記録のない国

「国はノックアウト寸前」Tansaが新証拠を入手【いちからわかる国葬文書隠蔽裁判】

2025年12月25日 21時27分  辻麻梨子、渡辺周

FacebookTwitterEmailHatenaLineBluesky

Tansaが国を提訴した「国葬文書隠蔽裁判」。第1回の口頭弁論から1年が経ちました。

この裁判で私たちが証明しようとしているのは、国が「ない」と主張している公文書が「本当はある」ということです。

しかし、5回の口頭弁論を経て国は追い込まれています。原告弁護団長で、報道の自由に関する裁判で実績がある喜田村洋一弁護士は、「ノックアウト寸前」と表現します。

Tansaが取材で掴んで提出した証拠と、東京地裁の篠田賢治裁判長が自ら国に切り込む訴訟指揮、そして自由人権協会に所属する5人の弁護士による緻密な作戦。これらが相乗効果を生んでいます。

口頭弁論は大法廷で開かれ、毎回埋まります。「#ないわけないだろ国葬文書」と題して集めているオンライン署名は、4万1000筆を超えました。

何でも閣議決定で決め、情報を隠蔽する政治が横行しています。今回の裁判は、民主主義のインフラを守る闘いです。これからも多くの市民に賛同していただくため、「そもそも国葬文書隠蔽裁判って何?」というところから、この1年間の成果をご報告します。

12月23日に開かれた第5回口頭弁論。終了後の報告会は満席になった=ウィリアムズ・ジャブリール撮影

1枚の「応接録」から始まった

2022年7月8日、安倍晋三元首相が選挙演説中に殺害されました。

約2週間後の7月22日、重要な決定がなされました。当時の岸田文雄内閣が、安倍元首相の国葬を実施することを閣議決定したのです。

私たちは、この決定プロセスに疑問を抱きました。

安倍元首相の国葬実施については、日本中で賛否が分かれていました。法の下の平等や、思想および良心の自由を保障する憲法に反するとの指摘もありました。国葬について定めた法律もありません。

本来であれば、国民の代表として選ばれた国会議員たちによる国会での審議が必要でした。ところが岸田首相は国会を通さず、閣議決定をもって結論づけました。

国会を通さない代わりに岸田首相が判断の拠り所としたのが、「法の番人」と呼ばれる内閣法制局のお墨付きです。

7月14日の記者会見や国会答弁で、次のように発言しています。

「内閣法制局ともしっかり調整をした上で判断しているところです。こうした形で、閣議決定を根拠として国葬儀を行うことができると政府としては判断をしております」

内閣法制局と官邸側とはどのような協議をしたのか。Tansaは内閣法制局に対し、協議内容を記録した文書を全て開示するよう求めました。情報公開法に基づいた請求です。

内閣法制局が開示したのは、たった1枚の「応接録」でした。

官邸側から内閣官房と内閣府の担当者が、内閣法制局に来訪。7月12日から14日にかけての3日間、協議したことが記されていました。内閣官房と内閣府の担当者名は、匿名でした。

協議内容については、「国葬を閣議決定で行うことについて内閣官房・内閣府から相談があったが『意見なし』と答えた」旨の一文しか、記されていませんでした。

Tansaが請求したのは、協議内容を記録した全ての文書です。3日間の協議の記録が1行で済むわけがないし、「法の番人」である内閣法制局が、何の意見もしなかったわけがありません。

内閣法制局が、情報公開法に違反し、文書を隠蔽したのは明らかでした。

官邸「文書は捨てた」

内閣法制局の文書の隠蔽を受け、Tansaが次にとった作戦は、内閣官房と内閣府をターゲットにすることでした。内閣法制局の応接録にあるように、官邸側からは内閣官房と内閣府の担当者が協議に出席しています。当然、記録をとっています。岸田首相に報告しなければならないので、かなり詳細に記録しているはずです。

ところが、開示されたのはたった4枚の文書でした。

「国の儀式として行う総理大臣経験者の国葬儀を閣議決定で行うことについて」

この文書は内閣官房と内閣府の連名で、日付は7月14日付。つまり、7月12日から3日間、内閣法制局と協議をして決まった方針を示した文書です。議論のプロセスを記録したのではなく、結論だけを書いています。

