保身の代償 ~長崎高2いじめ自死と大人たち~【学校編】

「もう絶対にこれは、時が経つのを待っている」 遺族が確信した学校側の意図(14)

2026年03月05日 17時56分  中川七海

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福浦さおりさん=長崎市で2025年12月16日、千金良航太郎撮影

福浦勇斗(はやと)が、同級生たちからのいじめを苦に自ら命を絶ってから約5カ月が過ぎた。

2017年9月9日、母のさおり、父の大助、兄の直斗は海星学園を訪れた。学校に置いたままだった勇斗の持ち物を引き取るためだ。

海星学園はこれまで、7月7日に勇斗の自死を全校生徒に公表し、7月24日に第三者委員会を立ち上げた。いずれも遺族から再三にわたって要請されて実行した。「何かがおかしい」。さおりたちは、強い違和感を持った。

勇斗の持ち物を引き取りに来たこの日、遺族が抱いた違和感の正体がはっきりする。

「隠れて取りに行く必要はない」

高校教頭の武川眞一郎、教頭補佐の大森保則、副担任の髙比良政則の3人が、さおりたちを出迎えた。

教科書や体操着など、勇斗の荷物はまとめられていた。学校側が用意したダンボール箱に詰める作業は、1分もかからなかった。

武川たちがこれで完了かのような雰囲気を出し始めたところで、さおりが切り出した。

「ここの教室で過ごしたのは、10日間ですよね? ステラ館は見せてもらえないですか? ステラ館でいろいろ(いじめが)あったみたいですので」

勇斗は、高校2年に進級した直後の4月20日に亡くなった。中学入学から高校1年までを過ごしたのは、「ステラ館」という別校舎だ。いじめは中学生の時から続いていたから、勇斗はつらい日々の大半をステラ館で過ごしたことになる。

大助が続く。

「こちらとしても、遺書に書いていた『下の男子トイレから悪口を言う声が聞こえてきた』とか、やっぱり現場を見たいんです、どうしても。学校に来ることももうないと思うので、家族として見ておきたいな、って。ここの教室はわずか数日だったので。正直、荷物を取りに来るというのもあるのですが、学舎を見ておきたいっていうのがあるんです」

武川は、ステラ館の鍵を取りに向かった。その間にさおりたちは一旦車へ戻り、勇斗の荷物を置いてくることにした。

駐車場に向かっていると、数人の生徒とすれ違った。この日は土曜で学校は休みだったが、部活動の生徒が来ていたのだ。

突然、直斗が声をかけられた。

「どうしているんですか? お久しぶりです!」

勇斗より2学年上の直斗も、海星高校に通っていた。顔見知りの後輩たちが声をかけてくれた。直斗は、挨拶だけした。

学校側は、遺族が在校生と会うのを嫌がっていた。

1カ月前の初盆で、武川ら海星学園の教職員が福浦家へお参りにやって来た。そこで荷物の引き取り日を相談した際、武川が言った。

「生徒がいない時に教室に行かれたらどうですかね」

もちろん、授業に割り込むようなことは考えていない。しかし、武川の言い方にさおりは疑問を呈した。

「私たちも、生徒さんが全くいない時に行った方がいいのかなと思ったんですけど、私たちや勇斗が悪いことをしたわけではないので、コソコソと取りに行くのはおかしいんじゃないのかな、と」

「もちろん、授業中に行くような非常識なことはしませんが、たまたま生徒さんが放課後にいようが、正々堂々と。隠れて取りに行く必要はないのかな、と思っています」

「副担任だからあまり知らない」

ステラ館で、武川たちが待っていた。

さおりは、持参した勇斗の遺書やノートを鞄から取り出した。ノートに記されたいじめを受けていた場所、同級生に隠れておにぎりを食べていた場所などを見て回った。

一通り確認した後、さおりが聞いた。

「クラスでは、話し合いはされているんですかね? それとも、うちの子が亡くなってからそこ(いじめ)には触れないようにしているんですか?」

こう尋ねたのは、理由があった。

いじめ自死が起きた場合、学校は事実関係を明らかにし、その後の対応や再発防止のための調査委員会を設置することが、法律で定められている。

だが、海星学園は遺族が2度要請書を提出した末に、ようやく調査委員会を発足させたものの、再発防止については不透明なままだ。勇斗がいたクラスの中ですら、いじめに関する話題が全然出ていないことを、さおりは保護者づてに聞いていた。

副担任の髙比良が答えた。

「私は副担任だからあまり知らないんですけど、(各生徒に)個人的に話はしてるみたいですけど、全体的にはちょっと、担任が来ていないので分からない」

分からないでは困る。さおりは再度尋ねる。

「クラスや保護者会でも話はされていないんですかね? 亡くなったということは、お話しはされてると思いますけども。以前、担任の先生は『彼の気持ちをみんなに分かってもらわないといけない』ということをおっしゃってましたけど、いじめに触れなければ、再発防止にもなりませんよね」

「個別の面談はあって当然だと思うんですけれども、クラスとして向き合っていく姿勢は? どこまで話をされてるのか、と思うんです」

直斗も率直な意見を述べた。

「これってクラスの問題だと思うんですよ。個人的に話すのも大事ですけど、クラスで起こった問題なので、クラスで一度話さないと。いじめに関わっていない子も関わっている子も、一度みんなで話さないと意味がないと思うんですよ」

現れなかった担任

教頭の武川や副担任の髙比良に訴える一方で、さおりたちは虚しさを感じていた。この場に、担任の岩﨑孝治がいないからだ。

勇斗の自死後、さおりと大助が初めて学校を訪れた際も、なぜか岩﨑がいなかった。さおりたちが不思議に思っていると、岩﨑が遅れてやって来た。部活のシャツに短パン姿で、いかにも部活から抜けて来たような雰囲気だった。

