保身の代償 ~長崎高2いじめ自死と大人たち~【学校編】

「いじめとは、私学では理事会が決定するので、簡単に返答しないこと」 長崎・海星学園の教頭が職員会議で伝えたこと(10)

2026年01月29日 22時05分  中川七海

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海星学園の「平成26年度 中学部会記録」(2015年3月23日)

「『突然死』ということにしてもいいかもしれませんね」

電話の向こう側で、海星学園高校の教頭・武川眞一郎は、確かにそう言った。

息子の福浦勇斗(はやと)の死は、同級生たちからのいじめを苦にした自死だ。教頭を務めるほどの人物が、このような提案をするものだろうか。大助は混乱し、適当に相槌を打って電話を切った。

だが、死因の改変提案は翌日も続いた。電話口の武川が言う。

「我々は遺族の意向に沿えれば、何でもできるんです」

「勇斗くんは『転校した』ということにもできます」

なぜここまでして、死因の改変を遺族に持ちかけるのか。それには理由があった。

海星学園が認めた「いじめが主因」

海星学園は、勇斗がいじめを受けていたこと、そのいじめが原因で自死したことを、遺族の前で認めてきた。

たとえば、勇斗の死から約2週間後の2017年5月6日。大助とさおりは海星学園を訪れた。高校教頭の武川眞一郎と、中学教頭の川島一麿が対応した。

大助たちは、勇斗の遺書とノートを持参した。いじめの内容や勇斗の心情、いじめ加害者の実名などが記されている。武川と川島に見せた上で、大助が尋ねた。

「これに関して、学校はいじめとして捉えているのですか」

答えたのは武川だ。

「これはいじめでしょうね」

「私たちは生徒に、相手がいじめだと認識したらそれはいじめだと言っています」

そうであればと、さおりは改めて尋ねた。

「県への報告は、どういうふうにするのですか。いじめで亡くなったと報告してくれるのですか」

武川が、勇斗のノートを指しながら答えた。

「それはそうです。これが出たらそうです」

9日後の5月15日には、勇斗の自死はいじめが主因であると、武川が述べた。

この日の面会は、大助たち遺族側から求めた。前週に海星学園は、勇斗の自死についての生徒向け説明会を開いたものの、参加対象者を中学からの内部進学生に絞っていた。全校生徒の3%にも満たない。その上、いじめが起きていたことすら伝えていなかった。

だが、勇斗へのいじめは中学から高校にかけて続いており、クラスを跨いで行われていた。全校生徒にいじめの事実を伝えるよう、さおりは訴えた。

「全校生徒には、原因がいじめであるということは伝えていただけるのでしょうか」

「今は内進生(内部進学生)だけですよね? 内進生だけでは、再発防止にならない。いろんなコースがあるし、全生徒さんに事実を知ってもらいたい」

武川の返答は、「全生徒に言うときは、内容を端折ってやらないと、『主因はこれだよ』と言わないと、(全文読んだら)30分以上かかる」。

では、「主因」は何なのか。武川が言った。

「いじめが主因であったと思う、と生徒に話さないといけない」

情報統制に執念

しかし、海星学園として「いじめ自死」を公にはしたくない。

そのために、様々な策を講じてきた。

一つが、マスコミ対応だ。

海星学園でいじめ自死事件が起きたことをマスコミに把握されると、広く報道されてしまう。そこで、勇斗の葬儀に同級生たちを呼ぼうとする遺族に対し、こう制した。

「生徒を呼ぶのはやめましょう。生徒を呼ぶと、やはりマスコミに情報が漏れるので」

学校に対してマスコミ各社から取材があった際も、「分からない」と答えてきた。

もう一つが、学校内の情報統制だ。

遺族は、勇斗のいじめ自死を約1500人の全校生徒とその保護者に公表するよう学校に求めていた。しかし、それだけ大勢の人に伝われば、どこかから情報が漏れる。マスコミにリークする人が現れる可能性だってある。

そこで学校は、勇斗と同じ中学からの内部進学生約40人とその保護者にのみ、勇斗の自死に関する説明会を実施した。生徒に対しては、勇斗がいじめられていたという事実も伏せた。