首相経験者ら要人の葬儀の取り扱い例を戦前から紹介することや、法律の参照条文に多くを費やしています。なぜ安倍元首相の国葬を閣議決定で行っていいのか、という肝心な内容は薄い文書でした。

私たちは改めて、7月12日〜14日にかけて内閣法制局とやりとりした内容がわかる文書を、内閣官房と内閣府に請求しました。

その結果は、「文書不存在」。理由はこうでした。

内閣官房「作成又は取得しておらず、若しくは廃棄しており、保有していないため」

 

内閣府「作成、取得しておらず、保有していない」

つまり、内閣官房は「文書を作っていないか捨てた」、内閣府は「文書を作っていない」ということです。その理由は「政策の意思決定に影響を与えるようなものではない、軽微なものだから」。

しかし岸田首相は、内閣法制局との協議を根拠にして、「閣議決定で国葬を実施してもいい」と協議が終わった7月14日に記者会見で述べています。その後の国会でも答弁しています。「政策の意思決定に影響を与えない」から文書は存在しないというのは、「岸田首相は嘘をついている」と言っているのと同じことです。

2023年1月、私たちはこの結果を覆すべく、審査請求をかけました。「文書不存在決定」が正しかったかどうかを、弁護士や元検事、研究者たちからなる情報公開・個人情報保護審査会に審議させる制度です。

しかし審査会は「妥当である」と判断し、結果を変えませんでした。

2024年9月30日、Tansaは文書の開示を求めて国を提訴しました。これが「国葬文書隠蔽裁判」の始まりです。

なぜ提訴したのか。Tansaの思いについては、編集長の渡辺周が2024年12月の第1回口頭弁論で意見陳述しています。全文をご覧になれますので、以下をご参照ください。
https://tansajp.org/investigativejournal/11343/

第2回口頭弁論:存在するはずの7種の文書を要求

Tansaは裁判の原告ですが、取材者でもあります。取材して得た事実を、裁判でどんどんぶつけていくことにしました。

内閣法制局と重要事項を協議する場合、実際はどのような文書が発生するのか。私たちは、官僚として文書の記録や情報公開に携わった経験者たちを取材しました。

その結果、あるはずの7種類の文書を特定。2025年3月の第2回口頭弁論で、これらを明らかにするよう国側に求めました。

①内閣法制局に提出した内閣官房ないし内閣府のポジションペーパー(立場上の見解)

 

②内閣法制局からの質問や意見、内閣法制局が結論を出す時期の見通し等を記載した内閣官房ないし内閣府内で報告した文書またはメール

 

③内閣法制局から出された質問や課題に答えるために作成又は取得し、内閣法制局に交付ないし提示した文書またはメール

 

④上記③のような文書の準備のために内閣官房及び内閣府の内部、内閣官房と内閣府との間でやりとりしたメール

 

⑤内閣府間でやりとりしたメール

 

⑥内閣総理大臣秘書官(その他内閣総理大臣に取り次ぐ者)に内閣法制局が打ち合わせの状況や内容について報告した文書ないしメール

 

⑦内閣総理大臣秘書官(その他内閣総理大臣に取り次ぐ者)から受領した文書ないしメール

Tansaにとって追い風となったのは、篠田賢治裁判長です。第2回の口頭弁論で、Tansaの要求に呼応するように、被告の国に求めました。

「従前は省庁側が内閣法制局に説明したら、法制局の参事官から質問がある。省庁の担当者は宿題として持ち帰るから、メモをする」

「イメージがわかないところがある。法制局の参事官や部長、長官の反応を気にすることもあると思うので、そこを踏まえた釈明をしてほしい」

第3回口頭弁論:国の説明を一蹴「5W1Hを意識して」

2025年6月の第3回口頭弁論からは、東京地裁のもっとも大きな法廷で行われることになりました。それまでに、傍聴を希望していたのに満席で入ることのできなかった人が多くいたためです。約100席の大法廷も、ほとんどが埋まりました。

前回の口頭弁論で、篠田裁判長は国に宿題を出していました。

内閣法制局に相談をして、質問を持ち帰ったり、上司に報告をしたりする際に、メモを取らない場面が想像できない。その点を明らかにしてほしいという内容です。

国を被告とする裁判で、裁判長自ら切り込んでいくというのは、なかなかありません。果たして国はピリッとするのか。国の回答は要注目です。

ところが、国の回答は落第点そのものでした。

①7月12日、内閣官房と内閣府の担当者が内閣法制局を訪問。案段階文書を示して内容を説明したところ、内閣法制局からはその場で具体的な指摘はなかった。

 

