保身の代償 ~長崎高2いじめ自死と大人たち~【学校編】

いじめ自死を「おもしろ半分に扱ってはいけないと思った」 遺族に返した、海星学園・武川教頭の的外れな言葉(8)

2026年01月15日 15時45分  中川七海

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(左から)福浦大助さん、福浦さおりさん=長崎市で2023年4月20日、中川七海撮影

息子の自死から25日後、ようやく遺族の前に、海星学園のトップである理事長が姿を見せた。

この学校で起きたいじめを苦に、息子の勇斗(はやと)は自ら命を絶った。ところが、謝罪の言葉は一切無い。

代わりに出てきた言葉は、的外れな提案だった。

「学校として、できる限りご希望に沿った形で、追悼の儀式を設けたいと思います。この学校はカトリックの学校ですので、キリスト教的雰囲気の中で追悼をして差し上げたい」

理事長・坪光正躬(つぼこう・まさちか)は、ソファに深く腰掛けたままそう述べた。

遺族不在の保護者説明会で

2017年5月7日の午後1時ごろ、勇斗の父・大助の携帯電話が鳴った。教頭の武川眞一郎からだった。

この日の夕方6時に開催される、勇斗の自死についての保護者説明会についてだった。

対象者はやはり、中学からの内部進学生の親に限るという。全校生徒約1500人に対し、わずか40人ほどだ。

遺族は、全校生徒とその保護者に勇斗のいじめ自死を公表してほしいと、学校に対して再三伝えてきた。遺書やノートなどの手記のコピーも提供していた。いじめで苦しんだ勇斗の思いを、全て読み上げてもらうためだ。

だが遺族は説明会に参加できない。前日に、妻のさおりと共に学校を訪れた際、武川に「普通は、遺族は参加しない」と言われていた。さおりは「でも、事実だけは伝えてほしい。ノートや遺書の一部分だけを伝えられると、それが真実になってしまう」と念押しした。

大助は、事実がきちんと伝わるよう願いながら電話を切った。

この日の夜、再び武川から電話があった。説明会を終えたという報告だった。

参加者は40人ほどで、遺族が望んだ全校生徒の保護者とは程遠い。

それでも、「遺書や手記を全て読み上げました」という武川の報告に、大助は少しほっとした。

ところが、事実は違った。

大助が武川との電話を終えた後、さおりは説明会に参加した友人から電話を受けた。勇斗の同級生の保護者だ。

友人がお悔やみを述べた後、いくらか言葉を交わした。しかし、なぜか会話が噛み合わない。

友人は、遺書やノートなどの手記に綴られていた内容を、把握していないのだ。さおりが説明会の内容を尋ねると、遺書や手記の一部しか読まれていないことが判明した。

さらに、「遺族の意向で、亡くなったことは今日まで公表せずにいた」という説明もなされたという。

これは事実と異なる。勇斗の死後、勇斗と友人の最後のお別れの場だからと、遺族は生徒たちを葬儀に呼ぼうとした。それを止めたのは、海星学園側だ。葬儀場にやってきた中学教頭の川島一麿は、「生徒を呼ぶのはやめましょう。生徒を呼ぶと、やはりマスコミに情報が漏れるので」と遺族を制した。

武川教頭からのプレッシャー

保護者説明会から2日後の5月9日には、中学からの内部進学生約40人のみを対象にした説明会が開かれた。勇斗へのいじめはクラスを横断して行われていたし、時期も中学から高校にまたがっている。遺族は全校生徒に対して説明会を実施するよう学校に求めていたが、叶わなかった。

遺書や手記は全て読まれておらず、それどころか、いじめの事実すら伝えられていなかった。これについても、勇斗の同級生の保護者から聞いた。

落胆する遺族に、海星学園は追い打ちをかける行動をとる。5月9日の説明会以降、大助の携帯に、武川から連日電話がくるようになった。

そこで告げられるのは、学校を休んだ生徒、保健室に通った生徒、カウンセリングを受けた生徒の人数だった。勇斗の自死を知った生徒がショックを受け、通常の学校生活を送れておらず、学校側も対応に追われているという。

それについては遺族も予想していたし、心苦しく思っている。だが、学内でのいじめが原因で自死した事実を公表しないわけにはいかない。

生徒たちが苦しんでいるのは勇斗や遺族のせいだと言わんばかりの連日の報告に、大助もさおりも疲れ果てていった。

さおりは食事が喉を通らず体重が落ち、睡眠薬を飲まなければ眠れないようになっていた。

ソファに腰掛けたままの坪光理事長

海星学園・理事長の坪光正躬氏=海星学園『創立125周年記念誌』より

5月15日、大助とさおりは、再び海星学園を訪れた。内部進学生とその保護者対象の説明会が行われたものの、武川から遺族への報告内容と実態は異なっていた。他の生徒や保護者向けの説明会も、未だに実施されていない。

遺族には、もう一点気掛かりがあった。勇斗の自死から1カ月が経とうとしているが、校長も理事長も遺族の前に姿を見せていないのだ。

一方で、校長の清水政幸は、勇斗の自死から8日後の4月28日の体育祭には参加。5月7日の説明会では、「子どもの心の変化に気づけず申し訳ありませんでした」と保護者の前で謝罪していた。