海星学園は、生徒たちの弔問もとり仕切った。内部進学生の中から希望者を募り、弔問日を割り振る。その一方で、「個人情報だから」と生徒たちに住所を教えなかった。

約1週間の弔問期間中、さおりのもとには同じような連絡が連日寄せられた。

「勇斗くんの弔問に伺いたいのですが、ご自宅の住所を教えていただけますか」

学校に聞いても教えてくれないからと、さおり本人や、さおりと親しい保護者のもとに、住所を尋ねる連絡が相次いだ。

弔問に来ても、いじめを苦に自死したことを学校に知らされていない生徒が多くおり、「どうして自殺しちゃったの?」と何度も尋ねられた。

さらには、勇斗のスマートフォンには「部活を辞めたの?」「学校を休んでいるの?」といった連絡が届いた。内部進学生以外の同級生は、勇斗が亡くなったことすら知らされていないのだ。

学校に止められ、葬儀に勇斗の同級生を呼べなかった遺族にとって、弔問は勇斗と友人たちの別れの挨拶の機会でもある。

しかし、遺族が望んだ対応では全くなかった。まるで、学校からの嫌がらせのようだった。

武川教頭「転校したことにもできます」

情報統制に躍起の海星学園は、一線を越える。

4月27日、大助は教頭の武川から、ある提案を受けた。

「マスコミも海星だとは気づいていないことですし、『突然死』ということにしてもいいかもしれませんね」

なぜ生徒の死因を偽ろうとするのか。とりあえず、手元にあった新聞の折り込みチラシの裏に「突然死」とメモした。その後の武川の言葉が耳に入ってこない。大助は適当に相槌を打ち、電話を切った。

隣にいた妻のさおりに、武川からの提案を告げる。

「武川先生に、『突然死』ということにしないかって言われた」

「はぁ?」

さおりは「ありえない」と驚いた。

武川からの執拗な提案は続く。

翌日の4月28日夕方、大助の携帯電話が鳴った。武川からだ。仕事中だった大助は、外回りのため車内にいた。車を路肩に停めて電話に出ると、武川は言った。

「テレビ取材が来ていましたが、自殺のことは聞かれませんでした」

この日、海星学園では体育祭が開かれた。地元のテレビ局などが体育祭の様子を撮影に来たという。

大助が気になるのは、昨日の「突然死」提案だ。勇斗の自死から1週間以上経っているが、学校側は未だに亡くなったことすら公表していない。大助は尋ねた。

「勇斗の自殺について、学校から生徒たちに、いつ説明するのですか」

すると、それまで穏やかだった武川の口調が変わった。興奮し、まくし立てるようにこう言った。

「我々は遺族の意向に沿えれば、何でもできるんです。従います。希望されるのであれば、勇斗くんは『転校した』ということにもできます」

川島教頭から教員たちへ

死因を偽ることは、法制度においても禁じられている。

なぜ、死因の改変という一線を越えてまで、いじめ自死が公になることを避けたがるのか。

実は、海星学園では、安易にいじめを認めないよう教職員らに共有されていた。

海星学園では、中学、高校ごとに教職員らが集まる会議が毎週1回実施される。

担任や教頭をはじめ20人ほどが参加し、行事の段取りや保護者対応を話し合ったり、気にかけなければいけない生徒について共有したり。学校運営に関する様々な事案についての情報が飛び交う。いじめに関する議題も少なくない。

勇斗が中学2年時の2015年3月23日、午後4時10分から会議が開かれた。教頭の川島を含む、17人の教職員が参加した。

2週間後からの新年度の業務について確認した後、クラス編成について話し合われた。

そこで、勇斗とは別の、いじめや学校生活に苦しむ生徒が俎上に載った。

もともと「いじめられやすいタイプ」であること、先生が怖くて不登校になったこと、「加害側」の生徒たちの情報などが共有された。

これらの報告を聞いた教頭の川島は、このように言った。

新年度は288名となる。これは地道に、今まで生徒募集をしてこられた先生方の活動の成果。教員一人一人が緊張感を持って指導に臨むことが大切。高校の定員を確保し続けるためにも、学校の内容を充実させる。

いじめに関しては、次のように述べた。

保護者対応は丁寧に。特にいじめ問題に関しては初動が大切。

 

いじめとは、私学では理事会が決定するので、簡単に返答しないこと。

(つづく)

*敬称略

情報提供のお願い

 

本シリーズでは、長崎・海星学園で起きた福浦勇斗さん以外のいじめや自死についても報じていきます。海星学園で、これ以上の犠牲を出したくないからです。

 

そこで、海星学園でのいじめ及び自死についての情報を募ります。情報は、勇斗さんの事案か否かは問いません。海星学園の生徒、卒業生、保護者、教職員の方々は、ぜひご協力をお願いします。情報提供者の秘密は必ず守ります。

 

Tansaでは、情報提供に関する法律や注意点、ツールを公開しています。こちらのページをご確認の上、情報をお寄せください。よろしくお願いいたします。

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