②7月12日から14日までの間に、内閣法制局から電話連絡があった。案段階文書の修正に関する連絡で、内閣官房と内閣府の見解の変更に至るような修正ではなかった。

 

③内閣法制局からの電話連絡を踏まえ、案段階文書を修正。内閣法制局にメールした。

 

④7月14日に内閣法制局から電話があり、修正済みの案段階文書について「意見がない」という旨の回答があった。

 

⑤内閣法制局からの回答を受けて、文書を確定。案段階文書は遅滞なく破棄した。内閣法制局へのメールも遅滞なく削除した。

文中に出てくる「案段階文書」とは、内閣法制局と協議する際、内閣官房・内閣府が持ち込んだ国葬実施に関する文書のことです。この案段階文書が3日間の協議の末、7月14日に「国の儀式として行う総理大臣経験者の国葬儀を閣議決定で行うことについて」というタイトルの4枚文書(前出)として確定。岸田首相が国葬の実施を表明するという流れです。

この回答に、篠田裁判長のギアが上がります。国に詳しい説明を求めました。

・聞き取りをした担当者と、協議に出席した担当者の所属と名前は何か
・法制局の相手方は誰か
・「内閣官房及び内閣府の見解の変更に至らない修正」とは何か

その上で、回答をそらし続ける国に「苦言」を呈しました。

「閣議決定を根拠として国葬儀を行う、という本質的な部分について法制局の参事官がまったくコメントをしないということがあるのか」

「私の数少ない経験の中では、内閣法制局の了解を得るというのは結構大変なことかなと。とても『てにをは』レベルの修正で済むような感じではない気もする」

「5W1Hを意識して書いていただくように」

第4回口頭弁論:協議に参加した4人が判明

第3回の口頭弁論で、篠田裁判長は内閣法制局との協議に出席した担当者の名前と所属を明らかにするよう求めました。2025年10月の第4回口頭弁論でようやく、国は次の4人の名前を明らかにします。

西澤能之
内閣官房内閣総務官室内閣参事官(当時)、現・総務省行政管理局企画調整課長

 

御厩敷(おんまやしき)寛
内閣官房内閣総務官室企画官(当時)、現・水産庁漁政部漁業保険管理官

 

中嶋護
内閣府大臣官房総務課長(当時)、現・内閣府大臣官房審議官(沖縄政策及び沖縄科学技術大学院大学担当)

 

田原太郎
内閣府大臣官房総務課課長補佐(当時)、現・内閣府大臣官房公文書管理課企画官心得

国は、この4人の報告書を提出しました。内閣法制局との協議記録について、どのように取り扱ったのかという内容です。

4人は報告書で同じ内容の主張をしました。

「協議が終わって3カ月以内に文書もメールも廃棄した」

国はこれまで、内閣法制局との協議についてこう主張しています。

「政策の意思決定に影響を与えるようなものではない、軽微なものだから文書を捨てた。もしくは記録をとっていない」

3カ月以内に4人全員が「文書もメールも廃棄した」というのは、これまでの国の主張に沿うものです。口裏を合わせたとしか思えません。

しかし、内閣法制局との協議を受けて、岸田首相が国葬を実施することを表明しています。この4人はいわば「中間管理職」のレベルであり、岸田首相の表明に至るまで、関係部署の様々な上司への報告があるはずです。

では、4人以外にはどのような人が関わっていたのでしょうか。篠田裁判長は意思決定の責任者の存在について尋ねました。

「検討チームの体制がわかるようなもの。例えば、課の組織図。どういう体制で検討したのかがわかるものを、内閣官房、内閣府、それぞれについてご説明いただきたい」

安倍晋三元首相の国葬を巡る、内閣法制局との協議に参加した官邸側の4人の報告書(写真の一部を加工しています)

第5回口頭弁論①:「4人以外に関与なし」の嘘

12月23日、第5回の口頭弁論が開かれました。ちょうど最初の口頭弁論から1年です。
篠田裁判長に追い込まれつつあるものの、国は相変わらずでした。第4回の口頭弁論で、篠田裁判長から「国葬実施の検討体制と決裁ラインを明らかにするように」と宿題を出されたのに対し、以下のように回答したのです。

