保身の代償 ~長崎高2いじめ自死と大人たち~【学校編】

「学校から説明を受けていないのですか」 いじめ自死への給付金制度を知らせなかった海星学園(18)

2026年04月02日 17時21分  中川七海

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福浦さおりさん=長崎市で2025年12月16日、千金良航太郎撮影

息子が亡くなって7カ月。

福浦さおりは、子どものいじめ自死について調べる日々を過ごしていた。

遺族は息子・勇斗(はやと)のいじめ自死の公表や真相究明、再発防止を望んでいたが、海星学園も長崎県もまともに向き合おうとしない。

どうすれば、学校や県を動かすことができるだろうか。過去の事例からヒントを得ようと、新聞を遡って関連する記事を探したり、法制度を調べたり。退勤後には、毎日のように図書館に通った。

そんなある日、さおりはある制度を知る。

偶然知った群馬・桐生市の事案から

2017年11月中旬、さおりの姉が新聞記事の切り抜きを持って自宅にやって来た。

「こんな記事があったよ」

群馬県桐生市で起きた、いじめ自死の事案だった。2010年、小学6年生の児童が同級生からのいじめを苦に自ら命を絶ったという。

記事は2017年のものだった。「なぜ、事件から7年後の今になって?」。さおりは読み進めた。

遺族側が独立行政法人日本スポーツ振興センターに死亡見舞金の支払いを求めた訴訟において、東京高裁で和解が成立したーー

遺族のコメントも掲載されている。

親が安心して子どもを学校に送り出せるようになってほしい。そのためにも、なぜ自殺したのか、原因を究明して真実を明らかにし、その上で再発防止に取り組んでほしいーー

さおりと全く同じ思いを抱いていた。ただ気になったのは、遺族が「日本スポーツ振興センター」という機関を相手に裁判をしていた点だ。学校や県ではないうえ、そもそも聞いたことのない組織だった。

さおりは、日本スポーツ振興センターについて調べた。

センターは、文部科学省が管轄する独立行政法人だった。組織の名称の通り、スポーツの振興や児童・生徒の健康増進を図っているが、他にも重要な役割があった。

学校や幼稚園で起きた事故や自死に対する、医療費や見舞金の支給だ。保護者と学校側の掛金をもとにして、災害共済給付制度を運用している。

だが桐生市の事案では、センター側はいじめと自死の因果関係を否定し、見舞金を支給しなかった。そこで遺族は、市と県への損害賠償請求裁判に加え、センターも提訴したのだ。

子どものいじめ自死が起きても、その事実を認めたがらない学校や行政があとを絶たない。桐生市のケースをはじめ、2011年の「大津いじめ自殺事件」など、さおりは過去の事例を調べる中でよく理解していた。

災害共済給付制度は、遺族が死亡見舞金を受け取るかどうか以上に、学校や行政側がいじめ自死を認めるか否かの、子どもの尊厳に関わる非常に重要な制度ではないのかーー。

11月22日、さおりはセンターに電話で問い合わせた。

勇斗の事案について説明した上で、給付対象になるかを尋ねた。電話越しの職員が言う。

「いじめが原因で逝去されたのなら、給付金が支給されますよ」

「申請の時効が2年ですので、注意してくださいね」

「私立学校の場合は、学校が窓口になって請求することになっています。学校から説明を受けていないのですか」

学校が避けてきた給付金申請

12月20日、勇斗が亡くなって8カ月の月命日に、海星学園の教職員たちが福浦家にやって来た。

高校教頭の武川眞一郎、中学教頭の川島一麿、教頭補佐の大森保則、学年主任の木村英夫、担任の岩﨑孝治の5人だ。さおりと夫の大助が迎え入れた。

さおりは、災害共済給付制度について尋ねた。

「日本スポーツ振興センターというところから、電話はありましたか?」

さおりは、11月22日に初めて電話した後も、センターと連絡をとっていた。いくら待っても学校から説明がなされないため、センターが海星学園に問い合わせることになった。12月14日、センターからの問い合わせに、教頭の武川が「制度は知っていたが、遺族に説明するタイミングを伺っていた」と答えたことが、さおりの耳に入っていた。

武川が「ありました」と答えた。しかし、第三者委員会の調査報告書が出来上がるまでは申請しないという。つまり、数カ月、場合によっては1年以上先ということだ。

「申請を出すというのはできますけど、結局は報告書を添付しないといけない」

だが、この武川の説明は間違っている。さおりはセンターとの電話で、職員からこう伝えられていた。

「第三者委員会の調査結果を待っていたら、時効になります。報告書は後から送ってくだされば結構です。最終的な給付の可否はこちらで判断しますので、まずは申請の手続きを済ませてください」

さらにさおりは、法制度も調べていた。

いじめ防止対策推進法に基づいて文科省が発行した「いじめの重大事態の調査に関するガイドライン」では、第三者委員会の調査の前段階で、関係者に説明しなければならない事項が挙げられている。災害共済給付制度については、こう示されている。

独立行政法人日本スポーツ振興センターの災害共済給付の申請は、保護者に丁寧に説明を行った上で手続を進める。

さおりは、すかさず指摘する。

「いいえ、申請のほうが先です。報告書は後です」

武川は、ごまかしながらこう説明した。

「だから、それは時効を止めるために形式上申請できるという話はされました。時効が2年ですので、遅くなるようだったら申請を先にしてください、と」

遺族が尋ねて初めて

さおりは呆れながら問うた。

「制度をご存知の上で、なぜ私たちに説明がなかったのですか」

武川が答える。

「私は手続き上のことは知っておりました」

「まあまあ、お母さんの気持ちは分かりますけど、私はこの場では言えませんでした」

説明になっていない。さおりが指摘する。

「ガイドラインに載っていますよね。ご存知ですよね?」

武川が返す。

「ガイドラインには、十分説明を尽くして、その時期とかは学校側に任せて、とある。時効があるというのも知っておりましたので、2年間でしたので。まだ日にちがあると思ったので、だから時期を見てお話はできると思っていました」

だがガイドラインでは、調査前の説明事項として記載されている。さおりは印刷したガイドラインを指差しながら言った。

「これには、早めに説明するとなっていますよね」

すると武川は、さおりの言葉尻をとらえて返す。

「丁寧に説明しなさいとは書いていました。早めにという言葉はなかったので」

ガイドラインに沿えば、調査実施前にスポーツ振興センターからの給付金について、学校から遺族に説明しなければならない。

さおりは、学校側のそもそもの姿勢を問うた。

「普通、制度についてすぐに遺族に説明しますよね。私たちが尋ねたから、制度について今おっしゃった訳ですよね」

武川は「ですから」と言いつつ、学校側の非を認める。

「それは私が責められても仕方ないと思います。私はこの場では言えませんでした」

ところが今後、スポーツ振興センターへの申請を巡り、海星学園と遺族は亀裂を深めていくことになる。

(つづく)

*敬称略

情報提供のお願い

 

本シリーズでは、長崎・海星学園で起きた福浦勇斗さん以外のいじめや自死についても報じていきます。海星学園で、これ以上の犠牲を出したくないからです。

 

そこで、海星学園でのいじめ及び自死についての情報を募ります。情報は、勇斗さんの事案か否かは問いません。海星学園の生徒、卒業生、保護者、教職員の方々は、ぜひご協力をお願いします。情報提供者の秘密は必ず守ります。

 

Tansaでは、情報提供に関する法律や注意点、ツールを公開しています。こちらのページをご確認の上、情報をお寄せください。よろしくお願いいたします。

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