なぜ、遺族に謝罪がないのか。どうして、遺族に一度も会わずに説明会に立つことができるのか。大助は武川に連絡し、その点についても抗議した。学校側の対応について話し合いの場を設けてほしいと依頼し、この日の面談が実現した。

大助とさおりが学校に着くと、武川の案内で、いつもの会議室ではなく理事長室に通された。

待っていたのは、理事長の坪光正躬と、校長の清水だ。大助もさおりも二人と会うことを聞いておらず、驚いた。

坪光は、ソファに腰掛けながらこう述べた。

「このたびは大変お悲しみだったと思いますが、お悔やみ申し上げます。ご挨拶が遅れまして、申し訳ありません」

清水は「校長として一言ご挨拶申し上げます」と言い、立ち上がってこう続けた。

「このたびの勇斗くんの件に関しまして、学校側として勇斗くんの日常の様子、心の悩みに気づくことができませんで、勇斗くんが自死してしまったことについて、学校として非常に大きな責任を感じております。心からお詫びを申し上げ、謝罪させていただきます。本当に申し訳ありません。また、(自死した)4月20日以来、私の方からご挨拶が遅れましたことも、あわせてお許しをいただければと思います」

今後の対応については、こう述べた。

「これからのことについても、ご家族と十分相談をしながら、事を進めていきたいと思っております。また、今までと同様、この件に関しましては武川教頭が窓口になりますので、何かございましたら武川まで連絡をしていただきたいと思います」

すでに海星学園は、遺族の意向に背いて事を進めている。清水の「ご家族と十分相談をしながら、事を進めていきたい」という言葉が本当であれば、なぜ説明会の対象者を絞ったのか。なぜ、「遺書や手記を全て読み上げました」と嘘をついたのか。

大助が質そうとすると、ソファに座ったままの理事長・坪光が口を開いた。

「学校として、できる限りご希望に沿った形で、追悼の儀式を設けたいと思います。この学校はカトリックの学校ですので、キリスト教的雰囲気の中で追悼をして差し上げたい」

全く的外れな発言だった。遺族として、追悼やその様式について望んだことはない。まずは事実を公表してほしいと、繰り返し伝えてきたはずだ。だが、坪光には伝わらない。

「今後、子どもたちも保護者もお参りをしたいという気持ちを持っている方もおられるので、ご意向に沿いながら、さりげなくやりたいなと思います。教頭にどうぞおっしゃってください」

校長の清水も同調する。

「そちらの希望に沿いたいと思います」

ここで、二人は別室に移動させられる。促されるままに入った隣の部屋には、高校教頭の武川、中学教頭の川島、高校教頭補佐の大森保則が待っていた。

坪光と清水との対面時間は、わずか6分半だった。大助とさおりは、坪光や清水と話し足りなかった。学園理事長の坪光は、挨拶が遅れたことに対して詫びただけで、学内でのいじめについては謝罪していない。

海星学園・校長の清水政幸氏=海星学園『創立125周年記念誌』より

遺書の読み上げは「端折らないと30分以上かかる」

別室では、生徒のお参り方法などの事務的な話がなされた。

一通り話したところで、大助が切り出した。

「学校と遺族に温度差がある」

武川の話では、保護者に対しては遺書や手記を全て読み上げたという。だが参加した保護者によると、そうではなかった。内部進学生に対しても、読み上げたのは一部だけで、いじめの事実は伝えなかったと、大助とさおりの耳には入っていた。

大助は「今のままでは、真実は伝わっていない」と述べ、さおりもこう指摘した。

「今は内進生(内部進学生)だけですよね? 内進生だけでは、再発防止にならない。いろんなコースがあるし、全生徒さんに事実を知ってもらいたい」

だが、武川の返答は冷たかった。

「全生徒に言うときは、内容を端折ってやらないと、『主因はこれだよ』と言わないと、(全文読んだら)30分以上かかる」

その後も大助とさおりは、遺族としての思いを伝えた。いじめによって命を落とす子もいるということ、学校として今回の事案を再発防止に役立ててほしいということ、勇斗の死を無駄にしたくないという思いーー。

ところが、武川の口から出てきたのは、遺族が予想していない言葉だった。

「お父様お母様のお話を聞いててね、立派だなと思っています。熱意を受けて、私たちはおもしろ半分に扱っちゃいけないと思いました」

(つづく)

*敬称略

情報提供のお願い

 

本シリーズでは、長崎・海星学園で起きた福浦勇斗さん以外のいじめや自死についても報じていきます。海星学園で、これ以上の犠牲を出したくないからです。

 

そこで、海星学園でのいじめ及び自死についての情報を募ります。情報は、勇斗さんの事案か否かは問いません。海星学園の生徒、卒業生、保護者、教職員の方々は、ぜひご協力をお願いします。情報提供者の秘密は必ず守ります。

 

Tansaでは、情報提供に関する法律や注意点、ツールを公開しています。こちらのページをご確認の上、情報をお寄せください。よろしくお願いいたします。

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