「保秘の観点から、4人以外にこの件に関して他に関わった職員は存在しない」

国葬の実施を、中堅官僚だけで決められるわけがありません。明らかな嘘です。

嘘であることは、Tansaの弁護団が暴きました。Tansaが提訴後に情報公開請求で入手した文書を、証拠として提出したのです。

入手した文書は、内閣官房と内閣府の「故安倍晋三の葬儀の執行について」という標題の文書。起案日は2022年7月20日で「標記について、閣議を求めることとしてよろしいか伺います」とあり、7月21日に決裁されています。閣議で国葬実施を決めるまでの決裁者たち、56人の名前がありました。当時の岸田文雄首相や松野博一官房長官ら、官邸幹部の名前がズラリ。国が「この4人だけで検討した」という面々の名前も含まれています。56人の名前は以下からご覧になれますので、ご参照ください。
https://tansajp.org/investigativejournal/12990/

第5回口頭弁論② :暴かれた「第3の文書」

第5回口頭弁論ではもう一つ、国側の重大な嘘が暴かれました。これもTansaが提訴後に情報公開請求で入手した文書を、弁護団が証拠として提出しました。

これまで、国側が開示していた文書は以下の2種類です。これ以外は「捨てたか記録をとっていない」というのが国の主張です。

① 応接録1枚(2022年7月12〜14日、内閣法制局)

 

② 「国の儀式として行う総理大臣経験者の国葬儀を閣議決定で行うことについて」4枚(2022年7月14日付、内閣官房・内閣府)

しかしTansaは「第3の文書」を入手しました。

「安倍元総理大臣の葬儀の形式について」

2022年7月14日付で1枚。内閣官房・内閣府の連名です。本来は①、②の文書と共に開示しなければなりませんが、国は①と②以外は不存在だと嘘をついてきたのです。

なぜ提訴後の情報公開請求に対しては、第3の文書を国が開示したのか。裁判では相変わらず①と②の文書しか存在しないと主張しているのか。真意は不明です。

ただ、①と②を入手した際の請求内容は「3日間の協議内容の記録」、第3の文書を入手した際の請求内容は「3日間の協議について官邸内で報告した際の記録」。表面上は違う文言で請求しているので、開示結果が違ったのかもしれません。

いずれにしても、原告に証拠を提供する行為であり、理解に苦しみます。

まだまだあるぞ、国葬文書

第3の文書「安倍元総理大臣の葬儀の形式について」は、重要なことを示唆しています。それは、これまで明らかになった3種類の文書だけではなく、まだまだ文書が存在するはずだということです。

そのように類推できる根拠は、「安倍元総理大臣の葬儀の形式について」の中身にあります。過去の首相経験者の葬儀の事例とともに、内閣法制局の了解事項が3点記されています。

① 国の儀式を内閣が行うことについては、行政権の作用に含まれること

 

② 現行の内閣府設置法においては、「国の儀式に関する事務に関すること」が明記されており、国葬儀を含む「国の儀式」の執行は、行政権に属することが法律上明確になっていること

 

③ 国葬令のような国民一般に喪に服することを強制するような取り扱いをしない場合には、法的根拠を与えるための立法行為は必要ないこと

重要なのは③です。この了解事項は、同じ7月14日に内閣官房と内閣府が出した4枚文書「国の儀式として行う総理大臣経験者の国葬儀を閣議決定で行うことについて」にはありません。

① から③は全て、7月12日から14日にかけての内閣法制局と内閣官房・内閣府の協議を受けて確認された了解事項です。なぜ③が、4枚文書には入っていないのでしょうか。考えられるのは、次のことです。

実際は内閣法制局との協議に関する詳細な記録がある。そこには「喪に服することを強制しなければ立法行為は必要ない」ことについて検討した内容も記されている。だが、「国の儀式として行う総理大臣経験者の国葬儀を閣議決定で行うことについて」と「安倍元総理大臣の葬儀の形式について」を作成する際、前者の文書に盛り込むことを失念したか、別の理由であえて盛り込まなかった。

Tansaの目的は「公共財産」である公文書を、市民の手に取り戻すことです。国葬文書を全て国に開示させるべく闘います。

2026年には、協議に参加した官僚たちの証人尋問が実施される見通しです。

FacebookTwitterEmailHatenaLineBluesky
記録のない国一覧へ