緒に、私はKEISUKE NITTAが「新田啓介」であることを突き止めた。日本企業「インフォトップ」(現ファーストペンギン)の元社長だった。新田が所有する東京都内のマンションを訪れたが、住んではいなかった。

しかし、私はある疑問を持った。

それは、代表者として「KEISUKE NITTA」の名前を見つけた動画コンテナのサイトで、過去に新田の肩書きが「代表者」「運営責任者」などと書き換えられたり、別の外国人の名前が使用されたりしていることだ。

新田は本当に、MAX社のトップなのだろうか。

シンガポール政府の「BizFile」

私はMAX社がシンガポールに登記されている点に着目し、同社の「BizFile」を入手することにした。BizFileはシンガポール政府が発行・管理する企業情報で、日本の登記簿謄本に該当するものだ。動画コンテナの過去のサイトに比べて、情報が正確なはずだ。

BizFileによると、 MAX社の設立は2012年12月21日。主な事業は、マーケティングと広告業、コンサルティングと記載されていた。

重要なことは、新田ではなく別人の名前が社長として記されていたことだ。

「TAKAHAMA KENICHI」

ピンとくるものがあった。新田も社長を務めたインフォトップの、創業者「高浜憲一」である。

「ギャング理論」のカリスマ経営者

前回の記事で書いた通り、インフォトップは成功報酬型の広告であるアフィリエイトを軸としたビジネスを展開している。会社のホームページによれば、2018年の時点でアフィリエイトサービスの累計会員数は300万人超。累計取扱高も150億円を超えている。

高浜憲一はそんなインフォトップを一代で築いた、叩き上げのビジネスパーソンだった。

2014年に高浜が共著者として出版した書籍、『ゴールを手にした5人の儲かるネタの見つけ方 ザ・スタート』(フォレスト出版)がある。この本は、10年足らずでビジネスを億単位に成長させた凄腕経営者から、ビジネスのアイデアを生み出す方法を学ぶといった内容だ。

本人のプロフィールには、その「カリスマ性」を謳う言葉が並ぶ。以下に引用する。

高浜憲一

株式会社インフォトップ前代表取締役。インフォトップを菅野一勢とともに企業、立ち上げから数カ月でライバルASPを抜き去り、業界トップの企業へと成長させた凄腕ファウンダーにして、関連企業数十社を率いたインフォトップグループ総帥。

 

現在はインフォトップグループの経営を現経営陣に任せ、また他の関連企業も早くから経営を後進に委ね、自らはセミリタイアしてシンガポールへと移住。冷静な分析力と大胆な決断力を併せ持った高浜の経営手腕は経済界より高い評価を得ており、経営の現場から退いた今でも数多いファンを持つ。とくに、その徹底したリスクマネジメント概念から生まれた独自の経営理論は、一部では「ギャング理論」と呼ばれ、現役経営者の間で数多くの高浜信奉者を生んでいる。

ラーメン1杯からも学ぶ

書籍には、高浜の経歴や考え方がわかる記述があった。

高浜が初めて起業したのは23歳の時。当時は就職氷河期だったこともあり、学生の起業がブームになっていた。高浜も大学卒業後に資金を貯め、先輩の経営する日焼けサロンに出資をすることでビジネスをスタートした。その後はレンタルビデオ店や漫画喫茶など、店舗の経営をしてきた。

インフォトップを設立したのは2006年。2010年にはアフィリエイト関連サービスの会員が100万人に達しており、会社を急速に成長させたことがわかる。

「タダでできるネタ探しの習慣」と題した章には、高浜のビジネスへの執着がうかがえる記述があった。

「ラーメン屋さんで700円使ったら、使っただけ学ばなきゃいけないですよね。店を隅々まで見て、シミュレーションしなくちゃいけない。ただ、ラーメンを食べて、『あー、うまかった。腹いっぱいだ』とかいう話だったら、それはなんの価値も生まない。要は投資にならないわけですね。」

共著の書籍には、起業に至る経緯が書かれていた

アルバムコレクション窓口からの回答

高浜がビジネスのノウハウを説くのは勝手だ。しかし、児童の性的虐待映像や違法な性的画像をビジネスの道具とするアルバムコレクションは、即刻アプリを取り下げなければならない。

私はアルバムコレクションの問い合わせ窓口に対し、事実関係を確認する質問状を送付した。被害が多発する状況で、運営を継続するかどうかも尋ねた。

宛名は高浜憲一、新田啓介の両名にした。

2人の関係が近いことは確かだ。2011年ごろに、共にインフォトップの役員として名を連ねていた。高浜のSNSには、プロフィールの画像に集合写真が設定されている。中央に写るのが高浜。2列に並んだ人たちの端で笑顔を見せているのが、新田だ。

ただ、高浜の方が常に新田に先行している。インフォトップを創業したのは高浜だ。新田は高浜の退任後に社長となった。BizFileによると、MAX社を2012年に設立したのも高浜である。

そのため、質問状の宛名は高浜を先にした。

アルバムコレクションからは、次のような回答があった。私がこれまでシリーズで報じてきた事実関係は否定しなかった。だが、アルバムコレクションを取り下げる気はなさそうだ。

アルバムコレクションでは違法なコンテンツの送受信に関して一切認めておりません。

サービスの運営に関しては特定商取引に記載の通りです。

通報を受けたコンテンツに関しては24時間以内に必ず削除を行っております

また、違法なコンテンツを送受信したユーザーについては利用規約に記載のとおり情報を当局に開示しております

アルバムコレクションでは利用者への注意喚起と違法なコンテンツの送受信禁止をサービス内でお知らせし、パトロールも強化いたします

AlbumCollectionサポート

高浜個人に宛てた質問状には、返事がなかった。

シンガポールに移住

私は、高浜が日本で拠点にしている東京都内の住所を渡辺編集長と訪ねた。だが新田同様、やはり本人はいなかった。

新田も海外に移住していた。新田はインフォトップの社長を辞任後の2014年に、シンガポールへ。翌年にはさらにマレーシアに移っている。2020年に海外在住の日本人向けイベントで、講演したという情報が見つかった。現地では飲食店経営などをしていたようだが、クアラルンプールに開業した居酒屋は2022年に閉店していた。

高浜と新田が日本にいないのであれば、私も彼らを追うしかないだろう。今も多くの子どもや女性がアルバムコレクションの被害に遭っている。

=つづく

敬称略

シリーズ「誰が私を拡散したのか」の取材費をサポートいただけませんか。巨大プラットフォームも加担して違法な性的写真や児童の性的虐待の動画が売買・拡散され、多くの被害者を生み出しています。私たちは1年以上に渡り、事態を変えるための取材を続けています。サポートはこちらからお願いします。

誰が私を拡散したのか一覧へ