「自殺を突然死や転校にするなんて、認められませんよ」 文科省が海星学園の対応を否定 長崎県は問題視せず(17)
2026年03月26日 14時24分 中川七海

文部科学省
福浦さおりは、電話の向こう側にいる人物に、息子がいじめ自死で亡くなったことや、その後の学校側の対応について相談した。
電話の相手は言った。
「自殺を突然死や転校にするなんて、認められませんよ」
意を決して文科省に電話
2017年11月、福浦勇斗(はやと)が亡くなってから7カ月が経過した。
遺族は海星学園の教職員とやりとりを重ねてきたが、学校側は一向にいじめ自死に向き合わない。
加害生徒への指導も、クラス全体での話し合いも、いくら遺族が要望しても学校は実施しない。
11月20日、月命日のお参りに自宅にやって来た校長の清水政幸らに嘆願したが、「第三者委員会に任せる」の一点張りだった。
学校側が繰り返し述べていた「遺族の意向に沿う」という言葉は、嘘だった。
11月24日、さおりは意を決して文部科学省・児童生徒指導課に電話をかけた。
さおりは、勇斗の自死以降の学校側の対応について伝えた上で、いくつか質問した。私立学校の場合は、全校生徒の保護者に対して自死の報告をする義務はないのか。私立学校であれば、自死を「突然死」や「転校」にすることが可能なのか――。
電話越しの児童生徒指導課の担当者は、さおりの言葉に丁寧に耳を傾け、答えた。
「国公立・私立関係なく、いじめに関する法律が適用されます。自殺を突然死や転校にするなんて、認められませんよ」
「県は一体、何をしているのですか。県の私学担当が指導監督するようになっているので、まずはそちらへ申し立ててください。それでも県が学校を指導しないようであれば、再度文科省に連絡をいただけますか。文科省から県に指導します」
県との初面会で

長崎県庁の庁舎
文科省との電話の後、さおりはすぐに行動した。
知人を頼りながら、県で私立学校を管轄する学事振興課への面会を取り付けた。
12月6日、長崎市内の会議室で会うことが決まった。
県からは、学事振興課の課長・松尾信哉と参事・松尾修がやって来た。学事振興課は、県庁職員に加え、県内の公立学校から出向してきた教職員らによって構成される。参事の松尾修も、もとは高校教員だ。学事振興課の職員を経たのち、教育現場に戻る。
挨拶を終え着席すると、大助はこれまでの経緯を連ねた書面を手渡し、こう切り出した。
「今回このような場を設けさせていただいた理由は、一言でいうと、学校が国のいじめ防止対策推進法や、県のいじめ防止基本方針を守っているとは思えないからです」
「学校は第三者委員会の調査結果を待ってから対応するとのことですけど、時間もかかりますし、学校としてきちんと対応していただきたいということで、監督者の学事振興課さんに申し出ました」
大助は書面を提示し、「学校からはどのような報告が上がっていますか」と尋ねた。
課長の松尾信哉は「基本的な事実関係や流れは学校の報告と同じですが、聞いていない話もあります」と言い、こう続けた。
「例えば4月27日、28日の『突然死にしてもいいかもしれない』や『転校にもできる』は漏れています」
死因の虚偽報告や隠蔽は、いじめ防止対策推進法に基づく、文科省のガイドライン違反だ。
ところが、参事の松尾修は問題視するどころか、こう述べた。
「生徒さんが自死された際に、遺族の様子によってはそういう形になることもあります。公表を望まないご遺族の方もいらっしゃるんで。例えば転校させるとか、遺族の意を汲んで話をされることもある」
課長の松尾信哉も、参事の松尾修の見解に同調した。
すかさず、大助は「それは違うでしょう」と言い、さおりが「文科省のガイドライン違反ですよ」と指摘した。言い合いの末、課長の松尾信哉は「すみません」と引き下がり、「今話したのは一般的な話なので、なしということで」。
だが、これは大事な部分だ。そもそも、勇斗の遺族は死因の変更を望んでいない。学校側から提案してきたのだ。大助が言う。
「この件を、第三者委員会に言ったんですね。第三者委員会からは、『百歩譲って例え話だとしても、遺族に対して突然死とか転校とか言うのはおかしい』と言われました」
課長の松尾信哉は「それは確かにそうですね」と認めた。
大助とさおりは、準備した書面をたどりながら、海星学園の言動を伝えていった。
当初は生徒説明会でいじめを隠そうとしていたこと、未だに加害生徒の指導をしていないこと、勇斗のクラスでの話し合いも行われていないこと、全校保護者への説明会を実施していないこと、再発防止のためにアンケートを実施しているが、今起きているいじめを見逃していること。
