保身の代償 ~長崎高2いじめ自死と大人たち~【学校編】

「遺族が要望するから第三者委員会を設置する、って言っていたよ」 遺族不在の説明会で(12)

2026年02月12日 17時29分  中川七海

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福浦勇斗(はやと)の自死から2カ月。

海星学園は「遺族の意向に沿う」と口では言うものの、遺族が望むいじめ自死の公表や、第三者調査委員会の設置に乗り出そうとしないまま、勇斗の月命日を迎えた。

法律で定められた義務なのに

2017年6月20日、高校教頭・武川眞一郎、中学教頭・川島一麿、高校教頭補佐・大森保則が福浦家にやって来た。

これで何度目だろうか。勇斗の父・大助も母・さおりも、3人とは何度も顔を合わせている。なぜ、息子が亡くなった悲しみに浸る暇もなく、学校側との交渉を重ねなければいけないのか――。

遺族はこれまで、勇斗のいじめ自死の公表や第三者調査委員会の設置を、学校に求めてきた。

本来、勇斗のケースのような「いじめ重大事態」が発生した場合、学校は速やかに調査委員会を立ち上げ、事実関係を明らかにせねばならない。法律で定められた義務だ。

ところが海星学園は、調査に乗り出さないばかりか、制度を遺族に伝えてすらいなかった。遺族が自ら制度を調べ、学校の対応を指摘。学校に要請に出向いたり、調査委員会の設置を求める要望書を2度にわたって提出したりせねばならなかった。

遺族の訴えの末、海星学園はようやく、第三者調査委員会の立ち上げを決めた。

しかし、海星学園は第三者委員会での調査が嫌で仕方がないようだった。

10日前の6月10日、海星学園が勇斗の自死についての説明会を実施した。参加できるのは、勇斗と同じ中学からの内部進学生40人とその保護者のみ。

説明会では、勇斗がいじめを苦に自死したことが、生徒たちに初めて伝えられた。加害生徒の名前は伏せた上で、勇斗の遺書やノートが読み上げられた。

第三者委員会による調査では、加害生徒をはじめ、生徒へのアンケートやヒアリングなどが不可欠だ。保護者の承諾も得ることになる。海星学園は生徒や保護者にどう説明したのか。説明会に参加した友人から、さおりはこう伝えられた。

「遺族が要望するから第三者委員会を設置する、って言っていたよ」

生徒たちが調査対象になるのは遺族のせいだと言わんばかりの口ぶりだったという。

さおりは驚いた。第三者委員会による調査は、法律で定められている。学校が自ら行わねばならないもので、「遺族が要望したから実施する」ということ自体がおかしい。

自分自身や自分の子どもが「調査に巻き込まれる」といった不満が出た場合に、学校側が遺族の意向を言い訳として使いたいのだろう。さおりは思った。

「遺族を盾にした、保身じゃないか」

海星学園=長崎市で2025年4月19日、千金良航太郎撮影

月命日に声を荒げた武川教頭

6月20日、自宅にやって来た3人に対し、大助が切り出した。

「早いもので、2カ月が経ちます」

「第三者委員会を設けていただけるということで、説明会を開いたかと思うのですが、我々は参加できるわけでもないので。どんな感じだったのか教えていただけますか」

答えたのは、武川だ。しかし、はぐらかした。

「まず、あの、第三者委員会に医師が加わるかどうか――」

武川は、説明会の様子ではなく、第三者委員会の委員の構成について話を始めた。

委員の構成は重要だ。だが、大助が尋ねているのは説明会の様子だ。参加した友人からは、「遺族のせいで生徒が調査対象になる」と参加者たちが捉えるような内容だったと聞いている。

大助は委員の選定について一通り聞いた後、再び尋ねた。

「我々は説明会に出ていないので。どんな雰囲気だったか先ほどから聞いているのは、いろんな保護者さんから、校長先生が『遺族の方から第三者委員会を設けてほしいというお願いがあった』『それに伴って、生徒の聞き取りとかがあります』ということを伝えられた、と聞いたんですね」

「その言葉だけを聞くと、我々遺族がお願いしたから調査をやるのであって、学校としては、語弊があったら申し訳ないんですけど、やりたくないけどやってんだよ、というふうに思われていたのかな、と思ってですね」