今日も岩﨑は、部活の合宿に参加するため来なかった。

自分が受け持つクラスでいじめが起き、生徒が自死したという事態をどう考えているのか。勇斗のような犠牲者がまた出てしまうのではないか。さおりが言う。

「どこまで担任の先生が向き合っていらっしゃるのか、正直見えない部分があるといいますか。今日も合宿でいらっしゃらないというのは、それだけ部活に熱心なのであれば、クラスの中のことはもっと熱心なら良かったのにな、と思うんですよね。もう今更ですけど。もう亡くなってしまったので」

「私たちも現場を見させてもらいましたけど、担任の先生も見れば分かるわけですよね。遺書やノートをちゃんと読んでいれば。読んでいるかは分からないですけど、ここの現場だったんだとか、ここで本人がおにぎりを食べていたんだとか、ここで悪口を言われてたんだとか、この部屋でお腹にタブレットを向けられていたんだとか。その辺りもどういうふうに向き合っていらっしゃるのか」

大助も懸念を口にする。

「学校がいじめ自死に触れないようにして、我々は忘れ去られるっていうのがもう分かるんですよ。もう絶対にこれは、時が経つのを待っている。だから第三者委員会の設置をお願いしたんですよ。このままだったら風化されていくな、忘れ去られていくな、と」

「忘れ去られてしまうような気がして」

沈黙する武川たちを前に、直斗が口を開いた。

「僕が高3の時にクラスでいじめが起こって、その子は2学期から学校に来なくなった。その子は担任と副担任の先生に、いじめていた生徒2人の名前を言ってたので、その2人は1週間だけですけど、担任と副担任と一緒に朝掃除をしていた」

「クラスでも、そういうことが起こってしまったので、ホームルームや総合の時間で話し合いの場を持ったんですけど、勇斗のクラスでは話し合いとかはされてないんですか?」

副担任の髙比良が答えた。

「僕は把握していないですね。(話し合いを)したっていうのは」

さおりが言う。

「うちの子は命を落として、遺したノートにいじめた子の名前が具体的に出ているにもかかわらず、担任の先生によって対応が違うんですかね? 学校としての対応というのは無いんですかね?」

大助が続く。

「罰則というのは話が飛躍していますし、停学とか掃除だとかは学校側が判断することですが、我々が求めてるのは『向き合う』ということなんですね。クラスのことは担任の先生に任せておけ、ということなのか。直斗のクラスの例を聞くと、勇斗のクラスのことは『うーん』と思うんですよね。命を落としたことなのに。きつい言い方をすると、軽んじられているな、って感じたんですよね」

黙りこくる教職員らに、さおりが尋ねる。

「学校としては、担任の先生によって対応が違うっていうわけではないんですか?」

教頭の武川が答える。

「基本的には教室のことはクラス担任がやって。担任が取り上げたら、学年(会議)とか、いじめだったらいじめ委員会とか、そういう感じで動いてきています」

さおりは「じゃあ、直斗のクラスでのいじめの時は、学年(会議)とかそういうのできちんと対応されてたっていうことなんですかね?」と尋ねると、武川は語気を強めて言った。

「だから、その時の報告はちゃんと来てる」

つまり、勇斗へのいじめは担任が見抜けず、学校として対策が取れなかったということだ。あまりに無責任な武川の返事に、直斗が業を煮やして言った。

「教頭先生、さっき僕のクラスの件はちゃんと上で把握してるっておっしゃってましたけど、中学・高校合わせて1500人も生徒が在籍していれば、3人、4人くらい、今現在もいじめられてる子とか、それが原因で不登校の子とかいると思うんですよ。それもちゃんと把握した上で、何か対策は講じられていますか?」

武川は、直斗が言い終わらないうちに「だから」と遮り、こう答えた。

「だから、さっきも言ったように、担任から報告が上がってこないと分からない」

さおりが言う。

「そうですよね、教頭先生が直接クラスを見ているわけではないので。じゃあ、担任の先生が勇斗のことに向き合おうとしているのかどうかっていうのも、報告が上がってこないと分からないっていうことですよね? 実際にそのクラスで話し合ったりしているのかは分からないっていうことですね?」

武川は「具体的には(分からない)ですね」と答えた。

さおりが食い下がる。

「話し合っているかどうか私は聞きたいですね、担任の先生に。ちゃんと向き合っているのかどうか。でも報告がないってことは、多分されていないんでしょうね」

武川が言った。

「それは分からないです」

さおりは、武川たちには響かないと思いながらも、最後にこう告げた。

「クラスメイトたちは2年後に卒業ですよね。その時にはもう、学校として勇斗の事件がなかったことみたいな感じで忘れ去られてしまうような気がして。そしてまたいつの日か、同じように苦しんで亡くなる子がいた場合に、絶対私も後悔すると思うんですよね。あの時にもっと突き詰めておけばよかったって思うから」

(つづく)

*敬称略

情報提供のお願い

 

本シリーズでは、長崎・海星学園で起きた福浦勇斗さん以外のいじめや自死についても報じていきます。海星学園で、これ以上の犠牲を出したくないからです。

 

そこで、海星学園でのいじめ及び自死についての情報を募ります。情報は、勇斗さんの事案か否かは問いません。海星学園の生徒、卒業生、保護者、教職員の方々は、ぜひご協力をお願いします。情報提供者の秘密は必ず守ります。

 

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