勇斗の自死後に行われたいじめに関する教員研修会で、勇斗の事例を取り上げなかったこと、遺族に連絡を取ろうとした教員が学校から止められたこと、勇斗の遺影が映るためか、例年ホームページに載せている慰霊祭の報告を今年は掲載しなかったこと――。
平行線の2時間
大助は、海星学園の対応が許されるのかを尋ねた。
「私学の独立性という部分で、法律やガイドライン違反があるにもかかわらず、県として指導せずに、全部学校に任せているのかなと感じるんです」
さおりも続ける。
「命よりも独立性の方が大事なんだな、と。公立学校であれば、教育委員会とかが入ると思うんですけど、私立の場合は独立性を重んじないといけないので、命に関することでも後回しみたいな」
課長の松尾信哉が答える。
「後回しということではないんですが、私学の独立性というのは一方で確かにあって。公立の場合は、県や教育委員会が学校設置者なので、設置者として注意・指導が入ることはあります。ただ、いじめの問題に対しては、(私学でも)しっかり対応していただかないとということは、当然いろんな場面で申し上げてですね、しっかりとやっていただくのは当然だと思っています」
では、県として海星学園にどう対応するのか。課長の松尾信哉が言う。
「私どもとしてですね、ご両親の意向を承って、(県から)学校にお話をしてですね、(遺族と)よく話をするようにと話を差し上げるのが最善のことかな、というふうに思っております」
だが、遺族と海星の話し合いでは埒が開かないから、県に指導を頼んでいるのだ。
大助は「県から指導はしないのですか」と尋ねた。
課長の松尾信哉が答える。
「こっちからですか。そこはもう基本的には学校の判断、学校法人の設置者の判断ですね。私学については、そこまではできない」
さおりが食い下がる。さおりは文科省との電話の後、自ら法律を調べてこの日に臨んだ。
「いじめ防止の法律やガイドラインがありますよね。私立学校といえども、県が指導するというふうになっていますよね」
課長・松尾信哉「例えばガイドラインに沿わないということであればですね、ガイドライン通りにしてください、という話はしています」
さおり「ガイドライン通りになっていないと思うんですけど」
参事・松尾修「もう一回真摯にお話をされてはどうですか、と県から海星に伝えることが、海星に対する支援なのかな、と」
大助「ガイドラインに則っていないので、これはもう県から指導していただかないと」
さおりと大助は、繰り返し訴えたが、両者の主張は平行線のまま約2時間の面会が終了した。
武川教頭「県に呼び出され、本当にショックでした」
12月7日の夕方、大助の携帯に学事振興課長・松尾信哉から電話が入った。
「海星学園の武川高校教頭と、川島中学教頭を県庁に呼び出して、ご遺族の申し出を伝えました」
だが大助は、松尾信哉の次の言葉に驚いた。
「お二人は真摯な対応でした。再度、学校側と話し合ってください」
大助が咄嗟に返す。
「学校とは今まで散々話してきましたが、遺族の意向に沿っていただけなかったんです。その結果、今回のように県との面会の場を求めたんです」
「これ以上、学校と遺族で話し合っていても平行線になるのは目に見えています。県も話し合いに立ち会ってください」
しかし松尾信哉は大助の要望への返事を濁し、電話を終えた。
翌日、また大助の携帯電話が鳴った。教頭の武川眞一郎だった。電話に出ると、武川が言った。
「昨日、県に呼び出され、本当にショックでした。私のどこが至らなかったのでしょうか。本当にショックです」
まるで、遺族が県に告げ口したかのような口ぶりだった。
(つづく)
*敬称略
保身の代償 ~長崎高2いじめ自死と大人たち~【学校編】一覧へ情報提供のお願い
本シリーズでは、長崎・海星学園で起きた福浦勇斗さん以外のいじめや自死についても報じていきます。海星学園で、これ以上の犠牲を出したくないからです。
そこで、海星学園でのいじめ及び自死についての情報を募ります。情報は、勇斗さんの事案か否かは問いません。海星学園の生徒、卒業生、保護者、教職員の方々は、ぜひご協力をお願いします。情報提供者の秘密は必ず守ります。
Tansaでは、情報提供に関する法律や注意点、ツールを公開しています。こちらのページをご確認の上、情報をお寄せください。よろしくお願いいたします。
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