答えたのは武川だ。

「5月6日に、私と川島は重大事態だからということで、県に報告して。翌日の日曜日は休みだったけど、県庁の職員も出てきて。ゴールデンウィーク中だったので。6日の晩には、各家族にはお電話してるんですよ。何日に緊急の保護者会を開くって。その段階で、学校としてはもう腹をくくってるわけですよ」

早口で捲し立てる武川。大助が「それで――」と口を挟もうとすると、武川は声を荒げ、こう言った。

「重大事態だと認めると、自動的に調査委員会を設置しないといけないんです!!」

さらに武川は、さおりが用意した文部科学省発行の「いじめの重大事態の調査に関するガイドライン」を指差し、さらに声を張って言った。

「だから、そこに重大事態が書いてあって、調査委員会発足というのがあって、その中にカウンセラーとか――」

大助は、武川が落ち着くまで聞き、こう確認した。

「学校としても、重大事態として受け止めて、第三者委員会を絶対やらなきゃいけないという認識だったということですか」

武川は「そうです」と答えた。

にわかには信じがたい返答だったが、武川の剣幕に押され、大助は引き下がった。

早く公表しないと「卒業してしまう」

面会は約1時間に及んだ。

武川は、当初から勇斗のいじめ自死を重大事態と認識していたと述べた。

そうであれば、なぜ未だに公表を避けるのか。

武川は「遺族の意向に沿う」と言いながら、遺族が望む全校生徒への周知を行わない。対外的には「突然死」や「転校」として公表する提案まで持ちかけてきた。第三者委員会の設置が決まると、第三者委の調査が終わってから公表するという。

さおりは、我慢ならなかった。自ら全国のいじめ自死の事例を調べ、第三者委員会の調査が長期にわたることを知っていた。武川たちに言う。

「委員会は20回とか、30回とか、ケースによっては50回とかもありますよね。1年とか2年とか。その結果を待って全校生徒に話をすると――」

さおりが話し終えないところで、武川が遮った。

「だからそれは、そこのところはまた話してね」

濁して先延ばしにしようとする。しかし、さおりは引き下がらない。

「あれだけ本人が遺していますからね」

さおりが示すのは、勇斗が遺したノートだ。いじめの時期、内容、加害生徒たちの実名、先生の言動、勇斗の気持ちなどが綴られていた。さおりが続ける。

「あれだけ実名入りのものを遺しているので、私たちから見れば、やっぱりいじめがあったとしか思えないんですよね。遺っていなければ、第三者委員会が調べてからっていう話にもなるでしょうけど。事実として伝えていただきたいって思うんですよね」

「校訓にもありますよね。『神愛・人間愛』でしたかね。学校の教育理念とは相反してると思うんですよね。ですから、全校生徒に伝えてもらいたい。伝えなければ、結局再発防止にはならないです」

「今この瞬間にも、いじめられている子がいるかもしれないし。うちの子の死を無駄にしたくないので、伝えてほしいんです」

さおりは、勇斗の弔問にやって来た保護者から、「うちの子も海星でいじめられていた」と聞いていた。

大助も訴える。

「第三者委員会の調査結果とは別にですね、真実を知りたいというのが遺族の考えですから。彼の文章からは、怒りが見えるんです」

「本校の校訓に相反してる部分だと思いますので、全校生徒に伝えていただきたいというのが遺族としての考えです。第三者委員会の結果を待ってからというのは、おそらくもう卒業しちゃうので」

さおりも言う。

「誰もいなくなりますよ」

(つづく)

*敬称略

情報提供のお願い

 

本シリーズでは、長崎・海星学園で起きた福浦勇斗さん以外のいじめや自死についても報じていきます。海星学園で、これ以上の犠牲を出したくないからです。

 

そこで、海星学園でのいじめ及び自死についての情報を募ります。情報は、勇斗さんの事案か否かは問いません。海星学園の生徒、卒業生、保護者、教職員の方々は、ぜひご協力をお願いします。情報提供者の秘密は必ず守ります。

 

Tansaでは、情報提供に関する法律や注意点、ツールを公開しています。こちらのページをご確認の上、情報をお寄せください。よろしくお願いいたします。

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